〜アサミーナとかなさまとデートの日〜

「あ、あの、麻美、ちょっと…いいです?」
 ―夕食後、後片付けをしていると私…石川麻美の大好きな、そして一緒に暮らしている夏梛ちゃんが声をかけてきました。 「うん、どうしたの、夏梛ちゃん?」
「は、はい、そのその…」
 手を止めて彼女を見ますけれど、顔を少し赤らめて何だかもじもじしています…?
 そんな仕草がとってもかわいらしくって思わずぎゅってしちゃいそうになりますけれど、でもどうしたのか気になりますし、何とか我慢をして様子をうかがいます。
「えとえと…あ、麻美は明日、何か何か予定とかあります?」
 私がじっと見つめちゃったこともあってかやっぱり恥ずかしげな様子でそう訊ねられました。
「ううん、明日はお休み…って、夏梛ちゃんも知ってるって思ってたんだけど…」
 明日は私も夏梛ちゃんもお仕事のない日なのですから、忘れるわけありません。
「そ、それは私も知ってますけど、お仕事以外の予定はないんですか?」
「あっ、そういうことですか…えっと、明日は夏梛ちゃんとのんびり過ごしたいな、って思ってるよ?」
「は、はわはわ…!」
 もう、そんなに恥ずかしがることじゃないのに…かわいいんだから。
「でも、それがどうしたの?」
「は、はい、えとえと…も、もし麻美がよかったら、明日は一緒にお出かけしませんか?」
「えっ、お出かけ…って?」
「そ、そのその、一緒にお買い物したり、お食事したり、って思ったんですけど…だ、ダメです…?」
 不意な言葉に思わず聞き返してしまったからか、とっても不安げに訊ねられてしまいました…って?
「えっ、夏梛ちゃん、それって…もしかして、デートのお誘い…?」
「え、えとえと、麻美が嫌なら…!」
「そんな、嫌なわけないよっ!」
 とっても嬉しいお誘い、さらにはもじもじする彼女のかわいらしさに気持ちが抑えられなくなって、そう声をあげると同時にぎゅっと抱きしめちゃいました。
「は、はわはわ、あ、麻美…?」
「夏梛ちゃんからデートのお誘いなんて、とっても嬉しい…明日は、楽しみにしてますね?」
「あ、麻美がそこまでそこまで言うんでしたらしょうがないですね…!」
「うふふっ、うんっ」
 とっても幸せな気持ちに包まれて、しばらくあの子をぎゅってし続けちゃいました。

 夏梛ちゃんからのデートのお誘いなんて、今まであったでしょうか。
 まだ私の片想いだって思っていた頃はもちろん、こうして一緒に暮らすまでになった今でもあの子からそんなはっきり誘ってくれたことはないと思います。
「…麻美ってば、ずいぶんずいぶん機嫌がよさそうですね?」
 ですからとっても嬉しくって、翌日ついにお出かけするときに、夏梛ちゃんがそう言ってきました。
「それはもう、夏梛ちゃんとのデートだもの…とっても嬉しくって」
 そんな私の気持ちを反映してか、今日はお天気も穏やかな晴天で絶好のデート日和です。
「も、もうもう、まだお家を出たばかりですのに、大げさ大げさすぎですっ」
「大げさでも何でも、嬉しいものは嬉しいんだもん」
 気持ちはほわほわ…ぎゅっと腕を組んじゃいます。
「はわはわっ、あ、麻美っ?」
「せっかくのデートなんだし…いい、よね?」
「全く全く、しょうがないです…!」
 真っ赤になりながらもぎゅっと腕を組み返してくれる夏梛ちゃん…もう、やっぱりかわいらしすぎます。

 私たちがまず向かったのは、私が夏梛ちゃんのおよーふくをよく買っているお店…だいたいは私の手作りなんですけどときどき買うこともあって、そのときにはそのお店を利用しています。
 夏梛ちゃんがまずそこに行きたいと言ってきまして、そういえば二人一緒に行く機会ってそうなかった気もしましたからもちろんうなずいて、そこへ行ったんです。
 そのお店には夏梛ちゃんがよく着てる、そしてとっても似合ってるって思うゴスいおよーふくがたくさん…今の彼女が着ているのももちろんかわいいんですけど、ここのも色々着てもらいたくなっちゃいます。
「ではでは、今日は麻美にこのおよーふくを着てもらいたいです」
 夏梛ちゃんを着せ替えしちゃおうかな、なんて考えていると、彼女からそう言われてしまいました…?
「えっ、私が…って、もしかして、このゴスいおよーふくを?」
「ですです、今日はそのためにきたんですから」
「そ、そんな、こういうのは夏梛ちゃんが着るからかわいくってとっても似合うんだよ? それを私なんかが着ても全然似合わないって思うし…!」
 思ってもいなかった事態に慌てちゃいますけど、私の言っていることは正しいはずです。
「もうもう、麻美はまたそんなそんなこと言って…着てみないと解りませんよ?」
「わ、解ると思うよ、そんなこと…」
「…麻美、着てくれないんですか?」
 はぅ、夏梛ちゃんが私のことをじっと見つめてきちゃっています…。
「え、えっと…か、夏梛ちゃんがそこまで言うなら、い、いいよ…?」
 せっかくのデートなんですし、お願い事はなるべく聞いてあげたいですよね。
「で、でも、似合わなくってがっかりしちゃっても、知らないからね…?」
「もうもう、そんな心配はしなくっていいです…じゃあ、さっそくさっそく着替えさせてあげます」
「…えっ? そ、そんな、一人で着替えられるし、大丈夫だから…!」
「でもでも、いつも麻美が私にしてることですし、遠慮はいらないいらないですよ?」  夏梛ちゃん、そんなこと言いながら、およーふくを一着手にしつつ私を試着室へ誘ってきます。
 う、うぅ、確かに私は今日も夏梛ちゃんに服を着せてあげたりしましたけど、それは夏梛ちゃんがかわいいからであって、私にしても意味ないのに…。
 といっても彼女が私へ対して積極的に何かをするなんてそうないことですし、それはとっても嬉しいことですよね。
 ですから、ここは夏梛ちゃんに全てを委ねることにしました。
「やっぱりやっぱり、麻美の髪は長くてさらさらで、とってもとってもきれいです」
「そ、そんなこと…」
 彼女が後ろから私の髪をなでてきたりして、どきどきしてしまいます。
「はわはわ…やっぱりやっぱり、麻美はスタイルもとってもとってもいいですよね」
 さらに、服を脱がせながらそんなことを言ってきます…!
「か、夏梛ちゃん、何言って…は、恥ずかしいよ…!」
「で、でもでも本当本当のことですし…それにそれに、あ、麻美だっていつもいつも私に同じことしてきてるんですから、お返しお返しですっ」
 赤くなっちゃう私に対して、一方の夏梛ちゃんもよく見ると真っ赤になっちゃってました。
 もう、そんなこと言ったりして、やっぱり夏梛ちゃんはかわいらしすぎます。
「…ひゃんっ、そっ、そんなそんな格好で抱きついたりしないでくださいっ。き、着替えさせられないですし…!」
「あっ、ごめんね、つい…」
「あ、あぅあぅ、麻美はずいぶんずいぶん余裕なんですね…!」
 思わず抱きしめちゃいそうになりましたけれど…恥ずかしさより、夏梛ちゃんが愛しいって気持ちのほうが上になっちゃったんです。
 でも、夏梛ちゃんが恥ずかしいのを我慢して着替えさせてくれるんですから、私も気持ちを抑えてじっとしていることにします。
「え、えとえと、で、できました…か、鏡を見てみたらどうです?」
 しばらく夏梛ちゃんへ身を委ねてますとやっぱり恥ずかしげな様子ながらそう言われますから、鏡のほうを向いてみますと…そこには、夏梛ちゃんみたいなゴスいおよーふくを着た私の姿。
「わ…え、えっと、これ、似合ってるのかな、夏梛ちゃん…?」
 鏡に映るのは自分のはずなんですけれど、見慣れぬ姿に別人に見えて戸惑っちゃいます。
「は、はい、えとえと、とってもとっても似合ってますよ…?」
 夏梛ちゃん、そうお返事してくれますけど、明らかに私から視線をそらせちゃってます。
「そう思うならどうしてちゃんと見てくれないの? やっぱり、おかしいからなんですよね…?」
「そんなそんなことないですっ! 麻美がかわいすぎて、どきどきしすぎて見れない見れないだけですからっ!」
「わっ、か、夏梛ちゃん…」
「あ、あぅあぅ…!」
 彼女の心からの言葉に、お互い顔を真っ赤にして固まっちゃいました。
 私よりずっとかわいくってこういうおよーふくの似合う夏梛ちゃんにそんなこと言われちゃってとっても恥ずかしい…でも、とってもどきどきして、とっても嬉しいです。
「…あ、ありがと、夏梛ちゃん」
「べっ、別に別に、お礼なんて…えとえと、それより、せっかくですから写真を撮ってもらいましょう」
 夏梛ちゃんは慌てた様子でそのまま私の手を引いて試着室から出ちゃいます。
 しゃ、写真って、それはいくら何でも恥ずかしすぎる気がしちゃいますけど…!

 ゴスいおよーふくを着せられて、元々そんな服装な夏梛ちゃんとおそろいになったわけですけど、そこで二人並んで写真を撮ってもらっちゃいました。
 お店の人が撮ってくれたのですけれど、私はときどきこのお店を利用しますからもちろん見知った人で、やっぱり恥ずかしいです。
「はぅはぅ、麻美のゴスいおよーふくのお写真…」
 しかも夏梛ちゃんはとってもどきどきした様子…そういえば夏梛ちゃんがお仕事で一人のときに私のメイドさんな服装の写真を見てましたし、もしかしたらこの写真も…?
 そう考えると…はぅ、私もどきどきしちゃいます。
「えとえと、麻美にはあっちのおよーふくも似合うんじゃないです?」
 写真も撮って一息ついたところで、あの子が同じ店内の、でも別のブランドのものへ目をやります。
 そちらのブランドは和服とゴシック調のデザインを融合した感じのもので、確かに落ち着いて素敵なデザインのものではあるのですけれど…。
「えっと、あれは…私なんかじゃ、ちょっと不釣り合いじゃないかな…?」
 あれは相当な美人さん…そう、あのブランド担当の人くらい和服の似合ったりする人じゃないと、とてもじゃないですけど釣り合わない気がします。
「全く全く、麻美はまたそんなこと言って…私は似合うって思いますし、着てくれませんか…?」
 でも、そう言って夏梛ちゃんはじっと私を見つめてきて…こうなると、断ることなんてできませんよね。

 それからさらに、そのブランドだけじゃなくって、そのお店にある他の二つのブランドのものまで着せられちゃいました。
 一つはカジュアルな雰囲気のものでしたからまだよかったのですけれど、もう一つは本当にかっこいい人じゃないと絶対に似合わないものでしたから、とっても恥ずかしかったです。
「麻美はどれを着てもとってもとっても素敵です…私じゃ、とてもとても大人っぽいものは似合わないですし…」
 ふとあの子がそんなことを呟いたんですけど、あんなにかわいいものが似合うだけでもすごいって思います…そもそも、私に大人っぽいものが似合っていたかどうか、自分ではあまりそうは思えませんし。
 ともあれ今日は私が夏梛ちゃんにいっぱい着せ替えさせられちゃいました…いつもと逆の立場ですけれど、着替えた私を見て赤くなったり喜んでくれたりする彼女を見れましたから、私もそこは嬉しかったです。
 結局お昼過ぎまでお店にいて、最終的には私のためにおよーふくを二着ほど…和風ゴシックなものを買ってもらっちゃいました。
 夏梛ちゃんにゴスいおよーふくを買ってあげようとも考えたんですけど、試着したのは私ばかりでしたし、それはまた次の機会…私が作ってあげちゃおうかな。
「せっかくせっかく買ったおよーふく、さっそく着てみたらよかったのに…」
 お店を後にした夏梛ちゃんは少し不満げ…私が結局元の服装に戻っているからです。
「ご、ごめんね、夏梛ちゃん。やっぱり、心の準備とかいるから…」
「むぅ〜…でもでも、いいです。今日は、麻美の色んな姿をたくさんたくさん見られましたから」
 そう言って微笑んでくれる彼女…ちょっと恥ずかしくもなっちゃいますけど、でもやっぱり幸せです。


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