週末はよい秋晴れでしたので、また学校の外へお散歩…今度は少し遠出をしてみます。
 とはいってもここは山に囲まれた小さな町、少し歩けばのどかな田園風景が広がって、さらに少し歩けば木々に覆われた山々にまでたどり着いちゃいます。
 さすがに山登りまでするつもりはありませんから、そこで引き返そうと思ったんですけど、山々の間に石段があるのを見つけて、気になって登ってみました。
 かなり長めの石段だったんですけど、それを登り切った先にあったのは、それほど大きくはない神社でした。
 こんな町外れにある、静けさに包まれた場所なんですけど、神社はきれいにされていて放置されたりしてるってわけではなさそう。
「ここは気分が落ち着きます」
 境内で足を止めてそうつぶやきますけど、そういえば今までそう感じた場所では…ううん、まさか今回はそんなことありませんよね。
 ゆっくり数回深呼吸して、気持ちを落ち着けて…。
「ふふ…だぁれだっ」
 と、背後から突然かわいらしい声がしたかと思うと、視界がふさがれます…!
「…ふぁっ!? えっ…なっ、な、な…?」
 誰かの手で目をふさがれてしまったみたいですけど、こ、この声って…!
「あらあら、かわいい反応なの」
 そんな声とともに手を離されますから、慌てて後ろを振り向きます…と。
「なっ…あ、あなた、どうして…!」
 そこにいたのはやっぱり見覚えのある、かわいらしい雰囲気の女の子で…なぜかどきっとしてしまいます。
「あら? どうして……とおっしゃられても、困ってしまいますの」
「い、いえ、突然あんなことをされた私のほうが困るんですけど…」
 本当、まさかまた会っちゃったうえ、あんなことして…。
「そ、それに…どうして、そんな嬉しそうなんですか…?」
 相変わらず、なのかもしれませんけど、妙ににこにこしちゃってます。
「あら、貴女にお会いできましたので…」
「…えっ? あ、あなたも…」
 やっぱりにこにこしている彼女の言葉に思わず口が滑りそうに…今、私、何を言いそうになりました?
「…じゃなくて、ど、どうして、私に会えたことが嬉しいなんて感じるんです? 私とあなたなんて、その…特に何もないですし…」
 その言葉は、私自身に対する疑問でもありました。
 だって、さっき私が言いそうになったのは「あなたも私に会えて嬉しいと思ったの?」で…そう、私はこの子に会って、そんな気持ちになったみたいなんです。
 しかも、どうしてそんな気持ちになったのか、全然解りません…。
「うふふ…こうやってお話ししましたの」
「そ、そんなの、ただの偶然ですし…そ、それに、私と話しても、特に面白くも何ともない、でしょ…?」
「あらあら、とっても楽しいですのよ?」
「…うっ」
 何の迷いもない微笑みを向けられてしまって、思わず顔を背けます。
「そ、そう、なんですか…やっぱり、変わった人ですね…」
「あら、褒めても何も出ませんのよ?」
「…え?」
 しかも、つい出てしまった言葉にもあんなこと言われたりして、こちらが戸惑ってしまいます。
「えっと…今の言葉のどこを褒め言葉だと思ったんですか…?」
「あら…解りませんの」
「は、はぁ、そうなんですか…」
 にこにこしたままそんなこと言われちゃいますし…。
「まぁ、何となくそんな気はしましたけど…。やっぱりおかしな子ですよね、みーちゃん」
「あらあら、その子もごきげんよう、なの」
 ついいつもの癖で腕に抱いたみーちゃんに話しかけたところを見られて突っ込まれてしまいました。
「あ…え、えと、わざわざどうも…」
 気づかれてしまった以上仕方ありませんし、みーちゃんをお辞儀させます。
「あらあら、かわいらしいの」
「うっ、何だか恥ずかしい…というより、かわいいというなら、あなたのほうが…」
「あらあら、照れてしまいますの」
 そう言いながら微笑む彼女はやっぱり…。
「…って、わ、私は何を言って…。な、何でもありませんから…!」
 誤魔化すかの様にぷいっとしてしまいます。
「あらあら、貴女もかわいいですの」
「な、何を言ってるんですか、もう…!」
 どこまで本気なのかはつかめませんけど、恥ずかしいのは間違いなくって赤くなってしまいます。
 でも、あまり悪い気はしない…だけに、他の人相手なら気にしないことが気になってきます。
「えと…ぬいぐるみなんて持っていて、おかしいなんて、感じないの…?」
 みーちゃんのこと、他の人になら何と思われてもいいって思ってるのに、どうして…。
「あら、大切なお友達なのでしょう?」
 と、彼女から返ってきたのはそんな言葉…?
「そ、それはそうですけど、解ってくれる人なんて…ううん、別にいなくってもいいんですけど…」
「まあまあ、私では不満ですの?」
「…えっ? えっと、な、何が不満だって、いうんです…?」
「私もお友達じゃ…不満ですの?」
「…えっ? 友達、って…わ、私の、ですか?」
 一瞬、何を言われたのか解らなくって、固まってしまいました。
 だって、友達だなんて…みーちゃんが全てでしたし、他の人がどうとか、考えたことも…。
「そんな、えっと…私なんかが、いいの…?」
 戸惑う私に、彼女はにこにことうなずいてくれます。
 私の、彼女へ対する不思議な、今までに感じたことのなかった気持ち…これは、私もこの子と友達になりたい、ということだった…?
 みーちゃん、私…あなた以外の子と、友達になっていいのかな…?
「えっと、その…考えさせて、ください…」
 どうすればいいのか解らなくって、そんなお返事しちゃいました。

 私と友達になりたい…なんて言われて。
 そのとき私は逃げる様なお返事しちゃいましたけど、その子は待ってくれると言ってくれました。
 冗談なんかじゃなくって、本心からそう言ってくれている…それは私にも解りました。
 私も、なぜか彼女のことは気になっていて…こんなことははじめて。
「みーちゃん…でも、私、怖い…」
 みーちゃん以外の人が、私のことを受け入れてなんてくれるのか…やっぱりダメなんじゃないか…。
 そう思うと、胸が苦しくなって…やっぱり断ろうかな、って思っちゃいます。
「えっ…勇気を出して、って…?」
 みーちゃん、でも…私はあなたさえいてくれたらそれだけでいいのに。
「…でも、うん、みーちゃんがそう言うなら、少しだけ、お話ししてみよう、かな…?」
 私自身、他の子とは違うって感じてる子だし…向こうもそうしたい、って思ってくれてるなら、そうしてみても…。


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