〜一人はさみしい…?〜

 ―私は、いつから一人きりでしたでしょう。
 気づいたときから、ずっと…こうでしたよね。
 幼い頃、物心ついたときには一人きりで森の中にいて…でも、あの頃は森の動物さんたちもいてくれたから、さみしいって思ったことはなかった。
 でも、動物さんたちと私とは明らかにどこか違うって感じて、外の世界を見にいくことにしたんでしたっけ。
 今思えば、それが間違いだったのかな…?

 とある町にたどり着いた私…人を見るのもはじめてだったのにさらにたくさんの人の姿があったんですから、もちろん戸惑っちゃいました。
 まだ幼く、それに親もいなかった私は、その町にあった養護施設へ入ることになりました。
「え、えっと、エステル・ティターナです…」
 そこにいた子たちに名前を名乗りましたけれど、そう…ずっと一人だったけど、自分の名前は多分これだって解っていました。
 私が唯一持っていた、きれいな装飾の施されたロケットペンダント…この裏に書かれていた名前が、多分私の名前なのかな、って。
 ちなみに、そのロケットの中には二人の女の人が並んだ写真が入ってましたけど、このお二人が誰で私とはどういう関係なのかは、このときの私には全く解りませんでした。
「…あれっ、こいつ、耳がおかしくないか?」「あっ、ほんとだ、変なの」
「…えっ?」
 そこの子たちの言葉ではじめて気づきましたけれど、私の耳は細長くとがっていて…確かに、まわりの人たちとは明らかに違ったんです。
 どうしてなのか自分にも解りませんでしたけれど、そのことでまわりの子たちにからかわれたりもしました…でも、それだけならまだやっていけたかもしれません。
 あれは、ある日のこと…お外でみんなと遊んでいると、一人の子が転んで怪我をしてしまったんです。
「あ、えと、ちょっと待って…私が、治すから…」
 その子へ歩み寄った私は、過去にも動物さんに使ったことのある力でその子の怪我を治しました…けれど、それが、私が人の中にいられない決定的なものとなってしまいました。

 私は、自然の中にある力を借りて、様々な事象を発生させることができました。
 例えば火を起こしたり、空を飛べたり、あるいは軽い怪我なら治せたり…そう、いわゆる魔法というものが私には使えたのです。
 でも、その魔法は普通の人は使えないどころか存在すら知らないそうで…そんな異端な力を使ってしまったため、周囲から不気味がられ、結局私はそこにいられなくなってしまいました。
 それからも、人間の世界に私の居場所はなく…幸い、その魔法のため生きていくことはできましたけれど、自分は何者なのか、ということはずっと解らなくって、それを求める旅をしてきました。
 そして、幾年月…極東の島国にある大きな、そして不思議な力を感じる森の中で、これまでに出会ったことのない雰囲気を持った人に会ったのです。
「あの…あなた、もしかして、私たちの世界からきた、精霊…?」
 大きな森を当てもなく歩いていた私に声をかけてきたのは、どこか儚い印象を受ける少女だったのですけれど、耳が…私と同じかたちをしていたんです。
「えっ、精霊、って…その、私は、自分が何者なのか、解らないんですけど…。あ、あなた、は…?」
 おそるおそる問いかける私に、その少女はゆっくりとこちらへ歩み寄り、そして答えてくださいました。
 彼女は、別の世界からきたという月の精霊…今はとある理由からこちらの世界へいらして、そしてこの森でひっそりと暮らしているといいます。
 精霊というと各地の伝承に残っていた存在ですけれど、本当にいたのですね…そして、私のこともそうなのではないか、と彼女は言ってきました。
 長い旅の末に、ついに私のことについて何か解りそう…さっそく浮かんだ疑問、つまり私もさっき声をかけられた様に他の世界にいた精霊なのか、とたずねてみました。
「…いえ、あなたは、半分はそうみたいですけど、半分は違う…」
 しばらく見つめられた後、返ってきたのはそんな言葉で、謎は解けるどころかますます解らなくなってしまいました。
「あなたは、精霊と人間とのハーフ、みたい…。そういう人を見るのは私もはじめてで、ちょっと驚いたけれど…」
 戸惑う私に告げられたのは、そんな事実でした。

 精霊は自然の力を持っていて、それで様々な事象を引き起こせます。
 私の魔法はその精霊の力だったわけですけれど、でも純粋な精霊ではなくって、半分は人間だそう…。
 ふと、改めてロケットの中のお二人を見ると、一人は人間なんですけど、もう一人…背が高くて大人な雰囲気を出すかたの耳は私みたいになっていて、こちらのかたは精霊みたいです。
「じゃあ、やっぱり、このお二人が私の…?」
 でも、二人とも女の人で…でもでも写真のお二人はとっても幸せそうですし、やっぱりそうなのかもしれません。
 いずれにしても、私は人間でも精霊でもない、中途半端な存在みたいで…やっぱり居場所なんてないのかな、って思ってしまいます。
「…あの場所に、行ってみようかな…?」
 旅の目的も果たし、行き場をなくした私の頭に浮かんだのは、あの精霊の少女が別れ際に教えてくれた場所のことでした。

 ―私立天姫学園。
 精霊の少女と出会った森の近くにある学校に、私は今います。
 この学校は特殊な力を持った子たちの通う学校で、また人間でない子も少しいるみたい…だから私という存在もそう異端ではないのかもしれません。
 でも、これまでの長年の経験からやっぱり人と接するのは怖く、自分の姿を見られるのも怖くって、いつも全身を包み込むローブを身にまとい、それだけではなくって極力魔法で自分の姿を周囲から見えなくしています。
 逃げてばっかりで少し悲しくもなりますし、一人きりなのも正直に言うと少しだけさみしい…ですけれど、これまでだって一人だったんですし、大丈夫です。
 そんな私ですから教室などにはいづらくって、休み時間…ほうきに乗って空から学校全体を眺めて、どこか一人で落ち着ける場所はないかなって探します。
 そうして見つけたのが、校舎の屋上…誰もいない様子でしたから、ゆっくりとそこへ着地をしました。
「…ふぅ、ここなら、大丈夫ですよね」
 ずっと姿を消しているとさすがに疲れてしまいますから、魔法を解除して一息つきます。
「これから先、私はどうなっていくのでしょう…」
 心地よい風を感じるためフードの部分を脱ぎながら、ふとそう呟いてしまいます。
 どんな道が待っているにしても、誰にも迷惑をかけず、邪魔をしない様に一人で生きていかないと、いけませんよね…。
 そう決意をしましたのに…その場所で、あのかたにお会いしたのです。


    -fin-

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