〜アサミーナの休日(2)〜
「はぁ、夏梛ちゃん…」
―お仕事がお休みな日、私…石川麻美はお部屋の窓から外を眺めながら、思わずため息をついちゃいました。
私の大好きな、とってもかわいい夏梛ちゃん…いつもそばにいたいんですけど、この一週間はお仕事でお家を空けちゃっています。
何かあったら連絡をすることにお互いにしていますけれど、今日まで何もありませんから夏梛ちゃんも毎日無事に過ごしているはず…ですけど、やっぱりさみしいものはさみしいです。
不安や心配な気持ちにもなっちゃいますけど、お仕事に集中している夏梛ちゃんのお邪魔になってはいけませんから、電話とかは我慢、我慢です。
「はぁ、夏梛ちゃん…はやく、会いたい…」
明後日からは私たち二人のユニットでのお仕事になっていますから、明日には私もあちらへ向かうことになっているのですけれど、その一日がとっても長く感じられてしまいます。
いっそ、私も一日はやくあちらへ行ってしまおうかな…。
「…って、もう、しっかりしなきゃ」
と、ついぼーっとなってしまう気持ちを何とか呼び戻します。
夏梛ちゃんは一人でしっかり頑張っているんですから、私もそんなお仕事の邪魔になる様なことをしてはいけません。
今日は確かにお休みですけれど、でもそれでも頑張れることはあります…ユニットのパートナーとして一緒に活動する夏梛ちゃんをがっかりさせる様なことのない様にしなきゃ。
季節はすっかり秋…あのとっても暑かった夏が今となっては嘘の様な涼しさです。
その様な中、私は一人お家を後にして…ジャージ姿で道を走っていました。
こんな格好、学生時代の体育の授業くらいでしかしないと思っていましたけれど、やはり運動するにはこれがよさそうです。
ただ、その学生時代も体育の授業以外ではそんな格好はしませんでしたし、公道を走るのはちょっと恥ずかしい…いえ、私は目立たないですしあまり他の人の視界には入っていないかと思いますけれども。
そういう思いもあってあまり人のいないところを走っていって、気づいたら町外れ…いえ、目指している場所がそちらではありますけれども。
「ふぅ、はぁ…少し疲れますけれども、まだ大丈夫そうです」
別に無理をする必要はありませんからマイペースでですけれども…やっぱり私は多少体力がないでしょうか。
夏梛ちゃんと一緒に、そして足を引っ張らない様に歌ったり踊ったりして、さらにライブなど長い時間それを続けるにはまず体力が必要…ですから今日はこうしてジョギングをすることにしたわけです。
今日はとってもいいお天気で風も弱く、走るにはいい日和…町外れはのどかな光景が広がっていて、その景色のおかげで疲れも多少和らぎます。
「こんな中、夏梛ちゃんと一緒に走れたらとっても気分よさそう…」
思わずそんなことを呟いて少しさみしい気持ちにもなってしまいましたけれど、いけません、しっかり頑張らないと。
「ふぅ、やっとたどり着きました…」
しばらくジョギングを続けた私ですけれど、そこからさらに長い石段を登って、目的としていた場所へやってきました。
そこは深い木々が周囲を包み込むお社…これまでにも何度かきているところです。
相変わらずとっても静かで厳かな雰囲気のある場所…数度深呼吸をすると、上がっていた息も落ち着いていきます。
と、あたりを見回してみたところ、お社の敷地内に人の姿はない様子…奥に家があることからも解る様にここには人が住んでいらして何度かお会いしたこともあるのですけれど、今日はお留守でしょうか。
でも、それでしたらちょっと森の中をお借りしても大丈夫かな…と、その前に…。
「夏梛ちゃんが、元気でいますように…」
社殿の前に立って、そう強くお願いをするのでした。
お参りを済ませた私は、お社の周囲を包む森の中へ入っていきます。
森の中もやっぱりとっても静かで、そしてもちろん誰の姿もありません。
「うん、ここならしっかり練習できそう」
森の中の少し開けたところで足を止めた私…そこで踊りの練習をしていきます。
元々上手な夏梛ちゃんと違って、私はあの子とユニットを組むまでダンスの経験なんてほとんど…正確にいえばないこともなかったんですけど、でも激しい動きのものとなるとありませんでした。
そもそも運動神経のあまりよくない私ですから、今のままじゃ夏梛ちゃんの足を引っ張っちゃって、ユニットを組んでくれたのに申し訳なくなっちゃいます。
「夏梛ちゃんとこれからもユニットを続けられる様に、頑張らなきゃ」
プライベートであんな関係でいられるだけでも夢みたいですけれど、やっぱりお仕事の面でも一緒に歩んでいきたいですから…ですから、声優として、アイドルとしてもあの子と釣り合える様になるためにも頑張らなきゃ。
「…うん、さみしがっている暇なんて、ないですよね」
-fin-
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