〜アサミーナとかなさまとアイドル〜

「麻美、ただいまです」
「あっ、夏梛ちゃん、お帰りなさい」
 ―テレビを観ているとお外から帰ってきたあの子の声がかかってきたから、画面から視線を外して彼女へ顔を向けました。
「今日のお仕事、お疲れさま。さっそく、夕ごはんの準備するね」
「ありがとうございます…ですけど、そんなそんな急がなくっても、のんびりのんびりで大丈夫ですよ?」
 私の言葉にそんなことを言いながらお部屋へ入ってくる夏梛ちゃん…私、石川麻美のとっても大切な、大好きな人です。
「それにそれに、いつもいつも麻美にばっかりお料理させちゃって、何だか悪いです」
「もう、そんなこと気にしなくっても大丈夫だよ? 私より夏梛ちゃんのほうが忙しいんだし…それに、こうやって夏梛ちゃんをお出迎えしてお食事を作ったりするなんて、まるでお嫁さんみたいでとっても幸せなんだもん」
「は、はわはわ、な、何を何を言ってるんです…!」
 顔を真っ赤にして慌てちゃったりして、本当にかわいいんだから。
「うふふっ、じゃあ夕ごはんの準備は後にして、まずは夏梛ちゃんとのんびりしようかな…お隣にきて?」
「はぅはぅ…も、もう、しょうがないですね…」
 恥ずかしそうにしながらも、私の座るソファのすぐお隣に座ってくれる夏梛ちゃん。
 こうして夏梛ちゃんと一緒に暮らす様になってから、お家でも一緒にいられてとっても幸せ。
「うふふっ、夏梛ちゃん、大好き…」
 すぐお隣にそんなかわいいあの子が座って気持ちを抑えられるはずもなくって、思わず頭をなでなでしちゃいます。
「はわはわ、もうもう…あ、麻美は何をしてたんです?」
 話をそらせる様に、まだ映ってるテレビへ視線を移す彼女。
「…って、これってあのアイドルユニットの番組です? 麻美、この子たちに興味ありましたっけ?」
 画面に映っているのは今大人気な、とっても人数の多いアイドルグループの番組でした。
「ううん、全然興味ないよ?」
 最近ことあるごとにメディアが取り上げてばっかりで明らかに作為的なブームを起こそうと必死になってるとしか見えない他国のアーティストよりは全然いいとは思いますけど、でも興味はないことには変わりありません。
「えっ、じゃあどうしてどうして観てるんです? 何となく観てるだけ…は、麻美にはあり得ないことだって思いますし」
 首を傾げる夏梛ちゃんの仕草もかわいらしいですけど、彼女がそう思ってしまう様に私は何となくテレビを観る、なんてことはしないんです。
 だって、そんな時間なんてもったいないですよね…そんなことをするのでしたら、もっと他の色んなことをしたほうがいいって思います。
「うん、夏梛ちゃんのことを考えてたんだよ」
「わ、私のこと、です? えとえと、それってテレビをつけっぱなしでぼ〜っとしてた、ってことです?」
「もう、違うよ? この番組を観ながら、夏梛ちゃんのことを考えてたの」
 また首を傾げられちゃった…そんなにぴんとこなかったかな。
「だって、声優になることしか考えていなかった私と違って、夏梛ちゃんははじめからアイドルにもなりたかったんだよね?」
 今の私が彼女と二人でアイドルユニットを組んでいるのも、彼女ともっと一緒にいたいって理由で組ませてもらったもので、私は自分がアイドルになるなんてそのときまで考えもしなかったの。
「だから、もしかしたら夏梛ちゃんもこういうユニットに入って活動してた、って道もあったのかなって思って、色々考えてたの」
「そういうことでしたか…。でもでも、私だって声優として活動したい、というのがまずきますから、それはないって思いますけど…色々って、何を何を考えてたんです?」
 あ、そう言われればそうだよね…夏梛ちゃんは声優としてのお仕事を第一に考えてて、そっちを捨ててアイドルにだけなるっていうのは、逆はあり得てもこっちはなさそう。
「うん、このたくさんの中のどの子よりも夏梛ちゃんのほうがかわいいよね、とかじゃあやっぱり夏梛ちゃんがいたら一番人気になってるのかな、とか…」
「はわはわ、それは言いすぎです…というより、このグループの人たちに失礼失礼です…!」
「そ、そうかな、私はやっぱり夏梛ちゃんが一番だって思うけど」
 うん、歌唱能力とかを含めても私はそう思うかな…って、メンバーの誰が誰だかも解らない私が言うのは確かに失礼かもしれないけど。
「も、もうもうっ、そんなこと言う麻美だって…!」
「…えっ、私がどうしたの?」
「絶対絶対この中に入っても…はわはわっ、何でも何でもありませんっ」
 あたふたして顔を真っ赤にしちゃってる…もう、やっぱりかわいいです。
「えとえと、とにかくとにかく、麻美の言うことは大げさ大げさすぎますっ」
「そうかな?」
「そうですっ、もしそれが本当本当なら、私たちのほうが有名になってなきゃおかしいおかしいです」
「う〜ん、そう言われると、そう…なの、かな?」
 私が足を引っ張ってるとか、宣伝戦略とか売り出しの積極性の差とか、何だか色々、夏梛ちゃんの魅力以外のところでの要因が大きそうだけど…。
「ですです、そうなんですっ」
「…うん、じゃあそうなんだね」
 向きになる夏梛ちゃんがあまりにかわいいから、笑顔でうなずき返しちゃった。
 それに、私たちのユニットがあそこまで有名になったりしちゃうのはちょっと、っていう気持ちが私にはあったりするし…だって、あんまりあのグループのことを知らない私でも色々大変そうにも見えますし、声優とか歌とかとは全然違うお仕事もしなきゃいけなくなりそうで、はっきり言って嫌ですよね、そんなの。
 私にとって大切なのは、夏梛ちゃんと一緒にいること…なんて、アイドル失格かな?
 でも、もしももっと有名になっちゃたとしても…大丈夫。
「夏梛ちゃん、これからも一緒に頑張ろうねっ」
 思わずぎゅっとしちゃいましたけど…うん、夏梛ちゃんと二人でのユニットなんて幸せなことなんだし、私は頑張れる。
 それに、夏梛ちゃんも私も、お仕事で一番したくて大切なのは声優としてのもの、って思ってるから、おかしな風にプレたりしちゃうなんてこともあり得ないし、心配はないかな。
「はわはわ、い、いきなりいきなり何です…でもでも、そんなのそんなの当たり前です」
「うふふっ、うん」
 声優としても、アイドルとしても全然な私だけど、この子と一緒なら頑張れる。
 だって、夏梛ちゃんは私にとって一番のアイドルで、大好きな声優さんで、一緒にお仕事をするパートナーで、そして何より…。
「…夏梛ちゃん、大好きっ」
 とっても大切な、愛する人なのだから。


    -fin-

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