〜アサミーナとかな様と秋のひととき〜

 ―暑かった夏もいつの間にか過ぎ去って、季節はもうすっかり秋を迎えています。
 秋というと様々なことをするのにいい季節といいますけれど、おいしいものも多い時期ですよね。
 ですから今日はたまたま通りかかった屋台であれ…といっても白たいやきではないものを買って、そのまま公園へ向かいました。
 ひと気のない公園ですけれど、その片隅にあるベンチには一人の女の子が座っています。
 人目を惹くゴスいおよーふくに身を包んだかわいらしい少女…私、石川麻美にとってもっとも大切な人。
 彼女はお仕事のない日にはよくこの公園で過ごしていて、私もそれが解っていますからこうしてここにやってきたんです。
 ベンチに座る彼女は何かを読んでいて、とっても集中している様子…お仕事のときにも見せるああいう真剣な表情も素敵です。
 ゆっくり歩み寄っても私の気配に気付かないみたいで、こうなるとちょっと悪戯心が出てきちゃいますよね。
「そ〜っと、そぉ〜っと…」
 忍び足で彼女の座るベンチの裏に回りこんで、そっと読んでいるものを覗き込んでもまだ気付かれません…とっても集中しているのか、それとも私の存在感のなさのためでしょうか。
 そんな彼女が読んでいたのは、やっぱり何かの台本でした…そんな彼女のお邪魔をするのはちょっとだけ気が引けちゃいますけれど、このまま気付かれないのもさみしいし…。
「…うふふっ、だ〜れだっ?」
 持っていた紙袋を地面に置いて、両手で彼女の目の前をふさいでしまいました。
「はぅっ? あ…麻美、もうっ、何やってるんですか?」
 うんうん、予想通りのかわいらしい反応…それに。
「わぁ、さすが夏梛ちゃん、すぐに解ってくれた…うふふっ、嬉しいな」
 ゆっくり手を離してそのまますぐ隣に座らせてもらいましたけれど、それだけでもう心がとってもあったかくなってきます。
「もうもうっ、子供じゃないんですから…」
「もう、夏梛ちゃんったら相変わらずかわいいんだから…」
 顔を真っ赤にしてしまっているのは、もちろんあの子…私の大切な、灯月夏梛ちゃん。
「台本を読んでたんだ…頑張り屋さんだね」
 こんなすぐそばに夏梛ちゃんがいて、周りには誰もいないんですから…想いが抑えられなくなって、そんなことを言いながら彼女を抱きしめてしまいました。
「ふにゃっ!? そ、そんなの当たり前…って、ちょっ、あうあうあう」
 対する夏梛ちゃんはあたふたしちゃいますけれど、その反応がやっぱりとってもかわいらしく、どきどきしてしまうと同時に、いつも抱いている不安が浮かんできちゃいます。
「でも、こんなところに一人で座ってるなんて、ちょっと心配だよ…? 夏梛ちゃんはもう有名人なんだから、変な人にからまれたりしないかとか…やっぱり、私ができるだけそばにいたいな…」
 そんな不安を消し去ろうと、さらに彼女をぎゅっとします。
「はぅはぅ、全く全く、大げさですよ? 一般では素人同然なんですから」
 もう、夏梛ちゃんは自分の魅力を解ってないんだから…。
 たとえ夏梛ちゃんの言うとおり知名度が低いとしても、夏梛ちゃんは普通にかわいいんですから、それだけで色々心配なのに。
「…でも、心配してくれてありがとう」
 と、彼女はそう言うと、ぷいっとそっぽを向いちゃいました。
 もう、照れちゃって…しょうがないんだから。
「ううん、夏梛ちゃんのことを私が想うのは当たり前のことなんだから、お礼なんていらないよ?」
 夏梛ちゃんが微笑ましくって、その顔をよく見ようと身体を離します…と。
「…離れちゃうんですか?」
「…はぅっ」
 さみしそうにこちらを見つめてくる彼女に…私の心は完全にやられちゃいました。
「も、もう、夏梛ちゃんったら…そんなにかわいいと、我慢できなくなっちゃうじゃない…」
 実際にもう我慢できなくって、さっきよりさらに強く抱きしめちゃいます。
「はぅん…あ、麻美ったら、仕方ないですね」
「うふふっ、夏梛ちゃんがかわいすぎるのがいけないんだから…」
「あ、麻美のほうがかわいいんですから…だからだから、私から離れたらダメダメですっ」
 そんなことを言う彼女も、私をぎゅっと抱きしめ返してくれるんです。
「も、もう、私なんて全然なのに…で、でも、夏梛ちゃんから離れたりなんて、絶対しないから、ね…?」
 夏梛ちゃんからの想いが伝わってきて、思わず涙ぐみそうになっちゃいます。
 …うん、これからも、ずっと一緒にいようね…?

「…くんくん、そういえば、何かいいにおいがしませんか?」
 しばらくぎゅっとしていた私たちですけれど、ふと彼女がそんなことを…と、そうでした。
「あっ、うん、買ってきたものがあったんだっけ」
 ゆっくり彼女から身体を離して、さっき地面に置いた紙袋を手にしました。
「はいっ、焼きいもだよ…夏梛ちゃん、一緒に食べよ?」
「わぁ…はい、ありがとうございます」
 紙袋から焼きいもを一つ取り出して手渡すと、彼女はとっても嬉しそう…うん、よかった。
「じゃあ、いただきます」
「いただきます…もきゅもきゅ、おいしいおいしいです」
 ベンチで寄り添って一緒に焼きいもを食べる…う〜ん、幸せです。
「そういえば、夏梛ちゃん、次はどんなお仕事なのかな?」
 焼きいもを食べながら、彼女が開いていた台本へ目を移してみます。
「えっと、これはゲームの…」
「うんうん、ゲームなんだ…発売したら買わなきゃ。今から楽しみ…」
「はぅはぅ、でもでも、これは百合なゲームじゃないですよ?」
「それでもいいの。夏梛ちゃんが出ている作品は全部買わなきゃ…私が夏梛ちゃんの一番のファンでもあるんだから」
 こうやって二人でのんびりしたひとときを過ごす…とっても、とっても幸せですよね。
 でも、冬になったらさすがに公園で台本を読ませるわけにはいかないかも…そのときは私のお家にきてもらおうかな?


    -fin-

ページ→1


物語topへ戻る