結局、その日は夏梛ちゃんに会えはしましたけれど、声をかけるタイミングがありませんでした。
 仕方ありませんから、同じホテル内に取ったお部屋で休みながらどうするか考えたのですけれど、いいことが思い浮かびました。
 翌日、さっそく如月さんへ電話でお願いをして、そして許可ももらえました。
 うん、これであとは…うふふっ、どきどきしてきちゃいました。

 今日の夏梛ちゃんは、今回の東京での最後のお仕事としてラジオの収録があります。
 私たち二人でのラジオ番組もありますけれど、夏梛ちゃんはすでに個人での番組も持っているんです…すごいですよね。
 私はそのラジオ番組の収録が行われるスタジオへやってきました。
 少し人見知りをする傾向のある私が一人でそこへ入るのはちょっと勇気がいりましたけれど、すでに如月さんから話が伝えられていて、割とすんなり通していただけました。
「あら、麻美ちゃん、こんにちは。さっそく、きましたね」
「あっ、はい、如月さん、こんにちは。さっそく、こさせてもらっちゃいました」
 ラジオの収録が行われるスタジオにはスタッフの人たちに混じって如月さんの姿もあり、挨拶を交わします。
 ガラス越しのブース内には夏梛ちゃんがいますけれど、集中していて私のことには気付いていません。
「あら、まぁ、ちょうど本番がはじまるところですし、急いでくださいね」
 夏梛ちゃんの姿に見とれそうになっていると、如月さんがそう言ってきました。
「灯月夏梛のアリスティックラジオ! どうも、こんばんはっ。パーソナリティの灯月夏梛です」
 その言葉通り、ブース内ではあの子がタイトルコールをはじめちゃってました…確かに急いだほうがよさそうで、さっそくブース内に入っちゃいました。
 扉を開けて中へ入っても私に気づいた様子のない夏梛ちゃん…そんな集中した姿も素敵ですけど、ここまできちゃったからには、ね。
「どうも、こんにちはっ。アシスタント兼夏梛ちゃんのお嫁さんの石川麻美です」
「ふにゃっ!?」
 テーブル越しに向かい側に座りながら声をあげると、あの子はびくっとして固まっちゃいました。
 わっ、そんなにびっくりしちゃうなんて…でも、ようやく夏梛ちゃんとちゃんとしゃべれるし、嬉しいです。
「はっ、はじめまして」
 と、まだ驚いた様子の彼女、そんなことを言ってきます…?
「も〜っ、夏梛ちゃんてば何言ってるの〜?」
「なっ、何で何で麻美がこんな場所に…!」
「えへへ、きちゃった」
「きちゃったって…もう」
 自然と幸せな気持ちになってきて、微笑んじゃいます。
「昨日の夜は出るタイミングを逃しちゃったから…」
「…へ?」
 夏梛ちゃん、一瞬きょとんとしますけれど、すぐ意味に気づいたみたいで、顔が赤くなっていきます。
「まさか、あんな激しい愛の告白を受けるなんて…」
「ちょっ、まっ、麻美っ! どういう…どういうことですか!」
「私、ずっとベランダに隠れてたんだよ?」
「なっ…えっ、ええっ!?」
 やっぱり全然気づいていなかったみたいで、顔を真っ赤にしてあたふたされちゃいました。
「もうっ、夏梛ちゃん、本番中だよ?」
 そんなあの子もやっぱりかわいくって、愛しい気持ちがあふれちゃいます。
「うふふ…夏梛ちゃん」
 昨日見た、あの子の私への想い…私からも、伝えてあげなきゃ。
 …私も、大好きだよ?
 あの子を見つめて、そして口の動きだけでそう伝えて微笑みます。
 それが伝わったのか、あの子も笑顔でうなずいてくれて…うん、よかった。
「アリスティックラジオ、今日もスタートします!」
 二人で声を合わせて…うふふっ、心も一つになった感じで、幸せです。


    -fin-

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