〜アサミーナとかなさまとチョコレートの日(2)〜

 ―もうすぐ二月十四日。
 この日は女の子が好きな人へ想いを伝える日となっていて、大好きな人のいる私…石川麻美ももちろんその子のためにプレゼントを用意します。
 でも、チョコレートは作りましたけれど、これだけじゃちょっとさみしいかも、と感じて…幸い、まだ日数は少しありましたから、もう一つプレゼントを用意することにしました。
 大好きなあの子への想いを込めて…やっぱり、手作りのもののほうが想いも伝わりやすいですよね。

 この数日間、あの子…私のとっても大好きな夏梛ちゃんはお仕事でお家を空けていたのですけれど、先日予定よりも少しはやく帰ってきてくれました。
 それはもちろんとっても嬉しいことですけれど、プレゼントを作るにはちょっと困っちゃったかも…やっぱり当日に渡すまでは秘密にしておきたいものですから。
 ですから、夏梛ちゃんが事務所でのお仕事の間で、それに念のためにお家の外で作ることにしました。
 さすがに二月ですから外はとっても寒いですけれど、今日は陽射しもあり風もほとんどなく、それに夏梛ちゃんへの想いがありますから大丈夫…公園のベンチへ腰かけ、それをすることにしました。
 うん、この調子でしたら、当日までにはきちんと完成させられます…夏梛ちゃん、喜んでくれるかな。
「…麻美? 何をしてるんです?」
 あの子のことを想いながら作業を進めていますと、すぐそばからその彼女の声が…って!
「…きゃっ、か、夏梛ちゃん!?」
 はっと顔を上げると彼女が私のそばへ歩み寄ってきていて…私は慌てて作っていたものを背後へ隠します。
「う、ううん、何にもしてないよ?」
「…じぃ〜」
 突然のことにあたふたする私のことを、彼女はじっと見つめてきちゃいます…!
「…ど、どうしたのかなっ?」
「怪しい怪しいんですけど…何か隠しませんでした?」
 さらにじと〜っと見られちゃいますけれど…い、一応、私がしていたことはまだ知られていないみたい…?
「う、ううんっ、何にも何にも隠してないですよっ?」
「…何で何で敬語?」
 は、はぅ、やっぱり全然落ち着けません…どきどきが収まらないです。
「まあまあ…いいですけど、麻美には人には言えない怪しい怪しい趣味があるんですね…」
「って、そ、そんなっ! わ、私には夏梛ちゃんに言えない様な趣味はないよっ?」
「いいんですいいんです…麻美にだってプライベートはありますもんね?」
 う、うぅ、夏梛ちゃんがさみしげです…私は夏梛ちゃんになら何だって知られてもいいのに。
 それは、確かに今のことを隠してはいますけれど、これはそういうのとは違いますから…!
「そ、そんな、夏梛ちゃん…そ、その、えっと…!」
 何とか説明をしようとしますけれど、どう言えばいいのか解らず、ただ彼女につらい想いをさせてしまっている事実がつらくって、涙があふれそうになります…。
「ちょっ、何も泣くことはないじゃないですか!?」
 そんな私を見た彼女はあたふた…と、いけません。
「あっ、ご、ごめんね…え、えっと、ほ、本当に何にもないから、ね…?」
 涙をこらえて、そして微笑みかけて何とか安心してもらおうとします。
「全く全く…」
「あっ、え、えっと、夏梛ちゃん、あのね…?」
 うぅ、夏梛ちゃん、ぷいってしちゃいました…も、もうダメですっ。
「…ご、ごめんなさいっ、隠しごとをしようとして夏梛ちゃんを悲しませたりして…!」
 ついに我慢できなくなっちゃって、頭を下げました。
「ななな…何で何で謝るんですか?」
「だ、だって、私、夏梛ちゃんに隠しごとをして、さみしい思いをさせちゃったから…だから、本当にごめんなさいっ」
 私が彼女の立場なら、やっぱりさみしくなっちゃうと思いますし…しょうがないですよね。
「え、えっとね、実は…これを夏梛ちゃんにって、作ってたの…」
 意を決して、頭を上げて…背後に隠していたものを彼女へ見せます。
「…これは、マフラー?」
 ちょっときょとんとした彼女の言葉どおり、私が見せたのは編みかけのマフラーでした。
「う、うん、その、数日後…バレンタインの日に、チョコレートと一緒に渡そうかなって、そう思って、それでこんなことをしちゃってたの…。ご、ごめんね…?」
「あぅ、ななな…何で何で言っちゃうんですか!」
 私の告白を受けて、彼女はあたふたしちゃいます。
「だ、だって、隠しごとをすると夏梛ちゃんがとってもさみしそうで、とっても胸が痛くなっちゃって…やっぱり、私には夏梛ちゃんに隠しごとなんて無理だよ…」
「べ、別に別に、さみしくなんてないです、けど…」
 しゅんとしてしまう私に彼女はそう言いますけれど、強がってますよね…?
 でも、さっきの反応を見るとやっぱり当日にはじめて見せたほうが嬉しかったみたいですし、難しいです…けど。
「で、でも、夏梛ちゃんのことを想って心を込めて編んでいるのは確かだし、楽しみにしててくれると、嬉しいな…」
 そう言って微笑みます…うん、これは確かなんですから、大丈夫です。
「も…もうもう! 麻美はかわいいんですからっ」
「…きゃっ? か、夏梛ちゃん…!」
 突然夏梛ちゃんがぎゅっと抱きついてきて驚いてしまいましたけれど…夏梛ちゃん、楽しみにしてくれているんですよね。
 うん…もちろんお仕事も頑張るけど、これもちゃんと当日までに作って渡すから待っててね、夏梛ちゃん。


    -fin-

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