日々図書館で調べものをしているのですけれど、それでもご迷惑にならない限りではあのかたのおそばにいさせてもらっています。
 お昼にお弁当を食べていただく、というのもすっかり日課になっていて…でもそれでも毎日どきどきして、そしてとっても幸せです。
 今日も、合宿所にあるお台所でお弁当を作って、完成しましたからさっそく、きっと屋上にいらっしゃるはずのあのかたへお届けしようと…。
「うに…今日も頑張ってるわねん」
 と、合宿所の居住スペースへ入ったところで声をかけられます…?
「…えっ? あっ、え、えっと、さ、坂上さん…い、いらしたのですっ?」
「最初からいたわよん? ひょっとして、気づかなかったのん?」
 あたふたしてしまう私にそう言うのは、ベッドの上で横になっていた、そしてトライアル参加者のお一人である坂上りそなさんでした。
「あっ、え、えっと、ごめんなさい、お料理を作っていましたから…!」
 それに、このお時間は皆さんだいたい外に出ていますし…あ、でも坂上さんはよくこうしてのんびりとしていらっしゃいますかも…?
「え、えと、その…お、お弁当、食べます…?」
「んう? いいの!?」
 慌てるあまりつい出た言葉にとっても喜ばれてしまいました。
「は、はい、少し多めに作ってありますから…」
「あ…でもこれ彼女さんに作ったんじゃないのん?」
「…って、えっ!? か、かか彼女さん、って…ど、どういうことです…!?」
「へ? だって、衣砂たんと付き合ってるんじゃないのん?」
「えっ…えっ?」
 何を言っているのかすぐには理解できなくって戸惑ってしまいました…けどっ。
「そっ、そそそんな…わ、私とあのかたは、えっと、そんな関係じゃ…! だ、第一、私なんかじゃあのかたには全然つり合いませんし…!」
 ようやく内容を理解するとともに、顔が真っ赤になってしまいました。
 だ、だって、そんな夢みたいなこと、あり得ないことですから…!
「え〜? そうは見えないというか、みんな噂してるわよん?」
「そ、そそそんなこと…! そ、それに、噂ってどういう…あっ、もしかして、あのかたのお姿が変わってしまったことについて…?」
 その可能性に思い至り、少し顔を青くしてしまいます。
「…ねえ? エステルちゃん、姿以外に変わったことはない?」
 と、一方の坂上さんも少し真剣な表情になります…?
「えっと、それってあのかたが、ですよね…? 今のところは、ないみたいですけれど…でも、魔力を抑えられなくってということですし、本当に大丈夫なのか、心配です…」
「そう…あそこまでの魔力がだだ漏れだと、他の魔物や人間とかに悪影響があるかもしれないし…」
「あっ…そういうことも考えられるのですね…」
 それほどのもの、やっぱりあのかたご自身にももっと悪い影響があるかもしれませんし、やっぱり私で何とかお力になれればよろしいのですけれど…。
「幸い、この合宿所には普通の人間がいないのが救いかしらん?」
 そう言って微笑まれましたけれど、それは魔力の影響を受けない、ということ…?
「でも、普通の人間がいない、って…あっ、そういえば、坂上さんは…」
 以前あのかたにおうかがいしたところでは…?
「んう? ダメよ、豆なんか投げられたら本当に死んじゃうから!」
「…えっ? そ、そんな、誰もそんなことはしませんけど…」
 唐突に、でも明るく言われた一言に少し戸惑ってしまいました…けど。
「…やっぱり、あのかたのおっしゃられたみたいに、坂上さんはすごいですね…」
 今のはきっと自分の種族の弱点を言ったのでしょうけれど、あんな明るくして…確かに、人との違いに悩んで逃げてばかりでした私とは全然…。
「すごい? 私、何か褒められる様なことしたかしらん?」
「あっ、い、いえ、気にしないでください…こ、こちらの話ですから」
 私も、少し前までほどには気にならなくなってきたでしょうか…あのかたが、気にしないとおっしゃってくださいましたから。

 そのあのかたに起きている異変について、やっぱりこのままだと悪影響がないか心配なわけですけれど、魔力の制御などについてなら、同じくトライアルに参加をしている冴草エリスさんが詳しいのでは、と坂上さんに教えていただけました。
 その冴草さん、魔王の娘というすごい存在みたいで、ただ者でない気配を感じたのも当然でしたのかも…ともかく、冴草さんへのご相談もしなければいけませんけれど、自分でももっと調べてみなきゃ。
「あの、そういえば坂上さん、お姿のことでないのでしたら、皆さん何を噂しているのです…?」
 冴草さんのことをうかがった後、ふと気になったことをたずねます。
 そのことでなくってよかったのですけれど、でも別のことでも何かおかしな噂があってはいけないと思いますから、きちんと聞いておかないと。
「んう? 何だか微笑ましいカップルだなぁ…って言ってるわよん?」
「…えっ!? ほ、微笑ましい…か、カップル、ですっ? どっ、どどどうして、えっと…!」
 そ、それって私とあのかたとのことを言って、いるのですよね…?
 そんなことを皆さんが言っているとか、信じられませんけれど…とにかくあたふたしてしまいました。
「あ〜…自覚がないならいいけどね」
 そんな私を、坂上さんは何とも言えない笑顔で見ています…?
「えっ、あ、あの、何でしょう、その反応は…? わ、私、もしかして、何かおかしかったりしました…?」
「んふふ。気にしないで、そのままの貴女でいればいいと思うわん」
「え、えっと…そう、なのです…?」
「そうなのよん?」
 うぅ、特におかしなところがないのでしたらいいのです…けど。
「え、えっと、私は、このままではいけないかもって思っているんですけど…う〜ん…」
 もっときちんと人と接したりできる様に、あまり昔のことを気にしすぎることのない様にしなきゃ…。
「へっ…あらん? もう、結婚とか気がはやいと思うんだけど…んふふ」
「…えっ、け、結婚? そ、それって、どういう…ま、まさか、えっと、そんなことないですよね…!」
 また唐突なことを言われて戸惑ってしまいましたけれど、私とあのかたとが…とか、そういうことをおっしゃってたわけじゃ、ないですよね?
 だって、確かに私はあのかたのことを、そうなれば夢みたいだって思うくらい好きですけど…って、はわっ。
「そんなことより、衣砂ちゃん待たせてるんじゃないのん?」
「…あっ、え、えっと、そうでした…!」
 ずいぶん話し込んでしまいましたし、急がなきゃ…!
「あ、あの、ごめんなさい、それにありがとうございました…では、失礼しますっ」
 お礼もそこそこに、慌てて合宿所を後にしてしまいました。
 お弁当を少し差し上げる、と言ったことも忘れて…。


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