〜怪しい組織?〜

 ―私、橘深空に課せられている任務として、天姫学園に通っている《スクール》卒業生が何か問題など起こしていないか調べる、というものがあります。
 そして、今のところこの学園に通う生徒には問題は見当たらない…んですけど。
「う〜ん、この人って、確か…」
 少し落ち着こうと学園内にあるカフェテリアへ入って席へついたところで、先ほど手に入れた紙へ目をやってふと呟いてしまいます。
 学園内にカフェテリアがあるのもすごいですけど、それより問題なのはこの紙の内容…。
「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりでしょうか?」
 と、何だかちょっとやる気のなさげに感じられる店員さんが声をかけてきましたけど、ちょうどいいです。
「えっと、そうですね…店員さんは、これについて何かご存じですか?」
 例の紙を見せてみます。
「はぁ、いいえ…何です、これ?」
「最近この学園に貼られはじめた、ジャージ部という怪しい組織の告知文みたい…。詳しくは山城すみれまで、と書いてあるのだけれど、この人…う〜ん」
 問題は、その山城すみれという人が《スクール》の卒業生だということ…ここの生徒ではないのだけど、でもここで怪しいことをしているとしたら問題です。
 で、この紙は学園内のいたるところに貼られていましたから、少しでも何か知らないかなと店員さんへ訊ねてみたわけ…。
「うわぁ…嫌な予感しかしない…。知り合いですね…その人」
「…えっ、あなた…この山城すみれという人、ご存じなのですか?」
 いきなり色々知っていそうな反応にあって、少し驚いてしまいました。
「え…まぁ、色々とセンパイですけれども」
「先輩、って…でも、あなたは《スクール》の人じゃなさそう…」
「まぁ、違いますね」
 その人の話では、お仕事関係で、ということでした。
 でも、山城すみれさんはここの店員、っていうわけでもないみたいで、それに彼女の今のお仕事まではさすがに知らなくって…謎です。

 謎といえば、この店員さんも、自分でニートという働く気のない人を表すものの候補だとおっしゃる割にはここでこうして働いていらしたりと、謎です。
 でも、今の問題はそこではなくって…。
「あの、山城すみれさんのことをご存じでしたら、このジャージ部なるものについても、何か解ったり…?」
 部、ということは部活なのかもしれませんけれど、この人はここの生徒ではありませんし、やっぱり怪しい…調べなくてはいけません。
「いや、そんな怪しげな組織…知りませんけど」
 と、店員さんも怪しい組織と判断してしまいました。
「う〜ん、やっぱり怪しいです…『悪いこと以外なら何でも手伝います!』なんて書いてあるけど…」
 それがどういう意図によるものなのか、やっぱり怪しいとしか思えません。
「本人に直接聞くしかなさそうですね…って、貴女はセンパイと知り合いなんですか?」
「い、いえ、直接的な知り合いではないですけど…ごにょごにょ」
 一応こちらへくるにあたって、卒業生を資料で把握しただけ、ですからね…。
「じぃ〜…怪しいですね?」
「…えっ? あ、怪しいって、何がです?」
 何だか見つめられてしまって、思わず目をそらします。
「いえ、何となくですけれども…」
「そ、そうですか…ともかく、山城すみれさんのお知り合いでしたら、この怪しい行動について聞いておいてくださいませんか?」
「ですね、今度会ったときにでも」
 うん、お知り合いというのでしたら、私よりも確実でしょう。
「にしても、学園の生徒でもないのにどうしてそんな格好しているんですか?」
「…えっ? ど、どうして…そんなこと言うんですか? わ、私は…」
 あまりに唐突な言葉に、何とか落ち着こうとするもののそれもままなりません。
「…図星でしたか、適当に言っただけだったんですけど…」
「そ、そんな、どうしてそんなことが適当に言えちゃうんでしょう…私、そんなに浮いたりしています…?」
 確かに、私はここの生徒でもないながらここの制服を着てますけど、今まで何も言われませんでしたのに…。
「浮いてるというか、顔に出やすいというか…まぁ、スパイとかに向いてないのは確かですね?」
「そ、そんな…ちょっと、ショックかもしれません…」
 さらにあんなことまで言われて、全く自覚のなかったことにしゅんとしてしまいます。
「人には得手不得手がありますから、気にしないで?」
「うっ、それ…励ましているつもりですか…?」
 一応、店員さんは山城すみれさんとは話をしてくれるっぽいんですけど…私がこの先ちゃんとやっていけるのか、不安になってきちゃいました。


    -fin-

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