―坂上さんからお話をうかがっても、一応自分でも調べ続けてはいたのですけれども、めぼしい結果は得られませんでした。
「…でも、諦めるわけにはいきません」
 そう自分に言い聞かせ、午後に一度合宿所へ戻ってきました…と、その入口に何かが置いてあることに気づきました。
 きれいに包まれたそれはどうやら差し入れの様で、名前の書かれた紙もついていました…けれど、合宿所の中にはその指名されている人はおろか、誰の姿もありませんでした。
「どう、しましょう…」
 そのうちきっと戻ってくるとは思いますのでそのまま置いておいてもよかったのですけれど、指名されている人には私も少し聞きたいこともあったりしましたから、その包みを持って探すことにしました。
 でも、どこを探せば…と、ある方向から強力な魔力の波動を感じます。
 この感じは、おそらく…行ってみましょう。

 魔力を辿ってたどり着いたのは、学園内にある訓練所でした。
 中へ入ってみると、奥のほうにどなたかが一人でいるのが見えて、さらに炎の魔法を発動しているのが解りました。
「え、えっと、魔法の練習中みたいです、ね…。邪魔をしてはいけませんし、どうしましょう…」
 そこにいらしたのは探していた人だったのですけれど、そうした状況でしたから立ち尽くしてしまいます。
「…? あによ、何か用事?」
 と、その人、私に気づいてこちらへ歩み寄ってきます…!
「あっ、え、えと…」
 お邪魔をしてしまったのでは、と少し震えてしまいますけれども、でも気づかれてしまったのですからきちんと用件を…!
「そ、その、冴草さん宛に、この様なものが…えと、合宿所前に置いてありましたので…」
 その人…私と同じくトライアルに参加している冴草エリスさんに、持ってきたものを差し出しました。
「ありがとう、わざわざ悪いわね、届けてくれて」
「あ…い、いえ、そんな…」
 微笑みながら受け取っていただけましたので、緊張が少し解けました。
「それは…その、お弁当、です…?」
「うん、多分、叡那からの差し入れでしょ」
 そう答える彼女はどことなく幸せそう…。
「えっと、もしかして…その、大切なかたから、です…?」
「うん、最近会えてないから、これで少し元気出たわ」
 不躾な質問にも機嫌のよいお返事が返ってきました。
「そ、そうなんですか…それはよかったです」
 やっぱり、大切なかたからの差し入れだなんて、とっても嬉しいものですよね。
「あんたが羨ましいわ、合宿も恋人と一緒だものね」
「…えっ? こ、恋人、って…?」
 不意な言葉に完全に固まってしまいます。
「え? 東堂って人と付き合ってるんじゃないの?」
 不思議そうに首を傾げられてしまいました…って!
「…えっ、そ、そんなっ! さ、坂上さんもその様なことをおっしゃってきましたけれど、わ、私とあのかたとは、そ、そんな、こ、こい…そ、そういう関係じゃありませんから…!」
「真っ赤になって否定しなくっても…」
 微笑まれてしまいましたけれど、でもそんなこと…はぅ。
「でも、ということは、そうなる予定はあるのね?」
「なっ、そっ、そんな予定はありません…!」
 うぅ、どうしてそうなってしまうのでしょう…?
「だ、第一、私などとあのかたとでは、全然つり合いませんし…!」
「つり合うつり合わないで言ったら、私と叡那だってつり合わないわよ?」
「え、えっと、そう、なのです…?」
 私はお相手のかたのことを知らないので何とも言えないのですけれども、冴草さんでしたら心配なさそうな気が…。
「九条叡那、って結構有名人だと思ってたんだけど…っていうか同じクラスじゃなかった?」
「あっ、えと、その、クラスのかたのこととか、ほとんど認識していなくって…ごめんなさい…」
「…あんたがセブンに選ばれた理由が、解った気がするわ」
 はぅ、呆れられてしまいましたけれども、やっぱりすぐに解ってしまうみたいです…。
「まぁ、私も人のこと言えないけどね? 叡那と会うまで、あんまり人と関わりを持とうとしなかったし」
「そ、そう、なのです…?」
 続けられた言葉に少し不思議になってしまいました。
「ま、私のことはいいけど…とにかく、向こうのほうはあんたにメロメロみたいだけどね?」
 そ、そうですね、人の事情の詮索はしないほうがいいです…けど、向こうって…。
「…えっ、あ、あのかた、ですっ? そ、そんなこと、あるわけ…!」
「そう? 東堂って人も、あんた程じゃないけどしゃべらないし…というかいつも二人でいるじゃない」
「い、いえ、そ、それは私が勝手におそばにいるだけで…!」
 それだけであのかたが私に、だなんて…夢でもあり得ません…!
「ふ〜ん、まぁ、そういうことにしてあげるわ」
 よかった、解ってくださいまし…。
「でも、やっぱりあの人のこと好きなんじゃない。もう、素直じゃないんだから」
「い、いえ、それとこれとは…きゃっ!?」
 言葉を否定しようとした私ですけれど、それは途中で悲鳴に変わってしまいました。
 だって、冴草さんがいきなり私を抱きしめてきてしまったのですから…!
「あっ、あの、な、何を…!」
 あまりに唐突な、しかも全く意図の解らない行動に、私はただただあたふたしてしまいます。
「いや、何だかかわいく感じられちゃって?」
「なっ、な…!」
 言葉が出ませんけれど、私はかわいくなんてありませんし、そもそもかわいかったとしてもこんなことをするなんて…!
「それに、あんたって最近元気ない様子じゃない?」
 と、冴草さん、身体を離しながらそうおっしゃいます…?
「みんな心配してるんだからね?」
「そ、そう…なの、です…?」
 そうだとしても、抱きしめられた理由は解らないのですけれど…。
「だって、あんたあんまり合宿所で話さないじゃないの」
「あっ、それは、その…うぅ、ごめんなさい…」
 とはいっても、私は普段からそうですので元気がないというわけではありませんし、それ以上に…。
「でも、その、私は大丈夫ですし、それよりもあのかたのことのほうが、心配です…」
「今のところは姿が変わっただけみたいだけど、魔力が制御できてないみたいだから何が起こるか解んないわね…」
 その言葉の通り、あのかたのほうがずっと大変…幸い、合宿所の皆さんはあのかたのお姿が変わられたことは気にしていない様子で一安心なのですけれど、お姿が変わる以外に何か起こったらと思うと…。
「で、あんたはどうするつもりなの?」
「は、はい、何とか、魔力を制御する方法がないか、私も調べているのですけれど、今のところこれといった方法がなくって…」
 と、そこまで言ったところであることを思い出します。
「…あっ、その、坂上さんにうかがった話では、こういうことは冴草さんが詳しいとのことでしたけれど…」
「まぁ、こんなんでも一応魔王の娘ですから…なーんて、私も修行中の身だけどね?」
 私の言葉に微笑まれましたけれど、ということは将来的には魔王になられるの…なんて、そんなことは別にいいですよね。
「あっ、え、えっと、では、何かよい方法など、ございませんか…? もしありましたら、その…どうか、お教えくださいっ!」
 そう、大切なのはあのかたのお力になれるすべがあればそれを何とか知ることで、深々と頭を下げました。
「ちょっ、頭を上げなさいよ! 全く、もう…そんなに好きなら、結婚しちゃいなさいよ!」
「で、でも、何か方法があるのでしたら、どうか…って、えっ!?」
 頭を下げられて少し慌てる彼女になおも頼み込もうとしますけれど、途中で固まってしまいました。
 だ、だって、今の最後の言葉…!
「け、結婚、って…なっ、な…!」
 明らかに私へ対しての言葉で、一瞬あのかたとそうなる姿を想像してしまい…慌てて打ち消すものの顔が真っ赤になってしまいました。
「これで付き合ってないとか、冗談にしか聞こえないわよ…」
「…あ、あの、何かおっしゃいましたか? と、とにかく、け、結婚だなんて、誰と誰が…は、はぅ…!」
 この間坂上さんにも似たことを言われた気がしますけれど、どうしてそんなこと…!
「ふぅ、全く…とにかく、魔力の制御は心と身体のバランスなのよ」
 と、冴草さん、慌てる私を気にせずに話しはじめています…!
「多分、今の東堂先輩は魔力に身体がついていけてない状態だと思うの」
「そう、なのですか…。どうして急にそうなってしまわれたのか、気になってしまいますけれど、今はそれを考えても仕方ありませんし、それよりも、抑えることを考えないと…」
 何とか落ち着いて、説明へしっかり耳を傾けます。
「そうね、方法の一つとしては先輩の身体を鍛えることだけど、多分それだと遅すぎるの。だから…そうね、同程度の魔力で相殺するか、サポートアイテムで身体を補助するか」
 なるほど、その二つでしたら、きちんとした方法さえ調べれば私でもお力になれるかも…。
「私なら後者を推すわ? プレゼントにもなるしねっ」
「えっ、ぷ、プレゼント、って…」
 微笑む冴草さんに対し、私の胸は少し高鳴ってしまいました。
 あのかたへのプレゼント、なんて考えただけでもどきどきしますけれど、でも一番あのかたへの負担の少ない方法を、ですよね。
「え、えと、どちらの方法を取るにしても、少し考えて、できそうなことをしてみます…あの、冴草さん、本当にありがとうございます」
 希望への光をくださった冴草さん…感謝をしてもしきれず、深々と頭を下げたのでした。


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