〜待ち人来…たる?〜

「ティナおねえちゃん、どうしたの?」
「…え、何がよ?」
 ―とある町の上空。
 妹のティセと魔法の稽古をしていたんだけど、不意にそんな声をかけられてしまった。
「うん、最近ちょっと元気ないみたいに感じられて…」
「…そう? そんなことないわよ…それより、今日の稽古はこのくらいにしとくわよ?」
「わわっ、うん、ならいいんだけど…じゃあティセはちょっとお散歩してくるけど、ティナおねえちゃんもくる?」
「…いや、あたしはいいわ。気をつけて行ってきなさいよね?」
「うん、いってきま〜すっ」
 バリアジャケット姿のままで飛び去っていくティセを見送る…相変わらず元気ね。
 でも、あたしの元気がない、か…やっぱ、解っちゃうのね。

「…ふぅ」
 神社の境内に降り立つあたし…雪乃ティナは、その神社の巫女の見習いをしていたり、近くにある学園へ通っていたりする。
 さっきも稽古してた通り魔法が使えたりするけど、それはこのあたりじゃそう珍しいことじゃなかったりする…っと、それはともかく、境内の真ん中であたりを見回してみるんだけど…。
「…誰も、いないわね」
 この神社には紅玉の巫女と呼ばれる叡那さんとか、メイドをしているねころ姉さんとかもいるんだけど、あたしが探してるのは…あたしの恋人の、閃那のこと。
 いつもは学園の学生寮で毎日一緒に生活してるんだけど、この数日間は会えない日々が続いてる。
 それは、彼女が元の世界へ帰っているから…元の世界といっても異世界とかそんなんじゃなくって、彼女は本来未来の世界の住人なの。
 帰ってくるときは、まずこの場所に現れるはずで…でも、まだ現れる様子はない。
「数日離れ離れになるだけで、こんなにさみしく感じちゃうなんてね…」
 もう、毎日一緒にいるのが当たり前みたいになってたから…本当につらい。
 まさか、何かあって、もう二度と会えなくなっちゃったり…。
「…って、な、何を考えてるのよ!」
 そんなこと、あるわけないんだから…!
 でも、とにかくはやく会いたい…会って、閃那がそばにいるってことを感じたい…。
 抑えてた想い…でも、それももう限界…。

「…閃那、会いたい…んっ…」
 誰もいない森の奥…あたしは一人、木の根元に腰かけて、彼女のことを想う。
 どんどん切なさがあふれてきて…彼女と一緒に過ごした時間を思い出しながら、普段しない様なことをしてしまう。
「せ、閃那…んっ…」
「…私が、どうしたんですか?」
 不意に届いた聞き覚えのある声に顔を上げると…。
「えっ…閃那?」
 ずっと会いたいと思っていた人の姿が、すぐ目の前にあった。
 これは、幻…じゃ、ないっ!?
「…んなっ、な、なななな…!」
 どうしてこんなことになってるのかわけが解らなくなって、思わず立ち上がって後ずさりするけど背後は木だった…。
「ティナさん…えっと、こんなところで何してたんですか?」
 そこにいるのは間違いなく閃那なんだけど、よりにもよってこんなとこ…!
「ちっ、違う…何にもしてないわよっ。せ、閃那こそ、こんなとこで何して…!」
「私は、挙動不審だったティナさんの後をついてきただけですけど…でも、私には何かをしている様に見えましたよ?」
 うっ、気配を感じることさえ忘れていたなんて、なんてこと…。
「な、だ、だから何も…そもそも、それならそのとき声をかけてくれれば…!」
「あんな状況じゃ、声なんてかけられませんよ…あんなに切ない声で私の名前を呼びながら、何をしていたんですか?」
「そっ、それは、何でもないって…とっ、とにかく、ほ、補習のほうはどうだったのよ?」
「もう、そんなことは後です…とにかく、こんな場所であんなことして、誰かに見られたらどうするんですか?」
 話をそらせようとしたのも通じず…すっと抱きしめられてしまった。
「えっ、せ、閃那っ!?」
「そんなに恥ずかしがらなくっても、いいんですよ…さみしかったのは、ティナさんだけじゃないんですから、ね?」
 彼女のぬくもりを感じる…そう、よね…。
「え、ええ…おかえり、閃那…?」
「はぅ、ただいま、ティナ…」
 それ以上は言葉にならなくって…互いの唇を重ね合わせた。

「…で、補習のほうはどうだったのよ?」
 森から出て、学生寮へ向け…手をつないで歩いていく。
 ちなみに、彼女が未来へ帰っていったのは、そちらの学校での授業を行うため…補習というかたちで、ときどき帰って試験を受けている。
「はい、ばっちりでした」
「そう、それならよかったわ。一緒に勉強してあげた甲斐があったわね」
「はい、ありがとうございます」
 さみしい思いをした甲斐もあった、ってとこかしら…と、前からずっと気になってることがあるのよね。
「にしても、こうやって時間を行き来できるなら、未来に帰った日に戻ってきてくれればいいじゃない。そうすれば、あんなさみしい思いをしなくっても…」
「う〜ん、でも、私はあっちで数日過ごしてますし、ティナさんはよくっても私はさみしいままですよ?」
「ま、まぁ、確かにそうだけど…」
「それに、そんなことしたら、私ばかりどんどん歳を取っていっちゃうじゃないですか。そんなのは嫌です」
 えっと…あ、ああ、確かにそうなるのか。
 何だかややこしいわ…あたしがついていくって手もあるんだけど、未来に行くのってあんまりよくないと思うのよね…。
 そもそも、将来のあたしたちって、現在と未来のどっちで生活することになるのかしら。
 閃那のいる時代に、未来のあたしはいるのかしら…う〜ん、考えれば考えるほどややこしいわ。
「そんなに深く考えなくってもいいじゃないですか。こうして私たちが一緒にいられることが、大切なんですから」
「そう、ね…」
 こうして彼女が戻ってきてくれて、一緒にいられる…これ以上の幸せはないわよね。
 これからも、ずっと一緒に…閃那、大好きなんだから。
「でも、さっきはびっくりしましたけど…うふふっ、あんなティナさんが見られるなんて」
「…んなっ、あ、あれは…さっさと忘れなさいっ」
「無理です、私の心のアルバムに保存しましたし、墓場まで持ってきますよっ」
「なっ…やめなさい、すぐに消しなさいっ!」
「もう、そんな向きにならなくっても…大丈夫です、帰ったら、私のも見せてあげますから」
「んなっ、ばっ、馬鹿なこと言わないのっ!」
 本気でそんなことしないわよね、もう…!


    -fin-

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