〜後輩のために?〜

 ―二月、まだまだ寒い日が続くけど、お菓子を買いにスーパーへ立ち寄ったりするとちょっとした熱気を感じるところがあったりする。
「もうすぐ十四日か…」
 もうすぐバレンタインっていうことで、チョコレート売り場には何人かの女の子の姿。
「私は…どうしよっかな」
 そんな子たちを遠目で見つつ、いつものチョコバーを手に取りながらもそんなこと呟いちゃう私…山城すみれ。
 いや、去年までならそんな深く考えることなんてなくって、事務所のみんなにチョコバーを渡したり…って、それはバレンタインに限らずいつものことか。
 でも、今年はそういうのとは、それに梓センパイとかいつも特にお世話になってる人へのお礼とか、そういうのともまた違った気持ちで特別に渡したいな、って思っちゃう子がいたりする。
 う〜ん、学生時代の部活でも後輩はいたのに、どうしてあの子のことはこんなに気になっちゃうんだろ。

 そう、私が特別に何か渡したい、って考えてるのは事務所の後輩の片桐里緒菜ちゃん。
 せっかくこういう日があるんだから、何かしたいなって思って…。
「やっぱり、こういうのって手作りのほうが気持ちは伝わるよね…」
 そう考えるものの、それはやっぱり無理かな…ってなっちゃう。
 だって、私はお料理が全然できなくって…もちろん、お菓子作りも例外じゃない。
 そんなだから、やっぱり市販品しか…いやいや、まだ時間はあるしちょっと考えてみよう。

 こういうときはやっぱり誰かに教えてもらうのが基本かな?
 そして、私の身近な人にそういうのが得意そうな人がいて、それにちょうどこれからその人のところに行くことになってたからちょうどいい。
 そんな私がやってきたのは、アルバイトをさせてもらってる喫茶店…なんだけど。
「…あれっ? 何だろ、これ」
 中へ入ると、いつもとは違う匂いが店内に広まっていることに気づく。
 でも店内には誰もいない…んだけど、奥のほうが賑やか?
「美亜さん…えっ? これって何してるの?」
 気になって奥の厨房をのぞいてみると、そこにはここの店主…ではないそうながら実質的にはそういう立場な藤枝美亜さんの姿があったんだけど、ちょっと不思議な光景に声をかけちゃう。
「あら、すみれちゃん、こんにちは、何って、見ての通りよ?」
 厨房にはそう言って微笑む美亜さんの他にも六人くらいの女の子がいて、何やら作業中。
「え〜と、もしかしなくっても、チョコレート作ってる?」
 それは一目見れば解ることだった。
「ええ、この時期でしょう? 想いを伝えたい、っていう子のために、チョコレート作りの教室を開いてあげているの」
 あ、やっぱり美亜さんってそういうの得意なんだ…それに、この人の性格だとそういうことしてもおかしくないよね。
「うふふっ、すみれちゃんも一緒にやってみる?」
 私からお願いしようとしてたこと言われて、本当ならうなずきたかったんだけど…。
「想いを寄せる子に告白するいい機会だもの、しっかり教えてあげる」
「って、わっ、い、いいです、私はそんな子いないし遠慮しときます!」
 美亜さんがおかしなこと言ってくるものだから、ついそんなお返事しちゃった。
「えっ、すみれさんってどなたか好きな人がいるんですか?」「まぁ、どんな人なんです?」
「も、もうっ、そんな子はいないってば…えっと、私、お店のほうに行ってますねっ?」
 さらにチョコレートを作ってた子たちまであんなこと言ってくるものだから、逃げる様にしてその場を後にしちゃった。
 もう、あの子は、そんな、みんなの言う様な存在ってわけじゃない…はずなのに、困ったものだよね。

 そんなわけで、結局美亜さんに教えてもらうことはできなかったんだよね…う〜ん、困った。
 これはもうやっぱり市販品で買うしかないのかな…なんて思いながらアルバイトを終えて事務所へ行く。
 今日は里緒菜ちゃんはいない…んだけど。
「あっ、や、山城さん、こんばんは…」
「ん、こんばんは、麻美ちゃん…でも、私のことはセンパイ、って呼んでほしいな」
「あ、えと、ごめんなさい…」
 事務所で会った、あの子と同じく後輩な石川麻美ちゃんを見て、もしかしたら…って感じたの。
「ねっ、麻美ちゃん、ちょっとお願いがあるんだけど…もしよかったらでいいから、聞いてくれないかな?」
「えっ、私に…ですか?」
 突然の言葉に戸惑われちゃったけど、要するに美亜さんにお願いしようかな、って思ったことを彼女にお願いしてみたの。
 麻美ちゃんはどうしてこの世界に入ったのかちょっと不思議になるくらいのお嬢さまだったりするんだけど、彼女のパートナーな灯月夏梛ちゃんにお弁当を作ってきたりとお料理の実力は確か。


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