学校にいるとき、お昼休みや放課後、気の向いたときには学校の敷地内を散歩したりしてみてます。
それは純粋に散歩ってこともありますけど、これだけ広い場所ですからどこかに一人で落ち着ける場所があるんじゃないかな、って…そういう場所を探すって意味もあります。
「ここって…わぁ、すごい…」
そんな中、放課後に木々の合間にあるのを見つけた場所…中へ入って、思わずそんな声を上げてしまいます。
ガラス張りであたたかな日の光の差すその場所は、色とりどりの花が咲いていて、その花たちの香りで満ちている温室でした。
さすが、お嬢さま学校というイメージ通りっていうか…こんな場所もあったんですね。
そこはとっても静かでひと気もなさそうでしたから、少し見て回らせてもらうことにしました。
「みーちゃん、きれいですね」
腕に抱いたあの子と一緒にゆっくり歩きますけど、花のお手入れもしっかりされてますし、本当にいい場所です。
ここなら、のんびり過ごせるかも…と、思ったんですけど。
「あ…誰かいます」
まぁ、そうですよね、お花のお手入れがされている時点で人がいるのは…って。
「わっ、あ、あの子って、この間の…?」
そこにいたのは、見覚えのある…そう、この間の公園で出会った少女でした。
まさかまた会うなんて…どうしてこんなところに…。
「うん、こちらには気づいていないみたい…今のうちに、こっそり…」
立ち去ろうとしつつも、その少女のことを少し見てみますけれど、花に水遣りをしながらにこにこしてます。
花が好きなんでしょうか…ううん、あの子はこの間もそうだったじゃないですか。
「…あら?」
「あ…」
ふと視線をこちらへ向けてしまったその子と目が合ってしまいました。
「ごきげんよう…また、お会いしましたのね?」
「え、えっと…ま、また、って…?」
この間のときみたいに微笑まれてしまいましたけれど、私は思わず目を泳がせてしまいます。
「あらあら、この間公園でお会いしましたの…忘れてしまいましたの?」
やっぱり彼女はあのときの子で、何だかじぃ〜っと見つめられてしまいます。
…み、見つめすぎです…視線が痛いです。
「え、えと…も、もうっ、忘れてませんけどっ…」
その視線に負けて、こちらからは目を合わせないもののそう返しました。
もう、何とか誤魔化して立ち去ろうと思いましたのに…。
「あら、どうかしましたの? お顔が赤いの…お水飲みますの?」
「…えっ? べ、別に、赤くなんてないですし…そ、そんなの、いりませんから…!」
「あら、遠慮しなくってもよろしいですのに…」
じょうろを置いてそばにあった水筒を差し出してきたその子はやっぱりにこにこ…もう、この間もそうでしたけど、やっぱり調子が狂います。
「こんなところでお会いできるなんて思わなかったの」
ですから、どうしてそんな嬉しそうににこにこするんでしょうか…。
「わ、私だって思っていませんでしたけど…あ、あなた、この学校の生徒だったんですか?」
ちらりと見てみても、その子の今日の服装はやっぱり私と同じ中等部の制服。
「はい、二学期に入ったときに転入しましたの」
そういえば、この間は迷子になりかかってましたっけ…。
「そ、そうですか…って、な、何ですっ…?」
と、彼女が妙にこちらを見つめてきていて、不安になってしまって思わずみーちゃんをぎゅっとしちゃいます。
「先ほどからどうして目を合わせてくださいませんの?」
「えっ、そ、そんなこと、別にどうだって…え、えと、あなたは、こんなところで何をしていたんですっ?」
何とも説明のしようがありませんでしたから、話をそらしてしまいます。
「あら、見てのとおり、お花にお水をあげておりましたの」
まぁ、それはそうですよね…。
「えと、それはご苦労さまです」
「ありがとうございますの。やっぱり、やさしいですのね」
「どっ、どうしてそんな風になるんですっ? 私がやさしいなんて…わ、笑えない冗談ですっ」
おかしな言葉にぷいっとしちゃいます。
「あら、やっぱり照れていますのね…かわいいの。それに、そんなことありませんのに…」
やっぱりおかしなことばかり言ってきて…本当に、調子が狂っちゃいます。
「な、何言ってるんです…もうっ、失礼しますっ」
これ以上関わる理由もないですし、少しあたふたしてしまいながらもその場を後にしましたけど、何なんでしょうか、もう…。
で、でも、きっともう会うこととか、ありませんよね…。
うん、きっともう二度と会うことなんてない。
名前も知らない、そして何だかこちらの調子を狂わせてきた女の子…なのに、なぜか気になっちゃう。
「二度あることは三度ある、のかも…」
ふとそんなことをつぶやいて、はっと我に返る、なんてこともあります。
「みーちゃん、私、どうしたのかな…?」
部屋であの子に話しかけちゃいますけど、他の人を気にしたりすることなんて、今までなかったのに。
ううん、これはきっと、調子を狂わされっぱなしでしたから、悪い意味で印象に残っちゃっただけなんです。
だから、気にしちゃダメです。
「…うん、そうですよね、みーちゃん」
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