「深空ちゃん、おはようなの」
 迎えた学園祭当日、ホームルームが終わって自由行動に、っていうところで早々に声がかかってきました。
「えと、松永さん、おはようございます…その、わざわざくるなんて…」
 今まで彼女がこうして、しかも上級生の教室にまできたことはありませんでしたから、少し戸惑ったりまわりの目を気にしちゃいます。
 同時に少し嬉しく感じたりもした気がしますけど…。
「深空ちゃんと一緒に回るのが楽しみで我慢できなかったの。はやく行きましょう、なの」
「わ、わわっ、その…」
 あんなこと言われながら手を取られて引っ張られるものですから、ものすごくどきっとしちゃいます。
 も、もう、どうしてこんなにどきどきしちゃうの…?

 学園祭の会場は高等部の校舎が主になってますから、外に出て移動。
「今日は色々回って楽しむの」
 笑顔を向けてくる松永さんに、ただでさえどきどきしちゃうのに…。
「そ、それはいいんですけど…どうして、手をつないでるんです…?」
 そう、外に出てもあの子は私の手をつないできてて…反対側の手でみーちゃんを抱きかかえる私、さらにどきどきしちゃってます。
「手をつなぐの、いけないの?」
「べ、別にそういうわけじゃ…ないですけど」
「ならよかったの、このままいくの」
 あんなかわいらしく首を傾げられたら、ダメだなんて言えないです…私も、嫌ってわけじゃないですし…。
「うふふっ、深空ちゃん、かわいいの」
「なっ、何を言ってるんです…!」
 自分で顔が赤くなっているのが解りますけど、かわいいというのはどう考えても…彼女のほうなのに。

 学園祭は二日にわたって行われ、一日めは学園生だけで、二日めに外部の人も入れる様になります。
 といっても、入れるのは卒業生の人とか分校の生徒さんかその友人、あと家族くらいらしいから、全然関係ない人は入れないみたい。
 私には、そういう呼んだりする人なんて誰もいないですから関係ないんですけど…家族、ですか…。
「…深空ちゃん、どうしたの?」
「あ…ううん、何でも、ないです」
 いけない、少し考えごとをしちゃいました…隣にあの子がいるのに。
「ならいいんですの。あら、深空ちゃん、まだ一つも食べてないの…あ〜ん、ですの」
 と、私とあの子は屋台で買ったたこ焼きをそれぞれ持っていたんですけど、彼女がつまようじに刺したたこ焼きを私の手元に差し出してきます?
「わっ、え、えと、自分で食べられます…!」
 そんなことされるものですから慌てて自分の分のたこ焼きを口にして…
「はうっ、あ、熱い…」
「大丈夫なの? でも、かわいいの」
 おかしなこと言われちゃって、色んな意味で熱くなっちゃいます。
 うぅ、いけない、落ち着かなきゃ…。
「ん…だ、大丈夫ですから」
 何とかたこ焼きを飲み込んで、一息つきます。
「よかったの…深空ちゃん、今日は私と一緒で、楽しかったの?」
 そういえば、今日はもうすぐおしまいの時間。
「…うん。楽しかった、です」
 学園祭とか、私には関係ないって思ってたのに…やっぱり、松永さんが一緒だからです、よね。
「私も楽しかったの。明日もよろしくお願いしますの」
 笑顔な彼女の言葉に自然にうなずき返しそうになる…けど、さっき考えこんじゃったことが思い浮かんだの。
「でも…松永さん、家族とか、こないんですか?」
 明日は一般なかたに開放される日ですから、家族のくる人も多そう。
「…大丈夫なの。深空ちゃんと一緒がいいの」
 あれっ…今、彼女の表情が少し曇った様な…。
「でも…深空ちゃんこそ、家族とかこないの?」
「…うん。私も、大丈夫です」

 そのまま松永さんとお別れしたんですけど、最後はちょっと微妙な空気になっちゃいました。
 もしかして、松永さんも私みたいな事情があるのかな、って考えたりしちゃいますけど…
「…ううん、そういうのはよくないよね、みーちゃん」
 思い直して、みーちゃんをぎゅっとします。
 うん…もし、そういうことだったとしたら、それはなおさら誰かに話したりしたくないよね。


次のページへ…


ページ→1/2/3/4/5/6/7/8/9/10/11/12

物語topへ戻る