―冴草さんから教えていただけた、本人以外の力で魔力を抑える方法。
 私も一応魔法は使えますから魔力は持っていますし、教えていただけた二つの方法のどちらを取るにしても、何とかお力になれる気がしました。
 でも、それもきちんとした方法が解っていないと、私はともかくとしてもあのかたに悪い影響があってはいけません…ですから、そのあたりのことをしっかりと調べます。
 幸い、魔法関連の文献はこの学園の古いほうの図書館に豊富に揃っていて、目的さえはっきりしていれば調べる文献をかなり絞り込むことができそうでした。
 そうして見つけた一冊の古い本…そこには、精霊の力を用いて作ることのできる様々な魔法アイテムについて書かれていました。
 本来、精霊というものはこことは別の世界の存在らしいのですけれども、それでもこの様な本があるなんて、やはりこの学園はすごい場所です。
「あ、これは…」
 手にした本へ目を通す中、あるページで手を止め、そこの記述をよく読んでみます。
 そこに書かれていたのは、精霊の力をアイテムへ込めて、他の人の魔力を抑え込む方法…まさしく、私の探していたものです。
「私も、ハーフとはいえ一応精霊としての力を持っているみたいですし、この方法を使えば…」
 …うん、あのかたへは全く負担をかけることなく、魔力の制御ができそうです。

 さっそく文献の情報を頼りにして魔力の制御を行う道具を作ることにします。
 道具ということで、何もない状態からデザインをイメージして、そしてかたちにしていかなくってはいけなくって、そんなことをしたことのない私にとってはとっても大変そうですけれど、魔法で何とかできそうな気もします。
 それに、その前に解決しなければならない問題もあって…それは、道具を作るための材料を得ること。
 道具自体はある程度形状の自由も利くみたいなのですけれど、材質として宝玉が必須みたいなのです…魔力を使用するための媒体として宝石がとてもすぐれている、ということは知っていましたからそこに意外性はありませんでしたけれど、そんなものは持っていません。
 かといって購入をしようにも、そんな高いものを買うだけのお金なんて持っているはずもなくって…ですから、とある場所へやってきました。
「この森にでしたら、何か使えるものがあるかもしれません…」
 そこは学園からそう離れていない場所にあるとても広い森林地帯…しかもただの森ではなくって、かなり特殊な空気を感じます。
 魔力などを持った凶暴な生物も棲息しているといいますけれど、同時にこの地には他にはない力を持った植物や鉱物などもあるといいます。
 媒体となる宝玉、あるいはその代用となり得るものが、ここにはあるかもしれません…それに、もしここになくっても、ここのそばにある不思議な遺跡にでしたら、あるいは…。
 そのどちらの場所とも、とても危険ということであまり立ち入ってはいけないそうですけれども、あのかたのためなのですし、その様なことは言っていられません。
「…行ってみましょう」
 不気味な雰囲気の森を前にして少し怖くもなりましたけれど…一度大きく深呼吸をして、中へと足を踏み入れていきました。

 森の中には確かに他の場所には見られない植物などが多数あったものの、同時に凶暴な生物もたくさんいて危険なところでした。
 私の使う黒魔法まそのほとんどがいわゆる攻撃魔法なのですからこういうときにこそ役立てられる…はずなのですけれど、いざ何かを目の前にして使おうとしても、怖くなってしまって使えませんでした。
 私は、これまで一度も、人間はもちろん動物などにも攻撃魔法を放てたことはなかったのでした…だって、私の力で生きているものを傷つけるなんて、とても怖いこととしか思えなくって…。
 そんな情けない状態、でも何とか森の探索はしたくって、私が選んだのはいつも学園でしていたこと…つまり自分の姿を周囲の景色と同化させる魔法を使うこと、でした。
 合宿前は毎日使っていたその魔法、でも合宿期間中は使うことが禁止されてしまっていて、それはここでも例外ではないのかもしれません。
「…でも、あのかたのためなのですから」
 うん、ですから、このことで何か罰則などを受けることになっても、構いません。
 動物は人間以上に感覚にすぐれていますから、ただ姿を隠すだけではなくって、できる限り気配を消せる魔法も使って…これで大丈夫、でしょうか。

 魔法のおかげで度々遭遇してしまった猛獣たちにも襲われることなく、森の探索を行うことができました。
 普段以上に厳重な魔法をかけ、さらに道のない森の中を歩き続けたためにとても疲れてしまいましたけれど、何とか補習の時間までには帰ってくることができました。
 それに、長い時間探索をしただけの収穫もあって…こちらの世界には存在しないとされる特殊な金属と、あとごく少数ながら宝石も手に入りました。
 これらを使えば、目的に見合うものは十分に作れそうですけれど、でも…このまま、というわけにはいかないですよね。
「う〜ん…」
 ですから、その翌日…ひと気のない図書館の片隅で、手にペンを持ち机の上には紙を置いて、色々考えを巡らせます。
 考えているのは、アイテムの形状…あのかたに身につけていただくことになりますから、そのまま、あるいは適当なもの、というわけにはいきません。
 あのかたに身につけていただいて邪魔にならず、さらにお似合いになるもの…やはり、アクセサリにするのが一番に思えます。
 かたちにするのは、あまり複雑なものにならなければ魔法で何とかできそうですけれど、問題はデザインです。
「ペンダント…イヤリング、それとも指輪でしょうか…」
 デザイン以前にそこから考えなくってはいけなくって、紙の上に色々イメージしたものを描いていきます。
 あのかたが身につけて、そして似合うもの…い、いけません、想像したらなぜだかどきどきしてきてしまいました。


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