〜アサミーナとかなさまと風邪ひきの日〜
「…麻美、朝ですよ? 起きて起きてください」
―すぐそばから聞こえる、とってもかわいらしい声…それにうながされて、私の意識が呼び起こされます。
「んっ…夏梛、ちゃん…?」
「おはようございます、麻美?」
「ん…うん、おはよ、夏梛ちゃん」
目を覚ますと、ベッドの隣に立って私を見る、大好きな子の姿…。
「珍しいです、麻美が私よりも起きるのが遅い遅いなんて」
そのあの子がそう言う様に、普段は私のほうがはやく起きて彼女を起こすことが多いです。
「でもでも、おかげで麻美の寝顔を…はわはわ、何でも何でもないですっ」
「わ…夏梛ちゃんったら、もう…」
あんなかわいい声に起こされて私も嬉しいですし、こういうのもいいですね…。
でも、昨日は夜更かししたわけでもないのに、どうして起きられなかったのでしょう…と、まずは起きないと。
「って、あれっ…はぅっ」
身体を起こそうとしましたけれど、何だか力が入らなくって、少し起き上がったところで倒れこんじゃいました。
「えっ…麻美、どうしたんです?」
「う、ううん、何でもないよ?」
今度は何とか上半身を起こせましたけれど、何だか身体が熱くて頭もちょっとぼ〜っとする様な…。
「…じぃ〜」
「…って、わ、か、夏梛ちゃん、どうしたの?」
気づくと、あの子が私のことをじっと見つめてきていました。
「…麻美、もしかして風邪ひいちゃったんじゃないですか?」
「えっ、そ、そんなことないと思うよ? 私、いつもどおりですし」
思わずそんなお返事をしちゃいました。
「本当本当です? 顔も赤い赤いですし…」
「そ、それは、夏梛ちゃんに見つめられたから…」
「はぅはぅ…と、とにかくとにかく、熱を測ってみましょう」
「う、ううん、そんなことしなくっても…」
でも、身体に力が入らなくって、夏梛ちゃんの行動を止めることはできませんでした。
「…三十八度とちょっと、ありますね」
私が差し出した体温計を見て、あの子はそう口にしました。
「むぅ〜…やっぱりやっぱり風邪ひいてるじゃないですか。どうしてどうしてあんなこと言ったんです?」
さすがにそんな体温じゃ誤魔化せないですよね…気のせいか何かならいいな、って思ってましたのに。
「え、えっと…今日はお仕事だし、それなのに風邪でお休みしてご迷惑とかかけたくないです、って…」
「もうもうっ、風邪で声が出ないのにお仕事したらかえって迷惑迷惑ですっ」
「う、うん、そうですよね…ごめんね、夏梛ちゃん。今日は夏梛ちゃんと一緒にお仕事できるはずだったから、それができなくなるのは嫌だって思っちゃって…」
それで、夏梛ちゃんと一緒にいられるなら多少の無理は、って考えちゃって…。
「も、もうもうっ、そ、それは私もさみしいさみしいですけど、でもでも麻美の健康のほうが大切大切なんですからねっ?」
はぅ、顔を赤くして照れちゃう夏梛ちゃん、かわいい…と、そうじゃなくって。
「ですからですから、今日はゆっくりゆっくりお休みしててください。いいですよね?」
「う、うん…」
私のことをこんなに心配してくれることが嬉しくもあり、その言葉にうなずくしかありませんでした。
熱はありますけどその他の症状はそれほどひどくないということもあって、ひとまず病院へは行かずにお薬を飲んで安静にしていることになりました。
事務所へは夏梛ちゃんから連絡をしてくれて、その彼女もお仕事のためにその事務所へ出かけてしまって、私一人残されます。
安静にしていなくってはいけませんから、お布団に入ってじっとしていますけれど…。
「はぅ、夏梛ちゃん…」
本当でしたら今日は彼女と一緒にお仕事をしていたはずで、そのことを思うととってもさみしくなってきてしまいます。
こんなときに風邪をひいてしまうなんて…はやく元気にならないと、いけませんよね。
「んっ…」
いつの間にか眠っていたみたいで、気がついて時計へ目をやりますとお昼をすでに過ぎていました。
「夏梛、ちゃん…」
やっぱり頭に思い浮かぶのはあの子のこと…。
今頃、お仕事を頑張っていますよね…なのに私はこうして何もしていないんですから、情けなくもなってしまいます。
お薬を飲んで少し眠ったおかげで体調も良くなった気がしますし、このまま何もせずに過ごす、というのは申し訳ありません。
さすがに今からお仕事へ向かうのは無理ですけど、お家の中で動くくらいでしたらできそうです。
「うん、じゃあさっそく…」
身体を起こしてベッドから出ますけれど…うん、特にふらついたりしませんし、大丈夫そう。
まずはお掃除、それともお仕事を頑張って帰ってきたあの子においしいごはんを準備しておいたほうがいいでしょうか。
うん、それがいいですよね…ですのでお台所へ向かって冷蔵庫の中を確認するんですけど、何だか視線を感じます…?
「…じぃ〜っ」
「って、え…か、夏梛ちゃんっ? ど、どうして…」
思わずお台所の入口を見ると、そこにはまだお仕事なはずの夏梛ちゃんが立っていてこちらを見つめていましたから、びっくりしてしまいます。
「今日は元々麻美とのお仕事の日でしたから麻美がいないとお仕事になりませんし、それにそれに麻美がちゃんとお休みしているか心配心配で戻ってきたんですけど…案の定でした」
うぅ、ため息をつかれちゃいました。
「もうもう、今日は何も気にしなくっていいですから、ゆっくりゆっくりお休みしてください。おかしなおかしなことをしない様に、私が看病しますから」
そして、そんな言葉をかけられては、大人しくベッドへ戻るしかありませんでした。
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