皆さんが揃った後すぐに先生がやってきて、合宿が行われる場所へ案内をされました。
 その先生は、あのかたにこのトライアルの参加通知を渡していた如月葉月先生…と、それは別によかったのですけれど…。
「…先生?」「って、プレハブじゃないの!」「まさか、冗談だよな? この暑い時期に、中はどうなってんだ?」
 案内された先にあった建物を見て皆さん戸惑われてしまいましたけれど、確かにそこにあった建物はとても簡易的なもの…。
 中へ入ってもお布団くらいしか見当たらず、ちょっと殺風景…先生が言うには、ここから自分たちで色々改装をするのは構わないみたいですけれど…。
「…むぅ、エアコンを設置しちゃいましょうか」「さすがに倒れちゃったりしたらまずいしね〜?」「え〜と、そうね…でも扇風機は設置してあるみたいよ?」
 えっと、皆さん暑さの心配をしているみたい…。
 私は今までのローブ姿よりは今のほうが暑さの面ではまだ…と、そうです。
「あ、あの…ま、魔法で、涼しくできるかも、ですけど…」
 あのかたのお背中の後ろでまだ隠れてしまいつつ、おどおどと提案してみます。
「魔法か…めんどくせぇ」
「あっ、えっと、わ、私の魔法でここを涼しくすることはできるかな、って…ですから、その、あなたが使うことは…!」
 確かに面倒なことかもしれなくって、そんなことはさせられません。
「全く…それでお前が倒れたら意味ないだろ? ただでさえそういう魔法って体力使うのにさ…」
「そ、そんな、あなたのためでしたら、私はそのくらい…っ」
 お役に立てるのでしたら、本当にそのくらいは何でも…。
「別に扇風機でも十分だろ?」
 でも、あのかたはそうおっしゃって…私のことを心配してくださって、それはそれで嬉しいでしょうか。

 その建物の中で、先生がトライアルについての説明をしてくださいます。
 課題の他に日曜日以外には補習もあるらしいですけど、とはいっても午後などはある程度自由時間が設けられるそうです。
 他にも色々ありましたけれど、朝食と夕食は自分たちで作る、というお話があって…。
「…あたし、料理とか苦手なんだけど」
 それを聞いたあのかたが肩を落としてしまわれました。
「あっ、わ、私は作れますから…!」
「じゃあ、お前のごはんを楽しみにしてたらいいか?」
 思わず声をあげてしまった私に、あのかたはそう言って…頭をなでてくださいます?
「…えっ? わ、は、はぅ…」
 とっても恥ずかしくってどきどきしてしまいながらも、何とかうなずきます。
「でも、エステルばっかにやらせるのも不公平だよな?」
「わっ、私は、そんなの全然…!」
 気になるはずもなかったんですけど、先生の言葉で料理は当番制ということになりました。
 ちなみに、あのかた以外の皆さんはお料理の心配はないそうです。
「あ、あの、お弁当も、よければ毎日、その…」
 と、お昼は各自で自由に、とのことでしたので思わずそんな提案をしてしまいました。
「おぉ、いいのかよ」
「そ、その、あなたが、よければ…」
「たすかるよ」
 笑顔で言われて、私の胸は高鳴ってしまうのでした。

 そうして、先生からの説明も終わって…。
「そういや、リーダーみたいなの決めなくていいのか?」
 あのかたがそんなことを先生へたずねました。
「あらあら、リーダー…特には必要ないかと思っていたのですけれど、衣砂ちゃんがなってくださるのでしょうか〜」
「って、おいっ! 何であたしが…」
 えっ、あのかたが、リーダーに…?
 なぜだか、その瞬間、胸が締め付けられる感じがしてしまいました…。
「あらあら、言い出してくださったのですから〜。それで、してくださるのでしょうか〜」
「なっ、誰がやるかよ!」
 でも、あのかたのその一言でそのお話はなくなりましたから一安心…。
「…ん? どうしたんだよ?」
 と、そんな私を見たあのかたが声をかけてきます。
「い、いえ、何でも…」
「何だよ、言いたいことがあるなら言えよなぁ?」
「は、はぅ…り、リーダーになると、そばに私がいると迷惑に…」
 つぶやく様にそう言いかけてしまいます…けど。
「い、いえ、本当に何でも…!」
 はっとして慌てて否定します。
 だって、他の皆さんとあのかたとの接する機会が多くなるあまり私と一緒にいられなくなる、とか…完全に私のわがままですから。
「またくだらないこと考えてたんだろ?」
 よかったです、どうやらつぶやいた言葉は聞こえなかったみたい…ですけど。
「そっ、そんな、ことっ…」
 確かにくだらないことを考えていたのですけれど、そのこと以上に慣れない制服姿をじっと見られてしまって、とっても恥ずかしくなってきます。
「…お前は本当にかわいいな」
「…えっ!?」
 と、そんなことを言われながら頭をなでられてしまうものですから、胸のどきどきが一気に大きくなってしまいます。
 う、うぅ、私の姿、おかしかったりしないんでしょうか…。

 その日は先生が一人ひとりに面談をして、それで終わりになりました。
 私ももちろん受けて、課題についての説明を改めてされたりしました。
 私はやっぱり対人関係などがかなり問題とのことで、課題のほう…誰かの大切な願いを魔法で叶える、というのもそのあたりの良化を願って、という意味もあるみたいです。
 でも、私なんかの魔法でそんな大それたこと、本当にできるでしょうか…。
 できるのでしたら、やっぱりあのかたの願いを叶えてあげたいですけど…。


次のページへ…

ページ→1/2/3/4/5/6/7/8/9/10/11/12/13/14/15/16/17/18/19/20/21

物語topへ戻る