〜雨に唄えば…?〜

 ―最近はこのあたりも梅雨の時期になって、雨が多くなってきた。
「…はっ!」
 でも、あたし…雪乃ティナは、毎日の日課となってる魔法とか弓とかの稽古は欠かさずやってる。
 叡那さんは雨が降ってても気にせず剣を振ったりする人だけど、あたしはさすがにそこまではできなくって、今日みたいに雨雲の上に出て、空を飛んで魔法の稽古をしてる。
 これなら雨を気にすることはないし、それに空を飛ぶってだけでも稽古になるものね。
「ふぅ…ま、今日はこのくらいにしておこうかしらね」
 さすがにこの時期になると暑くて汗もかいちゃうわね…帰ったらシャワーでも浴びないとね。
 そんなことを思いながら雨雲の中を通り抜けて地上に…って、あによ、雲の下って雨が降ってないじゃない。
 でも、今にも雨が降りそうなのは間違いない中、あたしが降りるのは町外れの森に囲まれた場所にある神社。
 そこは叡那さんが護る神社で、あたしはそこで巫女の見習いをしたりもしてる。
 今日は叡那さんはいないはず…だけど、降り立った神社の境内には巫女の装束をした人の姿があった。
 でも、それはずいぶんと小さい…誰よ?
「あっ、こんにちは…練習、してたの?」
 箒を持って掃除してたその子がこっちに歩み寄ってきた…知らない人ってわけじゃなかったわね。
「あによ、誰かと思ったらカティアちゃんじゃない。そんな格好してどうしたのよ?」
 そう、その子はあたしの妹のティセの恋人なカティアちゃんだった。
 でも、ティセはときどきあの格好して神社の仕事の手伝いしてるけど、カティアちゃんがこんなことしてるのははじめて見たわ。
「神社のお手伝い…ティセと一緒なんだ」
 あぁ、なるほど…好きな人と一緒のことしたいってわけか…気持ちは解るわね。
「ふぅん、それならティセも呼んで一緒に掃除すればいいのに」
「ティセは…今、ねころさんとお菓子を作ってるんだよ」
 そう言われると、家のほうからいいにおいがするわね。
「ティナさんは…一人で練習、かな?」
 と、そんなこと言いながらなぜか携帯電話を取り出してる。
「あによ、電話すんの? なら、邪魔しちゃ悪いわね」
 でも、ここって確か…使えないんじゃなかったっけ。
「大丈夫、ティナさんはここにいて…閃那さんに、報告するだけだから…あ、電波が入らない…」
 がっくりしてるけど、やっぱり…あたしは携帯電話なんて持ってないんだけど、ここってそういう場所らしいのよね。
 ただ単に森の中だからなのか、それともやっぱ特殊な力が働いてるからなのかは解んないんだけど…それはまぁいいわ。
「閃那に報告…って、どうしてそんなことすんのよ?」
「えっと…何となく?」
 全く…閃那にそうする様に言われたのかしら。
 あたしが変なこととかしてるって思ってんのかしらね…ほんと、心配性なんだから。
「そんなことしなくっても大丈夫だってば。今から閃那のとこに帰るんだし」
 って、帰る先はあたしの部屋なんだけど。
「うん…あっ、その前に、ティセたちの焼いたクッキーを持ってったら…」
「そうね、そうさせてもらおうかしら」
 閃那はお菓子とか好きだし、喜ぶわよね。

「はぁ、結構濡れちゃったわね」
 神社でティセやねころ姉さんの作ったクッキーを受け取ってから、あたしは学園の学生寮に戻ってきたんだけど、途中で雨が降り出してきてしまったわけ。
 ま、クッキーは無事だし、そんな気にすることじゃないわよね。
「ふぅ、ただいま」
 学生寮の一室、あたしの部屋の扉を開ける。
 この学園の学生寮は本来一人部屋だから、誰もいないのが普通…なんだけど。
「あっ、ティナさん、お帰りなさい」
 部屋にいた一人の少女がそう声を上げながら立ち上がって…抱きついてきたっ?
「わっ、ちょっ、閃那ってば、や、やめなさいっ」
「えぇ〜、そんな、どうしてですか?」
 不満げな声を上げて、しかも離れないのはこの部屋であたしと一緒に暮らしてて、そして付き合ってたりもする人で、名前は九条閃那…叡那さんとエリスさんとの間にできた、未来からやってきた子供だったりする。
 こうしてすぐ抱きついてきたりとずいぶんな甘えたがりで、それは別に悪いことじゃないんだけど…。
「い、今のあたしは汗くさいし、それに雨に濡れちゃってるから…!」
「もう、そんなこと、気にしませんよ?」
「い、いや、あたしが気にするんだってば…!」
「う〜ん、しょうがないですねぇ…」
 ふぅ、やっと離れてくれたわ。
「じゃあ、お風呂に入りましょう、一緒に」
「え、ええ、そうさせてもらうわ…って、い、一緒にっ?」
「はい、そうですよ? 何を今更慌ててるんですか?」
 い、いや、まぁ、確かにいつも一緒に入ってるっていったらそうなんだけど、こんな急にだなんて、まだ心の準備ができてないってば…!
「ほらほら、ティナさん、行きましょ?」
 ぐいぐい腕が引っ張られちゃう…ま、観念するしかないか。
「…って、ちょっと待ちなさい」
「えっ? ティナさん、どうかしましたか?」
 不思議そうに足を止める閃那だけど、何か違和感があるのよね…。
「…閃那、顔が赤くない?」
「そうですか? う〜ん、ティナさんに恋してるからじゃないですか?」
 もう、何言ってんのよ…よく見ると、笑顔にも心なしか力を感じない気がする。
「う〜ん…」
 絶対、怪しいわよね…と、あやしは彼女をじっと見てみる。
「ど、どうしました? 照れちゃいます」
 そんなこと言う彼女の額に、あたしの額を重ね合わせてみる…って。
「ちょっと、ものすごい熱じゃないっ」
「えぇ〜、何がですか?」
 そんなこと言う閃那だけど、ちょっとふらついてない?
「もうっ、何でそんな無理してんのよっ。風邪ひいてるならちゃんと寝てなさいっ」

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