〜二人の魔法少女?〜

 ―私、エステル・ティターナは長い間一人で旅をしてきましたけれど、つい最近私立天姫学園という学校へ通うこととなりました。
 学校に通うなんて、もちろんこれがはじめてのこと…この学校にはとても大きな図書室もありとっても興味深いです。
 それに、この学校の生徒たちはいずれも何らかの特殊能力を持っていて、私みたいに魔法を使える人…さらには人間でない人もいらっしゃいます。
 ですから、この場所では私も異端ではない…の、ですけれども…。

「…ふぅ、ちょっと疲れました」
 放課後、よく晴れた空の下…私は校舎の屋上へとやってきて、そこで今まで自分にかけていた魔法を解きます。
 すると、今まで周囲の景色と完全に同化していた中に、真っ黒なローブに全身を包み込んだ人影が現れます…なんて、それが私なのですけれども。
 そう、私は学校にいる間、基本的にずっと魔法で姿を消してしまっています…ですので他の生徒などとお話しする機会などもありません。
 それに、万一魔法が解けても、こうしてローブを着ていれば顔を見られることはない…この学校で私は別に異端ではないと解ってはいるんですけど、でもやっぱり過去の経験や記憶をそう簡単に忘れることはできなくって、こうして人の視線を避けています。
 でも、さすがにずっと魔法を使い続けでは力を消費してしまい、それにローブをずっと着ていると少し暑いですから、お昼休みや放課後はこの屋上へきて一休みしています。
「ここは、風が心地いいですね…」
 ローブのフード部分を脱いで、心地よい空気を感じます。
 静かな空間で、少しのんびり…と、そう遠くない場所から物音が聞こえました?
「えっ、だ、誰かきました…?」
 まだそうと決まったわけではないんですけど、でも慌ててフードをかぶりなおし、さらに魔法で周囲の景色と同化します。
「…ん? 今、何か聞こえた様な…」
 と、さらにそんな声まで聞こえましたからそちらへ目をやると、屋上の入口あたりに誰かがいるのが見えました。
 今まで何度かきて誰とも会わなかった場所なのに、人がきちゃうなんて…!
 でも、大丈夫…あちらの人に私の姿は見えないはずです。
 一応その人の姿を確認しますと、私に較べると背の高い、そしてこの学校の高等部な制服を、でもちょっと雑な感じに着た女の子だったのですけれど、その場であたりを見回すものですからどきどきしてしまいます。
「…なるほどな。全く、面倒くせぇ」
 と、その人、そう呟いたかと思うと、ポケットから何かを取り出してそれを操作しはじめました。
 あれは、確か携帯電話という通信機器でしたでしょうか…ともかく、どうやら気づかれなかったみたいです。
 うん、それの操作に夢中になっているみたいですし、今のうちに立ち去りましょう…なるべく物音を立てない様にしつつほうきを取り出して…。
「…送信」
 と、その人が携帯電話の操作を終えたと思われる瞬間、彼女を中心にあたりが光に包まれました…?
 光はすぐに消えていきました…けれども。
「…えっ、えっ? う、嘘、魔法が…!」
 なぜか私の魔法が解除されていて、普通に姿が見える様になってしまっていたんです…!
 自分では絶対に解除していないのにそうなってしまいましたから、気が動転してしまいます。
「…コソコソと、隠れて何やってるんだよ?」
 当然屋上に現れた人にも気づかれてしまい、その人はこちらへ歩み寄ってきてしまいます。
「あ、あの、その、私は…! わ、私の魔法を解除したのは…あ、あなた、なのです?」
 きっとあの光の作用なのだと思いますけれど、この人の力なのか、それともあの携帯電話の様なものの力…?
 そもそも、あの様なことをしたということは、姿を消した私の存在に気づいていたの?
「さぁな、だったら何なんだよ?」
「あっ、い、いえ…ごめんなさい、何でもありません…」
 気になることはたくさんありましたけれど、きつい口調、そして鋭い視線を向けられて、私は何も言い返せませんでした…。
「で、隠れて何してたんだよ? 理由を聞こうじゃんか」
「い、いえ、何もしていません…」
「ふん、だったら何で魔法で姿消してたんだよ? おかしいだろ」
「そ、それは…人と、会いたくなかったから…」
 きつい口調で詰め寄られて、怖さで私の声はどんどん小さくなっていきます。
「ふん、人見知りか、いい年して」
「ご、ごめんなさい…で、でも、私なんかがいるとお邪魔になるだけだと思いますし、これで失礼いたしますね…?」
 誰かいる以上、ここは私の居場所じゃない…ですから、空を飛ぶためのほうきを手にしました。
「何だよ、思い込みの激しい奴だな。それに暗いなぁ、お前…ま、あたしには関係ねーけど?」
「は、はい、その、お邪魔して申し訳ありませんでした…失礼します…」
 フードをかぶっていても視線が怖くって、しっかりフードをかぶりなおしてからうつむいたままほうきに乗って、そのままゆっくり飛び立ちます。
「…全く、そんなに自分が嫌いかよ」
 と、そんな私の背に、その人の呟きが届きました。
「じゃあな…お前を見てると、あたしに似ててイライラするから」
 …えっ?
 続けて届いた小さな声…全く意味が解らず思わず振り向きそうになりましたけれど、でも結局そうすることもできず、その場を飛び去ったのでした。

 ―思えば、私がこの学校へきて誰かと一言以上会話をしたのは、それがはじめてだったと思います。
 それ以上に、その人が最後に呟いた言葉の意味…気になります。
 でも、明らかに私のせいでその人は不快になっていましたし、そうでなくっても私から聞きに行く勇気なんてとてもありませんでしたから…もう会うこともないんですよねって、それで考えるのをやめておいたんです。


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