風邪で熱を出してた閃那には、持ってきたクッキーを渡して、ちゃんと布団に入ってもらった。
 あたしはさすがに今のままだとまずいし、一人でシャワーを浴びてきた。
 シャワーを浴びて部屋へ…ちゃんと休んでるかしらってベッドへ視線を向けると、一応ちゃんと布団に入ってるわね。
「閃那…もう、無理はしないでよね」
 あんたに何かあったら、あたしはどうしたらいいのよ…。
 ベッドの隣にある椅子へ腰かける…と、そんなあたしの手にあったかいものが触れた。
「…って、閃那、起きてたの?」
 触れたのは、布団の中からのびてきた閃那の手…だけど、その手にかかる力はやっぱり弱々しい。
「ティナさん…どこにも、行かないで…」
 さらに、弱々しい視線を向けられてそんなことを言われた。
「もう、当たり前でしょ? 風邪が治るまで、つきっきりなんだから」
「風邪が治ったら、どこか行っちゃうんですか…?」
「…へ?」
 もう、あによ…そんな不安そうな目で見ないでよね。
「全く…閃那のほうこそ、どっか行っちゃわないでよね?」
「そんな…私は、ずっとティナさんと一緒ですから」
「…そう、ありがと」
 不安そうな閃那をやさしくなでてあげる。
「あたしだって、ずっと閃那と一緒にいるわよ。ずっと、ね?」
 普通に考えたら、あたしなんかがこうやって閃那と一緒にいられるなんて、夢でも叶わないみたいなことよね。
 なのに、こんなに想ってもらえるなんて…本当に、ありがと。
「ティナさん…一緒に、休んでもらえますか?」
「ええ、もちろんいいわよ」
 閃那の隣…一緒の布団の中に入る。
「ティナさん…あったかいです」
 ぎゅっと腕にしがみつかれちゃった。
 ここでいつもの閃那なら色んなことしてきちゃうんだけど、今日はさすがに大人しいか。
「こうやってあたしがそばにいるから、ゆっくり休んではやくよくなりなさいよね?」
「はい、ありがとうございます…」
「もう、お礼なんていいわよ…じゃ、おやすみ」

 真夜中、ふと目が覚めた。
 暗い部屋の中、隣で眠る閃那はやっぱりちょっと苦しそう…。
「閃那…はやくよくなって、ね…」
 あたしは…そんな閃那の唇に、そっと口づけをした。

「ティナさん、朝ですよ、起きてください」
「う、う〜ん…閃那?」
 元気な声に目を覚ますと、すぐ目の前には彼女の明るい笑顔。
「あ、あによ、あたしよりはやく起きるなんて珍しい…っていうか、風邪はもういいの?」
「はい、おかげさまでもうすっかりよくなりました」
 確かに、昨日とは違って本当に元気な様子…大丈夫そうね。
「そう、よかった…でも、おかげさまでだなんて、あたしは何にもしてないわよ?」
 そばにいた、ってのは当たり前のことだし、それにそれでよくなるとも思えないものね。
 一方の彼女は、なぜか満面の笑顔を浮かべた。
「もう、そんなことありません。さっきはかわいい寝顔を見れましたし、それにティナさんが私の風邪を吸い取ってくれたからこうしてよくなったんだって思いますし」
 うっ、寝顔って…それに、吸い取ったってまた妙な表現を使うけど…え?
「ちょっ、ま、まさか、起きてた?」
 昨夜のことを思い出して真っ赤になってしまう。
「えっ、何のことでしょう〜?」
 そんな返事の閃那はずいぶんにやけてて…もうっ。
「げっ、元気になったなら、いつまでものんびりしてないでさっさと起きるっ」
「わ、わわっ、ティナさんっ?」
 慌てる閃那を放ってベッドから降りるけど、慌てたのはあたしのほうかもね。
 でも、まぁ…元気になってくれて、本当によかったわ。
「ティナさーん」
「…あによ?」
 振り向くと、やっぱり満面の笑顔の閃那…って、ちょっと、近すぎるってば。
「元気になったら…ティナのこと、欲しくなっちゃいました」
「んなっ、何言って…って、んん…!」
 反論する間もなく、あたしの口は彼女の唇でふさがれてしまった。
 も、もうっ、朝から何てこと…!


    -fin-

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