〜アサミーナのかなさまなファングッズ〜

「よかった、ちゃんと手に入って」
 ―朝の十時過ぎ、市街地にあるお店から出てきた私…石川麻美は上機嫌。
 今日がお仕事のお休みな日でよかったです…うふふっ。
「あれっ、麻美、さっき急いでお出かけしたと思ったら、もう帰ってきたんです?」
「あっ、うん、ただいま、夏梛ちゃん」
 特に寄り道することなくお家へ帰ると、同じく今日はお休みな、とってもかわいくって大好きで一緒に暮らしている夏梛ちゃんに不思議がられてしまいました。
「お互いにお休みの日は、やっぱりずっと一緒に過ごしたいですから」
「はぅはぅ、あ、麻美ったら、もうもう…!」
 微笑む私にあの子は顔を真っ赤にして…やっぱりかわいいです。
「で、でもでも、そんなこと言う割には一人でお出かけしたりして…べ、別に、麻美がどこに行こうといいんですけど、えっと…」
 ちょっとすねた様になる夏梛ちゃんもかわいらしいですけど、その姿を見たいために一人でお出かけをした…というわけではありません。
「うん、ちょっとアニメショップに行ってきたの」
「な、何です何です、でしたら別に私と一緒でも…」
 ごにょごにょ口ごもる夏梛ちゃん…うん、夏梛ちゃんがああいうお店に行ったら一層目立っちゃいますけど、でもそれでも私も普段でしたらそうしたいです。
「でも、今日は急ぎで行ってきたかったから、そんなせわしないものに夏梛ちゃんをつき合わせちゃ悪いかな、って」
「急ぎ、って…どういうことです?」
 首をかしげちゃうあの子に、私はさっそく買ったばかりの…正確にいうと買ったものの特典を広げて見せます。
「じゃ〜ん、声優さん雑誌の店舗特典、夏梛ちゃんの特大ポスターだよっ。先着一名のみの特典だったんだけど、無事手に入ってよかったよ」
「は、はぅはぅ…!」
 また真っ赤になっちゃった夏梛ちゃん…こんなかわいい本人が目の前にいるのは何よりの幸せだけど、でもやっぱりこういうのもほしいって思っちゃいますよね。
「そっ、そんなのそんなの、麻美にでしたら言ってくれれば特別にもらってきますのに…!」
「ありがと、でもファンとしてはこうやってちゃんと買って、売り上げとかにも貢献しなきゃいけないと思うし、大丈夫だよ」
「ふぁ、ファンって…麻美は同じユニットのパートナーですのに、そんな子がお店で私関係のものを買ってたら、まわりから変な変な目で見られちゃいますよ?」
「そんなの、気にならないから大丈夫だよ」
 私は夏梛ちゃんのパートナーで、お嫁さんでもあるけど、一番のファンでもあるのですから、ファンが色々なものを揃えるのは当たり前ですよね。
 そもそも、私は目立たないからお店とかじゃ気づかれないんじゃないかな…?
「そもそも、麻美は私の出るアニメのDVDとかゲームとかとか片っ端から買っちゃって…恥ずかしいですし、お金も心配心配です」
 お家のお部屋の一つをそういった夏梛ちゃん関連アイテム置き場にしてるんですけど、当の夏梛ちゃんは恥ずかしがってなかなかそこに入りません。
「大丈夫だよ、ちゃんと私のお給料から買ってるし、家計に負担はかけてないもの」
「ま、まぁ、それはそうみたいですね…麻美は安い安い食費でおいしいおいしいお料理作ってくれたりもしますし、本当本当にお嬢さまなのか不思議不思議です」
「うふふっ、そこは愛の力、です」
 節約できるところは、でも夏梛ちゃんの不満にはならない様にって、色々頑張ってみてるんです。
「はわはわ、と、とにかくとにかく、麻美はそういうものの他には私のおよーふくとかにしかお金を使っていないみたいに見えますし、自分のことはいいのか心配心配になっちゃいます」
「う〜ん、そうはいっても夏梛ちゃんの出ている作品を買ったり、夏梛ちゃんのおよーふくを買ったり作ったりするのは私が好きで、楽しいって思ってしていることだから、大丈夫だよ?」
「そ、そうですか、麻美がそう言うんでしたら、いいんですけど…」
「…うふふっ、私のことを気にして、そして心配してくれてありがと、夏梛ちゃん。大好きっ」
 そのことが嬉しくって、ポスターを手放した私はそのままあの子に抱きついちゃいました。

 それから数日後、私がお家に帰ってくると、一足先に帰ってきていたあの子が何かしていました。
「ただいま、夏梛ちゃん。あれっ…ゲームしてたの?」
「あっ、おかえりなさい、麻美…はい、ちょっとちょっと気になる作品がありまして」
 近づいて気づいたとおり、あの子は携帯ゲーム機を手にしていたんです。
「夏梛ちゃんがゲームしてるなんてちょっと珍しいけど、何をして…あれっ?」
「どうしたんです?」
「う、ううん、今、とっても聞き慣れた声がした様な…」
 気のせいかな、とも思ったんですけど、あの子のしてるゲームから…ま、間違いありません。
「そ、それって、私の声…だよね? ということは、あのRPGをしているの…?」
「はい、そうですよ?」
 平然と答えるあの子がしているのは、多彩なキャラメイクが魅力のRPGだったんですけど、その作品の主人公の声候補に私が担当したものもあって…あの子はそれを使っていたんです。
「え、えっと、夏梛ちゃん、何もそんな、戦うのにかっこよくも元気もない声を使わなくっても…」
「いいんです、この穏やかな麻美の声だからやってるんですから」
 …わっ、き、気づいてたんだ。
「私だって、麻美のファンなんですから、こうして麻美の出ている作品をしたりしても…おかしくおかしくないですよね?」
 そ、そんな、私なんて夏梛ちゃんに較べたら全然なのに、嬉しいですけど畏れ多いですし、それ以上に…。
「う、うん、おかしくはない、けど…は、恥ずかしいかも」
「…やっぱりやっぱり麻美だって恥ずかしいんじゃないですか。これでこれで、私の気持ちもちょっとは解りましたか?」
「…うっ、うん」
 はぅ、ユニットで二人一緒のものとかならそうでもないのに、私一人で出ているものを夏梛ちゃんがしているとものすごく恥ずかしいです。
「私も麻美の出ているものを揃えていっちゃいますけど、いいですよね? わ、私だって…あ、麻美の、一番のファンなんですから」
 それはとっても恥ずかしい…ですけど、それ以上に恥ずかしそうにそんなことを言うあの子がとってもかわいらしく、愛おしくって…。
「…うん、でも無理はしないでね」
 そう言いながら、思わず抱きしめちゃいました。
「はわはわっ、も、もうもうっ、ゲームの途中ですのに…それにそれに、全然全然無理なんてしてませんしっ」
 あの子はあたふたしながらもゲームを中断して、私に身を預けてくれました。
 もう、夏梛ちゃんったら…大好き、なんだから。


    -fin-

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