案の定、あの子が聴いてたらしいCDがそのままプレイヤーに収まってたから、それを聴いてみる。
 CDっていっても曲が収録されてるものじゃなくって、ちゃんとしたお話が入ってた…アニメの画がないもの、って感じかしら、ドラマCDっていうそうだけど。
 ただ、それを聴いてくうちに、ちょっと色々複雑な気持ちになってきちゃった。
 このお話、私とあの子みたいに女の子同士でお付き合いしてる学生さんお二人を描いたものになってたんだけど、主人公の子に…何だか親近感を覚えたの。
 主人公は頑張りやさんの、でも好きな人に対しては恥ずかしくってちょっと素直になれない女の子…照れ隠しでついきつめに相手へ当たってしまうことがあるけど、そういうとこが私に似てる気がしちゃうのよね。
 それに、このお話、そんなお二人が夏休みを迎えたんだけど、相手の子に用事ができちゃって離れ離れになる…とか、今の私の置かれてる状況に重なっちゃう。
 このお二人はそれから一日だけ一緒に過ごせる時間が作れて、丸一日ずっと一緒にいる時間を過ごしてくんだけど、そのときのお二人は本当にもう幸せいっぱいって感じ。
「もう、はやく帰ってきなさいよね…」
 そんなの聴いてるとこっちはますますさみしさが募ってきちゃう。
 そんなこっちの気持ちをよそにドラマCDの中のお二人は本当に甘々な世界に入って…って、ちょっと怪しい流れになってきた様な…。
「…って、んなっ? こ、これって…!」
 お話の展開に慌てちゃう私…いや、だって、そのお二人、あつい口づけを交わしたかと思ったら、その先にまで進んでいっちゃうんだもの…!
 声だけっていっても、その声はとっても激しくって、今まで募ったさみしい気持ちも合わさって、こっちまで変な気持ちになっちゃいそう…。
「ティナさん、ただいまっ」
「…って、んなっ、ちょっ!」
 さらに間の悪いことに、部屋の扉が開いたかと思ったら元気な声が届いてきちゃう。
 入ってきたのはもちろんあの子、閃那だったわけで…いや、はやく帰ってきてはもらいたかったけど、何もこのタイミングでくることないじゃない…!
「…って、ティナさん、これって…」
「い、いや、これは、えっと…!」
 慌ててCDを切ったけど、さすがに外には聞こえなかったわよね…あの子も扉は閉めてくれたし。
 で、せっかく久しぶりに会えたっていうのに、気まずい沈黙が流れちゃう…あぁ、こんなつもりじゃなかったのに。
「え〜と、ティナさん?」
「…あ、あによ」
「…そういうCD聴くときは、ヘッドフォンしたほうがいいですよ?」
「う…うっさいっ、こ、こんな内容だとは思ってなかったのよっ!」
 もう、あまりに恥ずかしくって顔が真っ赤になってるのが自分でも解る。
「本当ですか〜? でも、ティナさんがそのCDを聴いてくれてたのは嬉しかったですけど…主人公の子もティナさんに似てますし、いいお話でしたよね?」
「そ、そんなの別に…ただ、閃那がどんなの聴いてるのか気になって聴いてみただけだし」
 終盤の過激なのはとにかくいいお話だったのは確か…なんだけど、ついああ答えちゃう。
「わぁ、私のこと思って聴いてくれたんですねっ」
 …うっ、何かかえって恥ずかしいことになっちゃったわ。
「そ、それは…そ、そうよ、閃那ってば、こんな過激なCDなんて聴いてんの? こんなの…その、ダメでしょ」
「あっ、それはちゃんと年齢制限ついてるやつですから」
 あぁ、なるほど、それなら大丈夫…って。
「ちょっと待ちなさいよ…そんなの、なおさら聴いたりしちゃダメでしょっ!」
「もう、ティナさんは真面目なんですから…ぶぅぶぅ」
「うっ…そ、そんなかわいらしく言ってもダメなものはダメなんだからねっ?」
「むぅ〜…せっかくすみれさんみたいに言ってみたのに」
 もう、誰よそれは…。
「それに、私たちだって、この二人に負けないくらい色々してるじゃないですか」
「んなっ…い、色々ってあによ?」
「それはもう、あんなことや…」
「…い、いや、言わなくってもいいわっ」
 そ、そりゃ確かに、そんなこともしてるけど…あぁ、もうっ。
「ん、んんっ…こほんっ、とにかくお帰り、閃那。無事に帰ってきてくれて、嬉しいわ」
「はい、ただいま、ティナさん」
 ふぅ、何とかこれで仕切りなおせるわね…って思ったのに、彼女はそのまま抱きついてきちゃう…!
「ちょっ…せ、閃那っ?」
「ティナさん…私、もう我慢できなくなっちゃいました」
 そりゃ、私だってついさっきまであんなの聴いてたから…じゃなくってっ。
「で、でも、ほら、閃那の誕生日を祝うために色々用意してあるし…」
「この料理とかケーキ、ティナさんが作ってくれたんですか…嬉しい、ありがとうございますっ」
 わっ、ますますぎゅって抱きつかれちゃった。
「そ、そう、喜んでもらえたなら何よりだわ。プレゼントも用意してあるし…」
「わぁ、ティナさんからのプレゼント、何でしょう…とっても楽しみです」
「え、ええ、だから、そっちを…ね?」
 でも、閃那は私をぎゅっとしたまま離れない。
「ちょっ、ちょっと、閃那…?」
「でも、私の誕生日は明日ですし…お祝いは、明日のお楽しみに取っておきます」
「…へ?」
「今は…ティナのことがほしいです。いい、ですよね…?」
 そんなこと言う彼女の顔が私に近づいてくる…。
 うぅ、も、もう、私だってこんなどきどきしちゃって…ずっと会いたかった彼女にあんなこと言われて、断れるわけないじゃない…。
「え、ええ…す、好きに、したらっ?」
「はい…んっ」
 そうして私とあの子、あつい口づけ交わして…もう、抑えられないじゃない。


    -fin-

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