〜Happy birthday (七月七日編)〜
―季節は七月。
もうすぐ梅雨も明けそうな時節、私…九条叡那にとり少なからず重要な日、七月七日が近づいていた。
七夕…といいたいところだけれど、あれは旧暦で見るのが自然であり、今の暦での七月七日に行うのは便宜上に過ぎず、それほど重要ではない。
では、その日に何があるのかといえば…私にとり使命を越え大切な存在である、現在は中等部の生徒として私立天姫学園へ通う冴草エリスの誕生日。
自分自身も含め誕生日を祝うことなどこれまでなかった…というより、親なども当然いない存在である私だから自分の誕生日などはなはだ疑わしいわけだけれど、ともかく普通は祝うものらしいし、ならば当然彼女も楽しみにしているでしょうからしないわけにはいかない…と、少し問題があった。
誕生日にはその人へ贈り物をするのが普通らしいのだけれど、果たしてエリスには何を贈ればよいのか、そこが少しも思い浮かばなかった。
指輪などはすでに贈ったし、それ以外に何かを贈るなんてあまり考えたことがなかった、ということもあるけれど、それ以上に彼女が喜んでくれそうなものが解らないなんて、情けない…。
エリスへの贈り物…それを考えるため、周囲の人の意見を聞いてみることにした。
ねころやヘキサさんは気持ちがこもっていればよいとは言っていたけれど、それだけではやはり足りないかもしれない。
誕生日当日にケーキを用意してくれることになったシャルトさんには軽くはぐらかされてしまい、リステアさんには自分で考えなさいと言われた。
やはり、人に頼るのはよくない…けれど、エリスに喜んでもらうにはやはり私の感覚だけでは不安が残るから、もう一人、あの人にたずねてみることにした。
そう思い、授業が終わった放課後、本来ならばすぐに社へ戻るところを、学園内のとある場所へ行ってみた。
「いらっしゃいま…って、あ…!」
向かった場所はカフェテリアだったのだけれど、そこで私を出迎えた少女は私を見るなり固まってしまった。
「…どうかして?」
「あっ、い、いえ、せ、席のほうへご案内いたしますね…!」
慌てて私を案内する、ねころの着ているメイドの服に似た服装をしたその少女のことを、私は知っている。
ともあれ、緊張した様子の彼女は空いている席へ私を案内し、一度は立ち去るもののすぐに水の入ったコップを持って戻ってきた。
特に注文をしたいものはなかったので、お茶を一杯お願いした。
「解りました、では少しお待ちください」
「…いえ、少しお待ちなさい」
「えっ、な、何ですかっ?」
その様にびくびくしなくてもよいでしょうに…そういえば、この場にいる他の人たちもこちらを注目しているけれど、私はそれほど怖い存在なのかしら。
「お茶を持ってきてくれた後でよいから、少したずねたいことがある。よいかしら?」
「は、はい、大丈夫です…!」
やはり緊張した様子で立ち去るけれど、彼女がその様な気持ちになるのは、解らないことではない。
ただ、他の人たちがいまだこちらを気にしてきているけれど、こういうこともよくあることといえばそうなので、気にせず目を閉じ彼女が戻るのを待つ。
「…お待たせしました、どうぞ」
あまり間を置かず、彼女がお茶を持って戻ってきた。
「あの、それで、私に聞きたいことって…?」
「…別に、その様に不安になることではない」
まだ緊張の取れない様子の彼女へ目をやる。
「貴女ならば、エリスの好みも多少は知っているでしょう。そのあたりのことを、少しうかがいたくて」
「えっ、それって…あ、もしかしてお誕生日の、ですか?」
「ええ、この様なこと、あまり貴女にたずねるのはよくないとは思ったのだけれど…よいかしら」
今、私と会話をしている少女は、私と同じくらい、もしくはそれ以上にエリスのことを知っているはずの人物。
それもそのはず、彼女は本来現在の世界の住人ではない…名を九条閃那といい、未来からやってきた、私とエリスとの子供だという。
そうした関係もあって、彼女から今の時代の私たちに会いにくることはほとんどなく、私も接触はなるべく避けていたのだけれど、少しくらいならば問題はない。
「う〜ん、そうですね…確か、この時期あたりからアニメとかにはまりはじめたはずですよ?」
「…アニメーション?」
「は、はい、私がそういうの好きなのも、その影響があったりしますし…あっ、あと声優さんとかも好きなはずですよ?」
なるほど、私はそういうものは全く解らないのだけれど、彼女はそういったものに興味がありげな様子だったか…確か、どなたかに影響されたみたいね。
けれど、それが娘に影響を与えるまでのものになるのか…別に悪いことではないでしょうし、止めはしないけれども。
「ありがとう、参考になった」
「いえ、そんな…あ、でも、コスプレ関係はやめといてくださいね。この時期から深みにはまられたら、どうなっちゃうか不安ですから」
コスプレ、とは何か解らないけれど、閃那がわざわざ付け加えることなのだから、気をつけましょう。
けれど…私に子供ができ、しかも今の時代でこうして会話をしているというのは、何とも不思議なものね。
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