手に入れた材料たちを、あのかたに身につけていただくための最適なかたちにすることはできました。
 どの様なかたちにしたのかといいますと…いえ、それは全てがうまくいってから、です。
 そう、まだ肝心なことができていなくって…それは、その材料にあのかたの魔力を抑えるための力を込めること、です。
 その力を込めるには少し大掛かりな儀式が必要で、どこかひと気もなくって静かな、そして澄んだ空気の場所はないかと探します。
 あくまで合宿中ですから学園の中でどこかよい場所はないか探し回る私に、一つの建物が目に留まりました。
「この場所…人の気配もありませんし、何だか厳かな空気も感じます…。学園の中でしたら、この場所が最適かもしれませんね…」
 そう思って中へ入ったのは、何の用途で使うのかはよく解らない場所ながら床がよく磨かれた板になっている、そして十分な広さもある空間…。
 うん、誰もいませんし、ここでいたしましょう。
「では…」
 目を閉じて、少し魔力を開放…すると、私の身にまとっている服が学園の制服から変化いたします。
 普通の魔法を使う際にはこの様なことはないのですけれど、精霊としての力を大きく使う魔法を行使する際にはこの…私に似合っているとはあまり思えない、少し不思議な服装に変化してしまうみたいなのです。
 こんなこと、今までそういう魔法を使うことなんてありませんでしたから先日はじめて知りました…でも、ということは私にもあの本に書かれた魔法が使える、ということですよね…?
「私の魔力で、上手くいくといいのですけれど…いえ、絶対に成功させないといけませんよね…!」
 少し不安になってきましたけれど、その様な気持ちでは成功するわけありませんし、ここは心を落ち着けて…大きく深呼吸をします。
「私の中に眠る魔力を…あのかたの、ために…」
 私の力などがお役に立てるのでしたら、こんなに嬉しいことはないわけで…建物を包み込む様に結界を張った後、儀式を行うための呪文を唱えます。
「…ちょ、お前! 何しようとしてんだよ?」
「…えっ!?」
 と、不意にかかってきた声にびくっとして呪文を中断してしまい、その拍子に結界も消滅してしまいましたけれど、今の声って…!
「い、衣砂さ…えっ、あっ、あのっ、ど、どうして、ここに…!?」
 私の元へ駆け寄ってきたのは間違いなくあのかたで…さっきまで確かに誰もいなかったはずなのにどうしていらっしゃるのか解らず、あたふたしてしまいます。
「何か今日はここで寝たい気分だったんだよ。…で、お前は何してたんだ?」
 は、はぅ、どうしましょう、もちろん儀式をはじめられませんでしたから、あれが完成しているわけもなくって…!
「え、えっと、私は、その…な、何でもありませんっ」
 突然あのかたが現れて気が動転してしまったこともあって、慌てる気持ちをなかなか抑えられないままにそんなことを言ってしまいます。
「じ〜…」
 一方のあのかたは、私のことをじっと見つめてきていらして、どきどきが収まるどころか大きくなってきてしまいます…って、あっ!
「え、えっと、こ、これは、その…ほ、本当に、何でもなくって…!」
 服装が変化したままでしたことに気づいて、慌てて魔法力で元の制服姿へ戻りました。
「べ、別にあたしはコスプレが趣味でも気にしないぞ?」
「…コスプレ、です? えっと…?」
 あのかたのお言葉に聞き慣れない単語が出てきて、思わず首を傾げてしまいました。
「違うのか? あたしもよく解らないけど」
「その、よく解りませんけれど…」
 は、はぅ、そのことについては私も何とも言えなくなっちゃいますけれど…で、でもっ。
「あ、あのっ、もう少し、あと数日だけ、お待ちください…! そうしたら、きっと全てお話しできて、それに…あ、あなたの、お身体のことも、何とかできるはずですから…!」
 絶対に成功させなくってはいけません…けれど、もしダメでしたことを思うと、落胆させてしまわれるわけにはいかなくって、どうしても全てをお話しすることはできません…。
 でも、でも…あのかたのお力になりたい、絶対に成功させなければいけないっていう気持ちは抑えられるわけもなくって、そう言いながらも自然と目がうるんでしまいます。
 そんな私を…あのかたは、突然抱きしめてきました…!?
「えっ、い、衣砂さ…!」
「あたしの身体なんか、どうだっていいんだ…お前が心配で、エステルさえ笑ってくれるならそれでいいんだよ。だから、そんな顔すんな!」
 そして、強く抱きしめてくださりながら、その様なことまでおっしゃられるんです…!
「そ、そんな、何をおっしゃって…も、もったいない、です…うぅっ」
 ご自分が大変なはずですのに、私などのことを気遣ってくださるお気持ちがとっても嬉しくって、涙があふれてしまいます。
 でも、こんなやさしいあのかたのために、やっぱりお力にならなくっては…あれを成功させなくては、という気持ちもより強くなるのでした。


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