山あいにあるこの町はあの学校を中心にして発展していったみたいで、町の雰囲気もあの学校に合わせてて小ぎれいでおしゃれな感じでした。
 学校の正門から駅へとのびる道にはおしゃれなお店が建ち並んでいて学校の生徒っぽい女の子たちの姿が少なからず見られましたけれど、あんまり人のいるところには行きたくありませんからそこは避けます。
 そして、ひと気のない公園を見つけましたから、そこへ入ってみました…やっぱり静かなところは落ち着きます。
「…あら、ごきげんようなの」
「…えっ?」
 なのに、不意に背後から声をかけられたものですからびくってなっちゃいます。
 そもそも、私に声をかけてくる人なんていないって思ってましたし、何なんでしょう…。
「は、はい、こんにちは…」
 振り向いてみると一人の女の子がいましたから一応挨拶は返しておきましたけど…誰?
「お散歩…なの? 私もお散歩なの」
 警戒気味の私なんですけど、その子はそんな私の様子には全く気づかないでにこにこしてます。
 そんなその子、年齢は私と同じか少し下くらいでしょうか、長めの髪の、それにフリルいっぱいの服にも負けないかわいらしい雰囲気の子で、日傘を持っていたりとお嬢さまっぽく感じられます。
「え、えっと、うん、そんなところ…」
 そんな子に声をかけられる覚えはありませんから、ちょっと戸惑ってしまいます。
「その、どこかでお会いしたことなんて…ない、よね…?」
「はい、はじめまして…なの」
 一応の質問にも、にこやかにそう返されてしまいました。
「かわいい猫さんをお連れでしたので、お声をかけてしまいましたの」
 と、続けてそんなことを言う彼女の視線は、私が腕に抱いているものへ向いていきます。
「猫さん…みーちゃんのこと? えっと、この子は、私のただ一人の友達…家族、だから…」
 またおかしな目で見られたりするのかな…思わず、みーちゃんのことぎゅってします。
「大切なお友達ですのね…幸せそうなの」
「うん、とっても大切…って、な、何言ってるの…? も、もう、そんなの、関係ないですし…」
 全くの初対面の人に色々言いそうになったのが気まずくって、彼女から少し顔をそらします。
 …危ないです、少し意外なこと言われましたから油断しました。
「あらあら、照れなくってもいいの…見ていて微笑ましいの」
「…だ、誰も照れてませんっ」
 おかしなことを言われたものだから思わずにらみつけてしまいましたけれど、少し赤くもなってしまいます。
「そうですの? でもでも、ほっこりしますの」
「…ほ、ほっこりって何です? そんな言葉、はじめて聞きましたけど…」
「ほっこりはほっこりなの」
 しかも、にこにこと答えになっていないお返事をしてきますし…。
「何なんでしょう…何だか調子が狂います」
「あらあら、何かおっしゃいましなの?」
 と、私の呟きが耳に入っちゃったみたいです。
「…う、ううん、何でもないです。気のせいじゃないですか?」
「あら、気のせいでしたの」
「そう、そうです、ですから気にしないでください」
 そして、実際に気にした様子もなくにこにこされます。
「何なんでしょう、この子…。おかしいけど、かわいい…って、私は何を…」
 ふと浮かんだおかしな考えを、頭を振って振りほどきます。
「あらあら、寒いですの?」
「…えっ? 寒い、って…どうしてですか?」
 またずいぶん唐突な言葉に戸惑います…今日は快晴で少し暑いくらいかもなのに、本当に何なんでしょう。
「首を横にぷるぷるしていましたの…風邪を引いてはいけませんの!」
「え、えっと、あれは別に震えていたわけじゃなくって…」
 まさかそんな風に受け取られているなんて思いもよりませんでした…けど。
「…で、でも、心配してくれて、ありがとうございます…」
 一応、お礼だけは言っておきました…と。
「いえいえ、お礼には及びませんの。大丈夫でしたら、よかったの」
 またものすごくにこにこされちゃいました…私なんかにそんな、不思議な子です。
「はぁ、えっと、それじゃ、私はこれで…」
 こちらの調子を狂わす女の子ですけど、これ以上関わる理由はないのでこの場を去ろうと…。
「ところで、ここはどこですの?」
 と、今度はまた唐突にそんなことをたずねられてしまいました。
「ここは公園ですけど…?」
「あら、そういえば公園に見えますの」
「もう、それなら何を考えてここにきたんですか…」
 さすがにちょっと呆れちゃうというか…ため息が出ちゃいます。
「今日のごはんは何でしょう…とか?」
「そ、そうですか…お気楽な子なんですね…。この近所で暮らすお嬢さまか何かなんでしょうか…」
 はぁ、またため息が出ちゃいます。
「こちらにきてまだあまり間がなくって、地理とかよく解りませんの」
 と、私の呟きを聞かれちゃったのかそんなことを言われました?
「そうなんですか…でも、私を頼られても困りますよ? 私だって、つい先日ここにきたばかりなんですから…」
「あら、お揃いですのね」
 さっきからずっとにこにこしてばかりの彼女…ちょっと引っかかります。
「…って、どうしてそんな楽しげなんですか?」
「こういうはじめての場所ってわくわくしますの」
「そういうものでしょうか…まあ、確かに楽しそうに見えますけど」
「それはよかったの」
 もう、その返しも意味不明ですし…。
「とにかく、ですから迷子になっても私は知りませんから」
「あらあら、それは大変なの」
 全然大変そうではないうえ、他人事みたいに見えちゃいます。
「…言っておきますけど、私じゃなくってあなたが迷子になっても、ですからね?」
「あらあら、それは困ってしまいますの」
 ですから、そんなににこにこして、全然困っている様には見えないんですけど…。
「…もう、やっぱり調子が狂います…。こんなの、はじめてかもしれません…むぅ」
 またため息が出ちゃいました。
「…やっぱり、お身体がすぐれませんの?」
 って、もう、どうしてそこで心配そうにしてきちゃうんでしょうか。
「ううん、そんなことはないですけど、ちょっと疲れたかも…今日はもう帰ります」
 うん、ここはこうしたほうがいいですよね。
「はい、お大事に…なの」
 ぺこりと頭を下げるその子へ背を向けます。
 あんな調子で、迷子にならずに帰れるんでしょうか…なんて、私が心配することじゃないですよね。
 そう、もう二度と会うこともないでしょうし…振り返らず、その場を後にしたのでした。


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