〜アサミーナとかなさまとランニング〜

 ―穏やかな日和の下、すぐ前を大好きな人が走ってて…。
「はぁ、ふぅ…か、夏梛ちゃん、ちょっと…待って…」
 でも、私…石川麻美は、公園の中へ入ったあたりで息を切らしてその彼女を呼び止めてしまいます。
「麻美? どうかどうかしたんです?」
「ど、どうかした、って…はぅ、そ、そろそろ、一休みしない、かな…?」
 ゆっくり立ち止まってくれるあの子、夏梛ちゃんに、私は息を切らせながらそう提案します。
「えっ、でもでもまだ2キロくらいしか走ってないですよ?」
「か、夏梛ちゃんは全然息切らしてないね…はぁ、ふぅ。2キロって、十分たくさん走ってる気がしちゃうんだけど…あぅ」
「全く全く…私のトレーニングに付き合うって言い出したのは麻美じゃないですか」
 平然とした様子の彼女の言う通り、今はトレーニング…ランニングをしていました。
「は、はぅ、そ、それはそうだけど、せっかく今日は二人とも空いてて一緒にいられるから、こういうのも一緒にしたいな、って…」
 そういうことで勢い勇んで一緒に走ることにしたんですけど、やっぱり私と夏梛ちゃんとでは全然体力が違うみたい…。
「仕方ない仕方ないですね、少し少し休憩しましょう」
「う、うん、ご、ごめんね…?」
「別に別に、麻美を責めてるわけじゃないですから…全く全く、麻美はかわいいですね」
 少ししゅんとしてしまう私を、あの子がやさしくなでてきます?
「も、もう、そんな、どうしてそうなるのかな…夏梛ちゃんのほうが、かわいいに決まってるのに…」
「…ふふ、食べちゃいたいくらいですよ?」
「も、もう、夏梛ちゃんったら…恥ずかしいですけど、そんなことを言ってくれるなんて、嬉しいかも…」
 赤くなっていくのが自分でも解って、どきどきしてしまいます。
「…よし、それじゃもう一走り」
「…わっ、待って、待って…!」
 と、夏梛ちゃん、笑顔であんなこと言うものですから、少し慌ててしまいました。
「ふふ…冗談冗談です、とりあえず座りましょう」
「もう、夏梛ちゃんったら…」

 近くの自動販売機でお茶を買った私たち、公園にあるベンチに腰かけます。
「う〜ん、私もやっぱりもっと体力つけないといけないよね…」
 お茶を口にしながら、ついそんなことを呟いてしまいます。
「まあまあ、気長に行きましょう」
「う、うん、でも夏梛ちゃんはダンスも全然息切れしないし、昔から運動はよくしてたのかな?」
 今も全然元気な様子だし…って、これは私の体力がなさ過ぎるだけなのかもだけど…。
「えとえと、ダンスダンスは昔から、といいますか身体を動かす動かすのは基本的好きです」
「わぁ、やっぱり夏梛ちゃんはさすが…。それに較べて私は、色々お稽古事はしてきたけど、結局体力はつかないままだったし…」
 声優さんになるには体力も必要っていうことは解っていたのに…でも、ダンスをしたりすることまでは、あの頃は想像できてなかったかな…。
「持久力がつくトレーニングをしてこなかったから…ですかね?」
「う〜ん、剣術や薙刀のお稽古はしたけど、持久力は…つかなかったかな?」
 と、夏梛ちゃん、少し考え込んだ様子になっちゃう?
「…夏梛ちゃん?」
「解りました…私が私が麻美の先生になりましょう」
「…って、えっ、か、夏梛ちゃん?」
 唐突な言葉に、少し戸惑ってしまいました。
「先生に任せる任せるですよ!」
「う、うん…えっと、お願いしますっ!」
 そして強い口調の彼女に思わず強い口調でお返事し返しますけど…これって、夏梛ちゃんが私のトレーナーさんになってくれる、っていうこと?
 何だか申し訳なくもなっちゃうけど、でも…そんなこと言ってくれるだけで、嬉しいかも。
「あ、あとあと、ダンスも確かに確かに好きですけど…い、一番大好きなのは麻美ですからね?」
 しかも、さらにそんなことまで付け加えてくれました?
「わっ、そんな、夏梛ちゃん、わざわざそんなこと言ってくれるなんて…」
「き、今日はサービスサービスです」
 少し恥ずかしそうにぷいってしちゃうあの子…もう、かわいらしすぎます。
「うん…うふふっ、嬉しい。私も、夏梛ちゃんが一番大好きだよっ」
 もう我慢できなくって、思わずぎゅっとしちゃいました。
「あ、麻美…」
 夏梛ちゃんもぎゅっとし返してくれて…もう、幸せです。
「夏梛ちゃん…ずっと、一緒なんだから…」
 ですから、そんなあの子に思わず口づけをしてしまうのでした。


    -fin-

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