〜アサミーナとかな様とプレゼント〜

「もうすっかりすっかり冬になっちゃいましたね」
「うん、そうだね、夏梛ちゃん」
 ―お仕事もお休みのある日、のんびりお散歩しながらそんな会話を交わす私たち…石川麻美と夏梛ちゃん。
 もう十二月に入って、空気もすっかり冷たい…さすがの夏梛ちゃんもゴスいおよーふくの上にコートを羽織っています。
「夏梛ちゃんと過ごすはじめての冬…とっても楽しみ」
「はわはわ、何言ってるんです…年末はお仕事がたくさんたくさんあるんですからね?」
「そ、そうだったね…夏梛ちゃんとのんびりしたいのに、残念だよ…」
 もちろんお仕事も大切だっていうことは解ってますし、おろそかにするつもりもないですけれど、それでも…。
「もう、もうもう、そんなしゅんとしないでください」
「だって…くすん」
「全く全く…お、お正月は何も何もお仕事がないですから、そ、それでそれで我慢してくださいっ」
「あ…う、うん、ありがと、夏梛ちゃん」
「べ、別に別に、お礼を言われることじゃ…私だって、麻美と…」
 最後のほうは声が小さくなって聞き取れませんでしたけれど、言おうとしていたことは解ります…顔も真っ赤にしちゃって、相変わらず夏梛ちゃんはかわいいんだから。
 そんな姿を見ますと愛しい気持ちが一気に大きくなっちゃって、隣を歩く彼女の腕をぎゅっと組んじゃいます。
「わっ、わわわ、あ、麻美っ?」
「うふふっ、こうしたほうが、あったかいよね」
「も、もうもう、しょうがないんですから…!」
 こうやって夏梛ちゃんに寄り添って歩けるなんて、とっても幸せ…。
 そんな私たちはのんびり繁華街を歩いていきますけれど、さすがこの時期だけあって、街にはクリスマス関係のものがよく目につきます。
 クリスマス、ですか…去年までは特に意識していなかったイベントですけれど、今年はこうしてすぐそばに大切な人がいるから…。
 大切な人…恋人さんへその日にプレゼントを贈るっていう不文律があるみたいですし、私もこの機会に夏梛ちゃんへ改めて気持ちを伝えるという意味で何かプレゼントできたらいいですよね。
 でも…う〜ん、何をプレゼントしたら喜んでもらえるかな…?
「…麻美? さっきからぼ〜っとしたりして、どうしたんですか?」
「あっ、う、ううん、何でもないよ?」
 こういうのは実際に渡すまでは知られないでいるほうがいいと思うし、直接訊ねることはできないよね。

「う〜ん、どうしよう…?」
 当日まであと一週間くらいになってもまだプレゼントが決まらなくって、夏梛ちゃんがお仕事でいない日の午後、一人公園のベンチに座ってそのことを考えます。
 この時期の公園は寒さのためか人の姿もなく、寒さを気にしなければ考え事をするのに適しています…子供たちの姿がないのはさみしいですけれど、私の子供の頃も公園で遊んだりはしていませんでしたっけ…。
 それはそうと、やっぱり何をプレゼントすればいいのかなかなか思い浮かびません…。
「あら…こんな場所で、どうしたのかしら?」
「…えっ?」
 と、すぐそばでかかってきた声にはっとして顔を上げると、私の前に見覚えのある人が立っていました。
「あっ、榊原さん…こ、こんにちは」
 そこにいらしたのは、私と同じ事務所に所属する草鹿彩菜さんのマネージャをしていらっしゃる榊原氷姫さんでした。
 彼女はこの寒い中、コートなど着ておらず、そして寒そうな様子も見せずいつもどおりにクールな様子…そういえば寒さにお強いかたなのでしたっけ。
「…元気がないですね。何か、悩みごとですか?」
「…えっ? あっ、その…解っちゃいますか…?」
 確かにあのことで悩んでいましたけれど、お会いしていきなりの言葉に少し戸惑います。
「…貴女の表情を見れば、誰だって気付くと…思いますよ?」
「そ、そうなんだ…やっぱり、夏梛ちゃんのことだものね…」
「彼女に、何かあったのかしら…?」
「あっ、い、いえ、夏梛ちゃんには何にもないですよ?」
 今はお仕事があってちょっと会えないからさみしいけれど、それはまた会えますから我慢しなきゃ。
「では、一体…?」
 そうだ…このこと、相談してみようかな。
「あの、えっと…もうすぐ、クリスマスがありますよね?」
「クリスマス…あぁ、そんなものもあったわね。それが、どうかしたのかしら?」
 さっそくたずねてみることにしましたけれど、榊原さんはそのイベントのことを気にしていないみたい…私も、去年まではそうでしたけれど…。
「えっと、はい…はじめて夏梛ちゃんとクリスマスを過ごすんですけれど、やっぱりプレゼントは用意したほうがいいのかな、それに何がいいのかな、って…。私、今までそういう経験が全然ありませんから、ちょっと悩んじゃってて…」
 はじめてできた、そしてこれからもずっとこの子だけ…そんな大好きな子に贈るものなんですから、とっても悩んじゃうのはしょうがないですよね。
「あの子だったら、貴女からのプレゼントなら何だって喜んでくれると思うけど…」
「そ、そうでしょうか…?」
 確かに私なら、夏梛ちゃんからプレゼントをもらえるとすると何でも嬉しいですけれども、でもやっぱりお贈りするならその人の好きなものが特に、ですよね。
「でも、夏梛ちゃんの好きなもの…例えばゴスいおよーふくとかは普段からよくプレゼントしてますし、改めてとなると…」
 う〜ん、やっぱり難しいです…。
「そうね…手作りのお菓子とか、どうかしら。彼女、甘いもの好きだったわよね?」
 と、榊原さんのその一言にはっとしました。
「うん、そういえばそうだったよね…それに、大切な人へのプレゼントは、やっぱり手作りが一番、ですよね…」
 もう、どうしてこんなことに気付けなかったのかな…?
「どうかしら…悩みは解決した?」
「は、はい、ありがとうございます…夏梛ちゃんに喜んでもらえる様に、頑張って作ってみます」
「ええ、お役に立ててよかったわ」
 本当に、榊原さんにはお礼を言っても言い切れないくらいです。
 あとは、何を作るかを考えて…。
「じゃあ、次は私の相談に乗ってもらえるかしら…」
 と、榊原さんはそんなことをおっしゃりながら、私の隣に腰かけてきました…?
「えっ、あの、でも、そんな…私なんかで大丈夫なんですか…?」
「貴女でなければダメな気がするのよ…」
 突然のことに戸惑う私に彼女はそんなことを言ってきますけれど…私で、なければ?
「わ、解りました、できる限りお力になります…!」
 榊原さんほどのかたが私などに相談ごとなんてよほどのことだと思いますし、それに私の相談にも乗ってくださったのですから…緊張してしまいながらもうなずいたのですた。

 それから、榊原さんの相談を受けて彼女が立ち去ってからも、私はしばらくベンチに座っていました。
 ちなみに、彼女からの相談というのは恋の悩みで、一応私の意見も参考になったと言ってくださいましたけれども…クールな榊原さんがそんな相談をされるなんてかわいい、と思いかけたら、その前に私のことをかわいいと言われてしまいました。
 もう、夏梛ちゃんといい、私がかわいいだなんておかしなことを言って…はぅ。
 とにかく、これで彼女へのクリスマスプレゼントは決まりましたけれど、お菓子だけじゃちょっとさみしいかも…?
 手作りのものを何かもう一つくらい付け加えられたらいいな…ということで少し考えていたのですけれど、この時期ですし、マフラーとかなんていいかも、なんて思いました。
「うん、それじゃさっそく…もう日数もないし、今から材料を買ってこなきゃ」
 あと一週間、夏梛ちゃんのことを想って頑張って作るね…そう思いながら、ベンチを立ってその場を後にしたのでした。


    -fin-

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