「そんな幸菜ちゃんは、今日は…あら、絵を描いていたの?」
改めて彼女のことをよく見てみると、スケッチブックを持っていたの。
「はい、そんなところです」
また図面か何かかも、って思ったけれど、純粋に絵なのね。
「何の絵を描いていたのかしら?」
「えっと、鳥の絵とか、色々…でもすごく下手ですよ?」
「ふふっ、やっぱり謙遜しちゃうのね」
そういうところ、やっぱり大和撫子よね。
「いえ、本当に危険ですから見せられません」
スケッチブックを隠すかの様にぎゅっとしちゃう彼女。
「そう言われると気になっちゃうのだけれど…大丈夫よ、私だって絵も上手じゃないし」
「はぅっ、私墓穴を掘りましたか!?」
「…見せて、くれるかしら」
あたふたしちゃう彼女をじっと見つめてみる。
「し、仕方ありませんね…」
観念した様子で彼女はスケッチブックを差し出してくれたから受け取らせてもらう。
「ふふっ、ありがと、どれどれ…」
「…どう、ですか?」
さっそくスケッチブックを広げて中を見る私に、あの子はとっても不安げに声をかけてくる。
「…もう、何も隠すことないじゃない。とっても上手だと思うわ」
「あ、ありがとうございます…」
赤くなる彼女だけど、危険だとか言うからてっきりアニメで観たチーナって子の描く様な絵なのかと心配したじゃない…。
そんな彼女の描いた絵はどことなく機械的な雰囲気を感じるのだけれど、彼女は機械好きだし、これも個性ね。
「幸菜ちゃんはお絵かきも好きなのね」
好きな子の好きなものはやっぱり覚えておかないと…と。
「あ、えと、これは資料集めも兼ねてまして…」
「…あら、資料って?」
彼女から返ってきた言葉に首をかしげちゃう。
「はい、モデルを探していて…」
「…モデル? あら、そういうことなら私がなるわよ?」
「えっ…いいんですか?」
「ええ、貴女のためだもの、もちろん」
というより、動物とかならともかく、人物画で私を差し置いて他の人をモデルにする、なんて…さみしいわ。
「でも、その…大変なことになるかもしれませんよ?」
「えっ、それって…絵のモデルじゃないの?」
「え、えっと、似た様なもの、かも…?」
あら、目をそらされちゃった…これは、全然別のものみたい。
「じゃあ、何のモデルになるの?」
じっと見つめながらたずねてみる。
「うぅ…聞いちゃいますか?」
その彼女も私を見つめながら聞き返してきた。
「それはもう、聞きたいに決まっているわ?」
さらにじぃ〜っと見つめてみる…。
「えっと…はぅっ! ま、まいりました…降参します」
と、彼女は真っ赤になって顔をそらしちゃった…かわいいんだから。
「ふふっ、降参って何に降参したの? 教えてくれる、っていうことかしら」
「えっと…アンドロイドの試作品を、どんな姿にするか考えていたんです」
「…えっ、アンドロイド?」
ちょっと…いえかなり意外な言葉に戸惑っちゃったけど、それってつまりロボット、しかも私をモデルにしたとすると人型の、ってことよね。
「う〜ん、そんなのが作れちゃうなんて、やっぱり幸菜ちゃんはすごいのね」
「いえ、あの、永折先生たちが手伝ってくれますし…」
少し照れた様子になったりして…顧問の先生が手伝ってくれるにしても普通の子じゃとてもできないことなのだから、もっと自信を持っていいのに。
「あの、それでモデルは、やっぱりダメですよね…?」
おずおずとたずねられたけれど、どうしようかしら。
「う〜ん、そうね…私そっくりの子が貴女のそばにいるなんて、複雑な気持ちになっちゃうかも」
それなら私自身をそばに置いて、って思っちゃうもの。
「でも、私をモデルにしたいって言ってくれるのは、やっぱりとっても嬉しいわ。それだけ、私が特別な存在だってことなのよねっ」
そう思うと嬉しさのほうが強くなって、彼女のことを思わず抱きしめちゃう。
「はわっ、え、えとえと、そ、それは…!」
真っ赤になって照れちゃう彼女はやっぱりとってもかわいいし、それに否定しなかったということは…そういうこと、なのよねっ。
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