〜春の日差しの下で…〜
「う〜ん、いい陽気。こういう日はお散歩が気持ちいい…サクサク」
―春のうららかな陽気の下、私…山城すみれはのんびり、チョコバー片手にお散歩。
こういう過ごしやすいお天気の日は、お散歩がいいよね。
できたらあの子とか一緒ならもっと嬉しいんだけど、あの子は外に出たがらないからなぁ…。
そんなことを考えたりもしながら、何気に公園へ足を向けてみる。
「わぁ、桜もきれいに咲いてるね」
公園にはあんまり多くはないけど桜の木があって、今はちょうど満開。
他に人の姿のない公園、一人でのんびり桜を楽しむ…って。
「…あっ。あれって…」
ベンチに人影が一つあるのに気づいたんだけど、それはとっても見覚えのあるもので、見つけた瞬間とっても嬉しくなっちゃった。
「…里緒菜ちゃん、こんにちはっ」
だから、姿を見つけるとすぐに駆け寄って声をかけちゃう。
「…ん〜? おはよう…ございます…」
ベンチに座っていたその子…私の所属する事務所の後輩な片桐里緒菜ちゃんはものすごく眠そう…というより、今まで寝てた?
「うん、おはよ。里緒菜ちゃん、春眠暁を覚えず…っていうやつかな」
「…そう、ですね…ふぁぁぁ」
隣に座らせてもらうけど、あの子は大きなあくびをしちゃってる。
「わっ、本当に眠そう…今日はあったかいからお外でお昼寝タイムなの?」
「…いつも…寝てるけど…?」
「えっ、それじゃ、よくこうやってお外で眠っちゃってるの? それはちょっと心配かも…」
「ふぁ…何でですか…?」
あの子はやっぱりまだ眠そうでぼ〜っとした様子…。
「だって、里緒菜ちゃんってこんなかわいいから…変な人に何かされちゃったりしないかな、って…」
思わずなでなでしちゃうけど、それは本当に心配…。
「かわいい…言われたことないですけど…?」
「えっ、言われたことがない、って…不思議だね?」
そりゃ、私なら言われるわけないんだけど、里緒菜ちゃんはこんなにかわいいのに…。
「…だから、私はかわいくないきつい女なんです」
しかも、そんなこと言ってきちゃう。
「もう、どうして自分でそんなこと言うの? 私はそうは思わないのに…」
「どうも…他人とのコミュニケーションが苦手でして…」
と、眠そうな様子でそう返ってきたけど、彼女は確かにそんなところがある様に見える。
「うん、でもそういうのって人それぞれだし…」
「そういう…ものですか?」
「うん、みんながみんな同じだったら、つまらなくない? それに、コミュニケーションが苦手っていってもお仕事には支障が出てないんだから…ね」
「そう…ですね、そうかもしれません…」
「それに、私は嫌いじゃないよ」
そういうところも含めて里緒菜ちゃんなんだから…と、またなでなでしちゃう。
「…私は、あまり…」
と、そんな呟く様な声が耳に届いちゃった。
「ん…自分のことが好きじゃないの? でも、胸を張って自分が好き、って言える人もそういない様な気がするかも…」
私だって、自分が好きかってなると難しいところだし…ん?
「…って、もしかして私のことがあまり、ってことだった?」
会話の流れからこっちのほうが可能性ありそうなんだけど、ちょっと胸が痛くなっちゃった。
「自分のことは好きになれません…貴女のことは嫌いではないです」
「そっか…あんまり深く考えないで、ね…」
自分のあり方とかで悩んでるのかも…私で力になれることがあったらなるから、って想いを込めてなでなでしてあげる。
「そうする…面倒くさいし…」
うん、今はのんびり…それに、私もちょっとほっとしちゃったし。
「でも、私のことは嫌いじゃない、か…嬉しいな」
「…嬉しいんだ?」
「うん、もちろんだよ…もっと仲良くなりたい、って考えてるくらいなんだもん」
何なのかな、もちろん知り合いの人みんなと仲良くしたいな、って思うんだけど、彼女には特別そう感じるというか…。
「私なんかと…物好きですね…」
そのあの子は少し恥ずかしそうになっちゃった。
「…物好き? そうかな?」
「…そういうの…嫌いじゃないです…」
首をかしげちゃう私に、あの子はとっても小さな声でそう呟く…?
「よく解らないけど…うん、ありがと。やっぱり、何だか嬉しいな」
少なくっても、私が嫌われてる、っていうことはなさそうだもん、ね。
穏やかな日差しの下、私は里緒菜ちゃんと同じベンチに座ってのんびり…あの子も何も言わないから、そのまま一緒にいさせてもらっちゃってる。
チョコバーを口にしたり…と、でもあることに気がついた。
「…って、さっきから私のこと見つめたりして、どうしたの?」
そう、あの子がずっとこっちを見てるみたいで、ちょっと恥ずかしい…それを誤魔化すかの様になでなでしてあげる。
「…え? 私、見つめてました…?」
「うん、今もちょっと視線を感じるけど…」
「あ〜…」
なでなでしてあげながらの私の言葉に、あの子は視線を下げていく…?
「…えっ? ど、どうしたの?」
「…やわらかそう…ですね…?」
「やわらかそう…って、きゃっ? 里緒菜ちゃん、どこ見て…!」
「…足…?」
あの子の言葉通り、その視線は私の足…というよりはもうちょっと上に注目してきている気がして、少し赤くなっちゃう。
「あ、足が…どうしたの?」
「…寝てもいいですか?」
もものあたりを見つめられたままそう訊ねられちゃう。
「寝ても…あっ、もしかして、膝枕ってこと?」
そういえば、里緒菜ちゃんはずっと眠そうだもんね。
「…うん、いいよ」
「…わぁい」
里緒菜ちゃん、とっても嬉しそうに私の膝に頭を乗せて横になっちゃった。
「もう、やっぱりかわいいじゃない…」
そんな里緒菜ちゃんはとっても微笑ましくって、ついなでなでしてあげちゃう。
「今日は本当にあったかいよね…」
「…そうですね…気持ちいいです…」
そんな彼女、そのまま眠っちゃって…しょうがないなぁ。
幸せな気持ちに包まれて、そのまま彼女をやさしくなでなでしてあげてたの。
-fin-
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