―夏休み、そして八月を迎え、ついにその日がやってきました。
そう、私、それにあのかたも参加をすることになった、天姫トライアル開始の日です。
事前に受け取った紙によれば、八月の一ヶ月間、参加者は一ヶ所に集まって生活をともにしなければならないそうで、それはつまり…あのかたと一つ屋根の下ですごす、ということになります。
それを思うととってもどきどきしてしまいますけれど、それと同じくらいの不安もあります。
トライアルには七人の生徒が選ばれるそうですからあのかた以外にも人がいるはずで、そのかたがたとも一緒に生活をしなければならない、ということになります。
しかも服装もきちんとああしないといけないっていいます…大丈夫でしょうか。
何より、出された課題を達成できなかった場合は学園を去らなければならないことになりますし、やっぱり不安な思いは尽きません。
でも、あのかたとお別れをしたりしないためには、何とか頑張らないと…その想いを強くして、集合場所へと向かいました。
集合場所…学園のグラウンド。
夕焼けに染まるその場所は、夏休みということもあって誰の姿もなく…どうやら私がはじめにきてしまったみたい。
でも、そのうち他の人たちもやってくるはずで…不安になってしまい、魔法で姿を周囲と同化させてしまうとともに、近くの木陰に隠れてしまいました。
そうして木陰から様子をうかがっていると、一人、二人と次第に人の姿が現れてくるのが見えました。
時間もそろそろ集合時間に近づいて、そこに集った人影は五つ…ですけれど、私はまだその場から動けませんでした。
だって、その人たちの中に私の見知った人…あのかたのお姿はありませんでしたし、他の人たちは親しげに声をかわしている様子で、その中へ入っていく勇気なんてありません…。
まだいらっしゃらないあのかた…もしかして、このままいらっしゃらないのでは…。
そう思ってしまうとさらに不安になってしまいます…と。
「あ〜…だるい」
そんな声をあげて皆さんへ歩み寄る、多少ラフな感じで制服を着たかたの姿…。
「あ…衣砂、さん…」
それは間違いなくあのかたで、いらしたことに安心します。
「貴女もトライアルに参加する生徒?」
「ん…そうだけど? というか、あたしが最後だと思ったんだが…」
すでに集っていた人たちの中のお一人から声をかけられています。
「う、うぅ、あ、あのかたもいらっしゃいましたし、私も行かなきゃ…」
何とか一歩を踏み出そうとします…けれど、動けません。
「で、でも、あんなたくさんの人の中に…はぅ」
もちろんきちんと姿を見せて、さらに今の服装で出ていかないといけないんですから…怖さで足がすくんでしまうんです。
「ええ、まだあと一人きてないみたいね…?」
「…って、またか」
一方のあのかたは、さっき声をかけた人の言葉にため息をついたかと思うと、こちらへ歩み寄ってきます…?
「全く…何してんだよ?」
「あ…あ、あ…!」
そして、いつもの様にいつの間にか私の魔法は解除されてしまいました…。
「は、はぅ、そ、その…っ」
今日の私はいつものローブ姿じゃなく、皆さんと同じ制服姿で…そんな格好を見られるのはもちろんはじめてで、恥ずかしさのあまりうつむいてしまいます。
しかも、突然現れた様に見える私に、他の皆さんが注目してしまっています…!
「ったく、一緒に頑張るって言ったじゃねーか! いくぞ?」
そんな私に対して、あのかたはそう言いながら手を取って、他の人たちのところへ引っ張っていきます…!
「わっ、え、えと、は、はい…」
手を握られてどきどきしてしまいます…それに、一緒に頑張るなんて、嬉しい…。
「あら、そちらのお二人はお知り合い?」
そんなことを思っている間に皆さんのところへ連れられて、声をかけられてしまいます。
「まぁ、な…?」
あのかたは私の手を離しつつお返事しますけど、私は声が出ませんでした…。
「とにかく、これで七人揃ったみたいね…先生もきてないし、自己紹介でもしておきます? あたしは中等部三年の雪乃ティナよ?」
と、あのかたと声を交わしたりしていた人がそう名乗りましたけど、その人は長めの髪をツインテールにしたスタイルもいい人で、見たところトライアルに選ばれてしまう様な人には見えませんかも…?
「私は高等部二年の坂上りそなよん? よろしくね〜」
明るく元気に挨拶をするのは、ちょっと背の高めで髪をポニーテールにした人。
「えと、高等部一年の松永いちごです…よろしくお願いしますぅ」
そう名乗るのは長めの髪なかわいらしい女の子。
「まぁ、今更な感じがするけど…中等部三年の冴草エリスよ?」
少し背の低めな、でもただ者でない気配を感じる人…ですけど、今の言葉からして、ここの皆さんは顔見知りが多いのでしょうか。
「中等部三年の真田幸菜です。よろしくお願いします」
あっ、そういえば、選ばれるのは高等部の生徒だけではないみたい…。
「あたしは、高等部二年の東堂衣砂だ」
あのかたも名乗って、残るは私だけになってしまいました。
「ほら、エステルも」
思わずあのかたのお背中の後ろへ隠れてしまいそうになりますけれど、そう促されます。
「あ、あの…こ、高等部一年の、エステル・ティターナです…」
何とか名乗ることはできましたけれど、やっぱりとっても緊張してしまって…あのかたのお背中の後ろへ隠れたままでになってしまいました。
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