〜ジャージのふたり〜

 ―とってもいいお天気の中、私…山城すみれはジャージを着てジョギング。
 こんないいお天気だもん、何もしないでいるなんてもったいないし、それにこれもトレーニングの一環で習慣みたいなもの。
 あの子の通う学園の近くをのんびり走って、近くの公園の中へ入ったり…って、その公園のベンチに座る、とっても見覚えのある人影が目に留まる。
 その子も私のことに気づいて…目をそらしちゃった?
 むぅ、どうしたのかな…とにかくっ。
「やっぱり里緒菜ちゃんだっ。こんなところで会えるなんて、嬉しいな」
 そう、ベンチに座ってたのは後輩の片桐里緒菜ちゃん…嬉しくってそばに駆け寄る。
「…そ、そんなに嬉しいですか?」
「うん、もちろん」
 あ、こっち向いてくれた…よかった。
「…でも、さっき里緒菜ちゃんは目をそらしてきた気がしたんだけど…何かあった?」
 ちょっと気になって思わず訊ねちゃう。
「いえ、気のせいじゃないですか?」
 対するあの子は少しあたふた…。
「ほんとに? ならいいんだけど…何か気になることがあったら、遠慮なく言ってね」
「は、はい…別にジャージ姿を見られて恥ずかしいとかないですから…」
「あ、そういえば里緒菜ちゃんもジャージだ…お揃いだね」
 そう、今の彼女の服装は、色とかは違えど私と同じ。
「…っ!? そ、そうですね…お揃い、です…」
 そんなあの子は少し顔を赤くしちゃう?
「うん、何だか嬉しいな」
「…全く、何が嬉しいんですか」
「えっ、何がって、里緒菜ちゃんとお揃いなことがだよ。それがどうして、って言われると自分でもよく解らないんだけど…でも、とにかく嬉しいんだよ」
「あ…あぅ、ありがとうございます」
 う〜ん、お礼言われることじゃないんだけど、でも照れた様子の彼女もかわいいからいいか。
「ん、里緒菜ちゃんはどうかな?」
「わ、私ですか? 私は…」
「…ん、どうしたのかな?」
 少し恥ずかしそうにするあの子をじぃ〜っと見つめちゃう。
「い…嫌じゃないですよ?」
「わぁ、よかった」
 ぷいっとしちゃいながらの彼女の言葉に一安心…と。
「…うぅ、何故だかちょっとどきどきしてきちゃったよ…」
 手を胸に当てて深呼吸…彼女といると、ときどきこんなことになっちゃう。
「全く、センパイはかわいいですね…」
「…へっ? も、もうっ、今、何かおかしなこと言わなかった?」
「き、気のせいですよ?」
 何だかかわいい、とか聞こえた気がしたんだけど、それを言うならまたぷいってしちゃったこの子の仕草のほうが…。
「そ、そうなんだ…うん、それならいいけど、でもやっぱり里緒菜ちゃんはかわいいなぁ」
 すぐ隣に座って、そのまま彼女のことをなでなでしちゃう。
「にゃっ!? センパイ、何をしてるんですか?」
「あっ、ごめんね、つい…!」
 あの子ににらまれちゃうものだから、慌てて手を離す。
「う〜ん、里緒菜ちゃん相手だと自然とこんなことしちゃうんだよね…ごめんねっ?」
「べ、別に…嫌ではないですから…」
「えっ、そ、そう? う、うん、それならよかった…」
 うぅ、またどきどきしちゃう…けど、あの子も何だかそんな様子にも見える?
「…ですから、もっとなでても構わないんですよ?」
「そ、そう? うん、里緒菜ちゃんがそう言ってくれるなら、そうさせてもらおうかな」
 さらにあんなことまで言われるものだから、ちょっと遠慮がちになでなでする。
 あの子は何も言ってこないけど、目を閉じて幸せそうに見える…と、幸せなのは私のほうで、ずっとこうしてたいかも。

「それで、センパイは今日は…トレーニングですか?」
 しばらくなでなでさせてもらった後、あの子がそう訊ねてきた。
「あっ、うん、そうだよ。これもほぼ毎日の習慣だから」
「そうなんですか…すごいです、私は続いたことないですね」
「あれっ、そうなんだ? じゃあ、里緒菜ちゃんはジャージ着て何してたのかな…ジャージ部活動中?」
「いえいえ、そんな怪しい部活に入った覚えは…」
「えっ、そうなの? 私と一緒にジャージ部の活動してみようよ」
 彼女は学校で部活に入ってる様子はないし、それがいい。
「活動って、例えばどんなですか?」
「そうだね、困ってる子のお手伝いをするとか、だよ」
「困ってる子…ですか? ずいぶんざっくりしていますね」
「まぁ、悪いことじゃなければ何でもしてあげる感じだから」
 …っと、そういえば、肝心なこと言ってない。
「里緒菜ちゃんも、何かあったら遠慮なく言ってね」
「…え? はい、私も含まれるんですか?」
 わっ、ちょっと意外そうな顔されちゃった。
「そんなの当たり前だよ。というより、私が一番お手伝いしたいって思ってるのは…」
 …うん、目の前にいるこの子なんだから。
「…センパイ?」
「…あっ、えっと、とにかく、私は先輩なんだし、何かあったら遠慮なく頼ってね?」
 うぅ、またどきどきしてきちゃった。

 で、そんな里緒菜ちゃんがここでなにしてたかっていうと、普通にお散歩みたい。
「そっか、うん、今日はお天気もいいし、いいお散歩日和だよね」
「そうですね、私はあまり晴れは好きじゃないんですけど…」
 と、返ってきたのはちょっと意外なお返事。
「…わっ、そうなの? どうして?」
「…太陽がまぶしいんですよ」
「そ、そうなんだ…う〜ん、そんなにまぶしいかなぁ?」
 このベンチは木陰になってるんだけど、そうじゃなくっても夏じゃないんだしそんな気にならない気がする。
「単純に夜型な生活だからですけど…」
 あぁ、なるほど、それなら納得…いやいや。
「もうっ、それはよくないよっ。今日みたいにもっとお昼に起きて色々しないと、ねっ?」
「そ…そうですか? 確かに身体にはよくなさそうですけど…」
「うんうん、そうだよ? それに、そんなんじゃ学校でも大変なんじゃないの?」
「…あ」
 あの子、ちょっと言葉を失っちゃった?
「…むぅ〜、今の間は何? 正直に言いなさいっ」
「…今日も…遅刻を…」
 そして、言いづらそうに小声でそんなこと言って…。
「むぅ、やっぱりそんなことになってるじゃない! もう、夜はちゃんとゆっくり眠らないとダメだよ?」
「あぅ…ごめんなさい」
 深夜のアニメやラジオとかが気になっちゃうかもしれないし、それはしょうがないんだけど、でもやっぱり学校に支障が出るのはよくない。
「でも、どうしても朝が苦手で…」
 と、さらにそう続けられちゃった。
「そうなんだ…う〜ん、それじゃ、私が起こしてあげる、とか?」
 睡眠時間に関わらず朝に弱い、って人はいるものね…力になれるならなりたいな。
「お、起こすって…どうやってですか?」
「う〜ん、お家に行くとか…って、里緒菜ちゃんは学生寮なんだっけ…」
 以前お邪魔させてもらったことはあったけど、でもさすがに生徒じゃない私が朝に出入りするのはよくないよね…。
「あ〜あ、私も一緒の学校に通えたらよかったのになぁ…ジャージ部でお邪魔させてもらってるけど、でもやっぱり生徒じゃないから限界あるし…」
 ジャージ部であの学園に行ってるのも、そのほうが彼女と会えるかも、って理由が大きかったりして…。
「普通にモーニングコールとかじゃダメなんですか?」
「…あ、そっか、それでもいいの、かな?」
 うん、要は起きてくれたらいいんだものね。
「直接会えないのはさみしいけど…里緒菜ちゃんがいいって言うなら、そうしてみても、いい…?」
「センパイがどうしてもというのなら…」
 そう言うあの子は嫌そうじゃなくって…むしろ、楽しそう?
「そうだね、里緒菜ちゃんとおしゃべり…じゃなくって、遅刻をさせるなんていけないことだし、それじゃさっそく明日からお電話しちゃうよ? 何時に起こせばちょうどいい感じになるのかな…」
 うぅ、何だかまたどきどきしてきちゃう。
 これはやっぱり、これでようやくセンパイとして少しでもあの子の力になれるから…なの、かな?


    -fin-

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