「それじゃ、お邪魔しま〜す」
「は、はい、その、どうぞ…」
 翌日、私は麻美ちゃんの暮らすマンションにお邪魔してた。
 麻美ちゃん、私のお願いを聞いてくれて、お互いに予定のない今日、ここで教えてもらえることになったわけ。
「今日はほんとにありがと。何かお礼しなきゃね」
「えっ、そ、そんな、お気になさらずに…」
 そうは言われても…う〜ん、ちょっと気になっちゃう。
「でも、やっぱりちょっと迷惑だったかな、って思うし…本当にごめんね?」
「い、いえ、大丈夫ですから…」
「そう? でも、麻美ちゃん、ずいぶんおどおどしちゃってるから、ちょっと心配で…何かあったら遠慮なく言って、ね?」
 先輩からのお願いで断りきれずに無理して、とかだなんてよくないもん。
「あっ、い、いえ、ただ、その、ここに夏梛ちゃん以外の人をお呼びしたのがはじめてで、それで緊張してしまっただけですから…」
「…って、へ? そ、そうなの?」
 ちょっとびっくりしちゃったけど、麻美ちゃんは夏梛ちゃんと一緒にいられればそれだけで、って感じの子だもんね…。
 そんな夏梛ちゃんはここで麻美ちゃんと一緒に暮らしてるそうだけど、今日はお仕事があってここにはいない。
「私も、夏梛ちゃんがいない間に作っておきたかったですから…えっと、では、作ってみます?」
 麻美ちゃんも自分のチョコレートを作る、っていうことでお台所へ行って一緒に作ってみる。
 もちろん私は全然ダメだったりするんだけど、そんな私にあの子は遠慮がちながらも丁寧に教えてくれた。
「…ふぅ、形はちょっと歪だけど、味は大丈夫だよね。ん、麻美ちゃん、今日はほんとにありがと」
 おかげで何とか完成できて、さらにラッピングまで用意してもらえてたからきれいに包む。
「いえ、そんな、少しでもお力になれましたら、よかったです」
 一方の麻美ちゃんが作ったのはさすがに見た目もよくって、味見をさせてもらったけどとってもおいしかった。
「ん、麻美ちゃんのそれなら、きっと夏梛ちゃんも喜んでくれるね」
「は、はい、ありがとうございます…」
 顔を赤くして恥ずかしそうにされちゃった…微笑ましい。
「麻美ちゃん、夏梛ちゃんのことが本当に大好きなんだね。チョコレートを作っているときも、とっても幸せそうだったし」
「はい、でもそれはセンパイもそうですよね…?」
 あっ、ちゃんとセンパイって呼んでくれた…って?
「私も、って…どういうこと?」
「とっても一生懸命に作っていらっしゃいましたから…それだけ、片桐さんのことがお好きなのですよね」
「…へ? あ、あれっ、私、これを里緒菜ちゃんにあげる、とか言ったっけ…そ、それに、好きって…!」
 色々な意味でびっくりしちゃって慌てちゃう。
「えっ…あの、何か、違いましたか…?」
「い、いや、確かにこれは里緒菜ちゃんにあげるんだけど、よく解ったね…」
「そんな、センパイのことをご存じのかたでしたらどなたでも解ると思いますけれど…」
「そ、そうなんだ…」
 まぁ、麻美ちゃんと夏梛ちゃんも、見たら誰でも解る感じだもんね…って!
「わっ、でもでも、私と里緒菜ちゃんは別に、そういう関係じゃないからねっ?」
「そう、なのですか…?」
 ものすごく不思議そうに首を傾げられちゃった…わ、私と里緒菜ちゃんって、周囲からそう見えちゃってるの?
「え、え〜と、麻美ちゃん…?」
「…あっ、その、私が何か言うことではありませんし、どうかお気になさらないでください…!」
 麻美ちゃんが慌ててそう言うものだから、そのお話はそれで終わりになっちゃった。

 お礼、ってわけじゃないけど麻美ちゃんにチョコバーをいくつか渡してマンションを後にする私…なんだけど、気持ちがちょっとすっきりしない。
「私の、里緒菜ちゃんへの気持ち、かぁ…」
 美亜さんに色々言われたときは否定したけど、麻美ちゃんにまであんなこと言われるなんて…。
 確かに、普通の後輩とかに対する気持ちとは全然違うし、自分でもよく解らなかったりするんだけど、もしかしてこれが…そう、なの?
「…って、はわわっ?」
 意識した途端、どきどきしてきちゃった…う〜。
 でもでも、あの子が私に…その、恋とかしてるなんて、なさそうだよね…!
 それに、私のこの想いが何だとしても、あの子とはこれからもずっと今みたいにしていきたいし…うん、今はあんまり深く考えないで、このチョコレートを渡そう。
 少しでもあの子が喜んでくれたら…それだけで、とっても嬉しいもん。


    -fin-

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