〜アサミーナと木刀と女の子〜
―先日から降り続いた雪が結構たくさん降り積もっちゃってる中、私…石川麻美は町外れにある神社へ向かっていました。
夏梛ちゃんはお仕事でいなくって、あの子も向こうで頑張っているのですから、私ももっとしっかり練習しないといけません。
そういうことで、ときどき場所を借りている神社へ…ダンスの練習などすることはたくさんありますけれど、今日は出演が決まったゲーム作品の練習をしようかなと、ちょっとしたものを持ってやってきました。
滑ったりしない様に気をつけて石段を登った先、神社の境内は雪が積もっていてさすがに誰もいない…と思ったのですけれど。
「ふにゅ、ふにゅ、ふにゅ!」
境内の一角から何だかかわいらしい声がしていまして、そちらへ目を向けると何だかすごい勢いで雪がかき出されています?
誰かいるご様子ですけれど、何でしょう…気になってそちらへ歩み寄ろうとすると、そこから一人の女の子が姿を見せました。
「ふにゅ?」
こちらを見て首を傾げるのは小さな女の子…何だか猫耳っぽいものをつけている様にも見えますけれど、雪遊びでもしていたのでしょうか。
「えっと、こ、こんにちは…?」
何故だかその子は私の左手に握られたもの…練習用にと持ってきた木刀のことを見ていますけれど、ともかくお辞儀をしてみます。
スコップを手にしているその子、ずいぶん雪を掘っちゃったみたい…。
「ふにゅ、どうじょうやぶりにゃ?」
「…って、えっ? あの、今…何て言いましたか?」
予想もしなかった言葉をかけられて、思わず固まってしまいます。
「どうじょうやぶりにゃの! 勝負にゃの!」
「ど、道場破りって、わ、私がです…? きゃっ、お、落ち着いてください…!」
さらにはスコップを構えられてしまいますから、少し慌ててしまいます。
「ふにゅ、その得物が何よりの証拠にゃの!」
私が手にしている木刀を指差されちゃいました。
「あっ、いえ、これは、その、そういうのではなくって…!」
この木刀は確かに実家に伝わるいわれのあるものなのですけれども…。
「ふにゅ、スコップじゃフェアじゃなかったかにゃ? 解ったにょ、竹刀取ってくるにょ!」
「あっ、ですから、そんな…ま、待ってください…!」
神社のそばにあるお家らしい建物へその子は駆けていっちゃいました…。
「ふにゅ、取ってきたにょ!」
そして、その子は竹刀を手にして元気に戻ってきちゃいました。
「い、いえ、ですから、取ってこなくってもよろしかったのに…はぅ」
「みゅ、いざっ!」
どうしたらいいのか困っている間に、その子は竹刀を構えちゃいます。
「あ、あの、ですから、私は道場破りではなくって…お、落ち着いてくださいっ」
「ふにゅ、こないにゃらこっちから行くにょ!」
そして、私の言葉を無視して飛びかかってきちゃいます…!
「きゃっ、ま、待ってくださいっ!」
思わず手にした木刀で竹刀を受け止めちゃいます。
「ふにゅ!? …おねえにゃん、できるにょ」
その子、後ろへ飛びのきますけれど、また竹刀を構えちゃいます。
「えっ、そ、そんな、今のはただの偶然ですから、こんなこと、もうやめましょう…!」
一応私も剣術の心得はあったりしますけれど、でも理由なくこんなことをするのはよくないですし、ましては…。
「こんな小さな子と、だなんて…やっぱり、よくありません」
「セニアちっちゃくにゃいもん!」
「あっ、そ、そうですよね、ごめんなさい…」
強い口調でしたので、思わず謝ってしまいます。
「ふにゅ、解ればいいにょ!」
「はい…でも、それでも何だかかわいらしいですけれども…」
やっぱり小さな女の子ですし、それに口調も微笑ましいです。
「うにゅにゅ…照れちゃうにょ」
ちょっと身体をくねくねさせちゃったりして、やっぱりかわいらしく…。
「私と夏梛ちゃんにも、こんな子ができたら…あっ、えと、何でも…!」
感じたことを思わず口にしてしまって、赤くなって慌ててしまいます。
「ふにゅ? 何か言ったかにゃ?」
「い、いえ、何でもございませんから、どうかお気になさらずに…!」
「ふにゅーん?」
「え、えっと…うん、ともかく、あんまり無闇に人へ竹刀とかを向けたりしてはいけませんよ?」
「ふにゅ、解ったにょ」
話をそらすために言った言葉でしたけれど、うなずいてもらえてよかった…。
私のこの木刀は、ゲームで武器を振ったりするときの声の練習をする際のイメージをつけるために持ってきただけのものですし…。
「えと、では、今後は気をつけてくださいね?」
「ふにゅ、解ったにょ…せんせい!」
「はい…って、えっ? あ、あの、先生って…?」
その子の意外な言葉に、私はまた戸惑っちゃうのでした。
「ふにゅ…でも、つまんにゃいの!」
でも、よほど剣を交えたかったのか、あの子はそんなことを言ってきちゃいました。
「つ、つまらないとか、そういうことじゃ…え、えっと、剣術とか、お好きなのですか?」
「ふにゅ! 身体を動かせるにゃら何でも好きにゃのっ!」
「わぁ、そうなのですか…元気いっぱいなのですね」
では剣にこだわる必要はない気がしますけれど、微笑ましいですよね。
「うにゃ、みんなお家でつまらにゃいの!」
「そう、なのですか…? う〜ん、確かに今日は雪もこんなに積もって、寒いですものね…」
子供でしたら喜びそうな気もしますけれど、他にいらっしゃらないのでしょうか…?
「ふにゅ、みんななんじゃくにゃの!」
「う〜ん、それで貴女はお一人で雪遊びをしていらしたのでしょうか…」
「ふにゅ、さびしくなんかにゃいんだから!」
「そう、ですか…? それでしたら、よろしいのですけれど…」
無理をしている様にも見えましたから、少し心配になってしまいます。
「ふ、ふにゅ…どい、どうしてもっていうにゃら、一緒に遊んであげるにゃ!」
と、その子、こちらをちらっと見ながらそんなことを言ったりして、やっぱりさみしいみたいです。
今日ここへやってきたのは、もちろん練習のため…ですけれど、この子を放っておくことはできませんし、これはしょうがないですよね…?
「…はい、その、私でよろしければ、少しご一緒に…」
夏梛ちゃんも許してくれると思いますし、微笑みながらうなずきます。
「わーい…じゃにゃかったにょ、遊んであげるにょ!」
「はい、では、よろしくお願いします」
少しツンデレの様子も見えましたけれど、嬉しそうにしてくださいました。
「ずいぶん雪が積もっていますけれど、何をしましょうか…」
夏梛ちゃんが戻ってきたときにも雪が残っていたら、一緒に何かしたいものですよね。
もちろん、今はこの子に楽しんでもらって、それに練習もしっかりしなくてはいけませんけれども…夏梛ちゃん、無事に戻ってきてね。
-fin-
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