〜貴女の一番のファンは…〜

 ―穏やかな日差しの下、今日は一人でお出かけです。
 本当ならこういう日はあの子と一緒に過ごしたいところなんですけど、今日はあの子のお仕事の関係もありましたし、それにちょっと一人で行きたい場所もあって…。
 そんな私が向かったのは、閑静な住宅地の中にあります、白い建物。
 一見すると教会か何かに見えますけれど、扉を開けて中へ入ってみますとそこにはたくさんの服が並べられたりされていまして…そう、ここはおよーふくのお店なんです。
「いらっしゃいませ…って、誰かと思えば麻美さんじゃない、こんにちは」
「あっ、はい、こんにちは。また、きちゃいました」
 そこで私を出迎えてくれたのはゴシック・ロリータな服に身を包んだ女の人…このお店の店員さん。
 お互い気軽に挨拶を交わしたことからも解ります様に、私はこれまでにも幾度かこのお店を利用させてもらっています。
「今日はどんなおよーふくを探しにきたの?」
「はい、お給料も出ましたから、あの子に新しいおよーふくを買ってあげようと思って…」
 私の実家は裕福なほうなのですけれど、最低でもあの子へ贈るものは自分で手に入れたお金でしたいんです。
 まだまだ収入は少ないですけれど、それでもお金が入ったときはこうしてます。
「じゃあ、あたしのおよーふくの出番ってわけね。でも、たまには自分のおよーふくも買ったら?」
「いえ、あの子には本当にゴスいおよーふくがよく似合って…それを着せ替えするのが、とっても楽しいんですよ?」
「ふぅん、灯月夏梛さん、だっけ? 一度雑誌で見たことあるけど、確かに似合ってたわ。いつかお店に連れてきなさいよ…あたしの作ったものを着てくれてるお礼も言いたいし、それにちょっと着せ替えてみたいもの」
「そうですね…あっ、でも夏梛ちゃんを着せ替えていいのは私だけなんですからね?」
 例え誰であっても、これだけは譲れません。
「全く、しょうがないわね…で、今日はどんなのにする?」
「う〜ん、もうすぐ夏ですし…あっ、今回はお祝いも兼ねますから、華やかなものがいいです」
「お祝い? お誕生日か何か?」
「いえ、そういうわけではありませんけど、ちょっと…うふふっ」
 あのことを夏梛ちゃんに伝えるのが楽しみになってきました。

「あっ、夏梛ちゃん、お疲れさま」
 アフレコを終えて控え室へ戻ってきた子に笑顔で声をかけます。
「麻美…うん、ありがと」
 他に誰もいない控え室、大きめのソファで私の隣へ腰かけるのは、私が前にプレゼントしたゴスいおよーふくを着たとってもかわいらしい女の子、夏梛ちゃん。
「夏梛ちゃん、収録はどうだったかな?」
「ばっちりでした…というより、きていたなら見学にきたらよかったのに」
「そこは、私はこの作品の出演はないわけだし…実際に放送されるのを楽しみにしちゃいます」
 一緒にアイドルユニットを組んでいるとはいっても、声優としてのお仕事は夏梛ちゃんのほうが多いです…ユニットのほうも、もともとは夏梛ちゃん一人でデビューする予定だったのを、私が頼み込んでこうしてもらったんですし。
 やっぱり夏梛ちゃんはすごいです…私も足を引っ張らない様に頑張らなくっちゃ。
「あっ、それでね、夏梛ちゃんに渡したいものがあるの」
 と、本題に入って、持ってきた大きめの袋からあれを取り出します。
「じゃ〜ん、見てみて、夏梛ちゃんの新しいおよーふくです」
 そうして広げて見せたのは、さっきあのお店で買ったもの。
「わぁ、素敵です…」
 よかった、夏梛ちゃん、気に入ってくれたみたいです…と、その彼女、少しはっとした表情になります。
「で、でもでも、また麻美に買ってもらっちゃうなんて…」
「そんなこと、気にしなくっても大丈夫です…私、夏梛ちゃんがこのおよーふくを着てくれた姿を見るのが、とっても幸せなんだもの」
「そ、そう…で、でもでも、今回のってちょっと高そうじゃないですか?」
 さすが夏梛ちゃん、よく見てます…確かに今回買ったものはあのお店で一番高いおよーふくなんです。
「はい、今回のはお祝いの意味もありますから」
「…お祝い?」
 首を傾げる夏梛ちゃん…どうやらまだ何も情報は入っていないみたい。
「そう、お祝い…うふふっ、これ見てみて」
 およーふくをテーブルの上に置いて、代わって一枚のカードを手にして彼女へ見せます。
「じゃ〜ん、夏梛ちゃんの公式ファンクラブの会員証よ」
「えっ、わ、私のファンクラブなんて、いつの間に…?」
「うん、私が作ってほしいってお願いして…ほら、だかた会員ナンバーも一番なんだよ?」
 つまり、私が夏梛ちゃんの一番のファン。
 そんなことはかたちにしなくってもそうだって言い切れるんですけど、でもやっぱりこうしたものがあると嬉しいですよね。
「だから、このおよーふくは夏梛ちゃんのファンクラブができたお祝い。おめでとう、夏梛ちゃん」
「え、えっと、ありがと…」
 とっても恥ずかしそうにされちゃいましたけど、その仕草がかわいらしすぎて…もう我慢できないっ。
「それじゃ、さっそくこれに着替えてみましょ?」
「…って、あ、麻美? 何脱がせようとして…じ、自分でできますから」
「そんな、遠慮しないで…誰もいないんですし」
 本当に、とってもどきどきしてきちゃいます。
 私は夏梛ちゃんのファンでありパートナーですけど、それ以上に大好きなんですから…。


    -fin-

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