あのことを思って、松永さんと距離を置こう…って、心の中で思っても。
「深空ちゃんの花壇もとってもきれいなの」
「えと、う、うん、ありがと…」
 実際に一緒にいると、もっと一緒にいたいなんて逆の気持ちまで出てきてしまって、そんなことできません。
「ちょっと一休みしましょう、なの。今日もお茶を用意してますの」
「うん…」
 今日も放課後は温室で二人きり…いえ、みーちゃんもいますけど、とにかくお花のお世話です。
 その合間に今みたいに温室の中にあるテーブルについて、彼女が持ってきたお茶を一緒に飲んだりします。 「お茶、おいしいの?」
「うん、おいしいです…ありがとうございます」
「それはよかったの」
 お茶を口にする松永さんはいつも通りにこにこ顔。
「…でも、深空ちゃん、ちょっと元気がない気がするの。どうしましたの?」
 と、その笑顔が少し陰ってそんなことを言われてしまいました?
「えっ、ど、どうして、ですか?」
「何となくそう見えましたの。笑顔もなくなっちゃってるの」
 あのことが頭の中にあって、それで気持ちが沈み気味なのは確か…なんですけど。
「えと、私…笑顔って、なったことありましたっけ…?」
 自分で言うのも何ですけど、私は表情が硬いですし、特にあのとき以来笑顔になんてなった覚えが…。
「そう言われてみると、ない気がしますの。どうして笑顔にならないの?」
 もう、やっぱりそんなことなかったんじゃないですか…。
「そんなこと言われても…」
 私って元々無表情ですし、あんなこと言われても困ります。
「深空ちゃんの笑顔、きっととってもかわいいの」
「…な、何を言ってるんです、もう」
「あらあら、私、何かおかしなことを言いましたの?」
 心底不思議そうに首を傾げられちゃいましたけど…本気で言ってるんでしょうか。
「私の笑顔なんかより、松永さんの笑顔のほうがずっとかわいいと思うんですけど」
「あら、ありがとうなの」
 …って、わ、私は何を言ってるんです!
「え、えと、今のは、えと…」
「でも、深空ちゃんもとってもかわいいの。笑顔じゃなくても、なの」
「う、うぅ…」
 微笑みながらあんなこと言われたりして、恥ずかしくて俯いちゃいます。
 冗談でもあんなこと言われたことありませんし…そう、冗談に決まってるのに、どうしてこんなにどきどきするんです…。
「ちょっと元気のない気のする深空ちゃんを元気にしてくれるかもしれないイベントがもうすぐあるの」
 と、あの子は不意にそんなこと言ってきました?
「え、えと?」
「来週に学園祭があるの。きっと楽しいと思うの」
 えと、あぁ、そういえばそんな行事もありましたっけ、と言われて思い出します。
 でも、別に興味わきませんし、それで元気になれるとは…。
「だから、一緒に見て回りましょう、なの」
「…えっ? えと、何を、誰が…」
「学園祭を、私と深空ちゃんと、で決まってるの」
「…え、えぇっ?」
 その瞬間、自分でもびっくりするほどどきどきが大きくなってきちゃいました。
「どうしたの? もしかして、もう別に予定とかあったの?」
「い、いえ…」
 元々忘れていた行事ですし、当日も特に何もしないで過ごすつもりでしたけども…。
「でしたら、何の問題もないの」
「で、でも…」
「…でも、どうしたの?」
「え、えと…そう、真田さんと回ったりしなくて、いいの?」
 もう、私はやっぱりついそんなことを言っちゃって…本当は、誘ってもらってうれしいくせに。
「大丈夫なの、幸菜ちゃんは他に一緒に回る人がいるの」
 そ、そうなんだ…それって、この間話していた高等部にいるっていう恋人さん、なのかな。
「それに、私は深空ちゃんと一緒に回りたいの。深空ちゃんは…いやなの?」
「そ、そんなこと…ない、です。じゃあ、その、よろしくお願いします…」
 あんなこと言われて見つめられたら、こうお返事するしかないです。
「うふふっ、よかったの」
 うん、あの子の笑顔を見ると、どきどきはとにかく、これでよかったんだよねって感じます。


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