―学園外の場所であの子に会えたなんて、とっても幸せなこと。
 構想を練るお邪魔はしちゃいけないって思ったけど、でもせっかくの機会だったのだもの、ちょっとだけお話しさせてもらって色々聞いちゃった。
 そんなことのあった翌日のお昼、私はラティーナからのお昼ごはんのお誘いを遠慮して、一人高等部の校舎を後にする。
 お昼休みだけれど同時にお昼ごはんの時間だからあまり人の姿のない並木道、そこをしばらく歩いていくと目的の場所が見えてくる。
「…って、思ったよりも遠かったわ」
 この学校、やっぱり敷地が広すぎ…まぁ、私がやってきた場所は高等部とは別個の存在だから離れていても仕方ないのだけれど、これではもうお昼ごはんは食べ終えているかも。
 しまったわね、お昼ごはんを食べ終えた後に何をしているのかも聞いておくべきだった…でも、ここであれこれ考えていてもさらに時間を使ってしまうだけだし、行きましょう。

 私がやってきたのは、中等部の校舎。
 高等部からこの学園へ通うことになった私はもちろん今までここにきたことはなくって、また本来ならくる用事もない。
 建物の造りなどは高等部とさほど変わらなさそう…だけど、校舎の中へ足を踏み入れると、休憩中の生徒たちの視線が、高等部にいるとき以上にこちらへ集中してくる。
「ふふっ、こんにちは」
「わっ、え、えと、こんにちは…!」
 目が合った子に挨拶してみるとものすごく慌てられちゃった。
 廊下を進んでいってもずっと視線が集ってきちゃってるけど、中等部の校舎に一人だけ高等部の生徒がいるのだから、目立っちゃっても仕方ないか。
 そんな状況の、でも特に視線を気にすることなく私が向かうのは、中等部の学食…位置関係はやっぱり高等部とそう変わらず、迷わずたどり着けた。
 やっぱりくるのが少し遅かったみたいで、学食に人の姿はまばらで、大半の子は食事を終えてしまってる。
 う〜ん、これではやっぱりもういないかしら…そう感じてしまいながらも一応中を見て回ってみる、と…?
「…あら、あれって…間違いないわ」
 一人で席についている、目当ての子を見つけた。
「うんうん、これはやっぱり…運命ねっ」
 嬉しさのあまり、その彼女の席へ歩み寄ると、そのまま後ろから抱きついちゃった。
「…ふ、ふぇっ!? ど、どどどど…」
「あぁ、やっぱりとってもかわいい…」
 あたふたしちゃうあの子、幸菜ちゃんをさらにぎゅっとしちゃう。
「え、えっと…席空いてますから、座ってください!」
「あら、せっかく会えた喜びを表したのに、淡白な反応。ま、でもそういう奥ゆかしさがまたいいのよね」
 あまりあたふたさせ続けるのもよくないし、ここは大人しく身体を離して同じテーブル、ちょうど向き合うかたちで座らせてもらった。
「え、えっと…ゆ、雪野先輩、どうしてこんなところに…?」
 食事をしていたわけではなくってテーブル上にノートなどを広げていた彼女、戸惑い気味にたずねてくる。
「ええ、学園内でも幸菜ちゃんにまた会いたくなっちゃって、そう思ったらいてもたってもいられなくなって、つい」
 先日、学園でのお昼は学食で食事をしている、と聞けたからこうしてやってきたわけ。
「そんな、同じ学園にいるんですし、わざわざこんなことしなくっても会うこともあるって思うんですけど…。私も雪野先輩のこと見かけたことありますし」
 そりゃ、私たちがはじめて出会ったときのこととかを思うと…って、何だか聞き捨てならないことを言わなかった?
「…えっ、私を見かけた? もう、それならどうして声をかけてくれなかったの?」
「いえ、その…さすがに下級生から上級生、しかも高等部のかたにお声をかけるのはためらわれますし…」
 その奥ゆかしさが彼女らしいところ、といえばそうなのだけれども…。
「もう、そんなこと気にしなくってもいいのよ? 私は少しでもたくさん貴女と一緒にいたりお話ししたりしたいのだもの」
「え、えっと、その…」
 私が微笑みかけると彼女は赤い顔であたふたしちゃう。
「ふふっ、やっぱりかわいい。本当、素敵な子よね…」
「か、かわいくなんてないんですからね?」
 しかも、そんなこと言ったりして…ツンデレというものなのかしら。

 その幸菜ちゃん、ここではお昼休みを利用して授業の予習をしていたの…真面目で偉いわよね。
 どういう内容なのか見せてもらおうと、彼女のすぐ隣へ寄ってみる。
「…って、ち、近すぎますし」
「あら、問題あった?」
 赤くなるあの子に私は首をかしげちゃう。
「いえ、雪野先輩はきれいなんで目立つかなぁ…って」
「まぁ、そんなこと…外国人だから目立つ、といった程度じゃないかしら」
 名前は真綾としても外見は変えられないし、これは仕方のないところかしら。
「それに、私が目立つとしたら幸菜ちゃんにとって何か問題?」
「いえ、人の視線が少し苦手なんです」
「えっ、そうなの?」
 私がいるとそばにいる自分にも視線が、って気にしちゃっているのね…。
「だ、大丈夫よ、この学校には留学生とかも結構いるみたいだし、私なんて珍しくも何ともないはずだから、ねっ?」
「あ、えっと…ありがとうございます?」
「いえいえ、そんな」
 お礼を言われるのも不思議だけれど、不安にさせたりしてはいけないから微笑み返してあげる。
「でも、それなら…私に見つめられるのも、ダメ?」
 試しにじぃ〜っと見つめてみる…と、あの子からも見つめ返してくれた?
 さらに見つめてみると、彼女は恥ずかしそうになるものの、でもまだ見つめてくれていて…かわいすぎる。
「…もう、そんな熱い視線を向けられたら、我慢できなくなっちゃうじゃない」
「…ふぇっ!? なっ、我慢って何ですか!?」
 あら、我にかえったみたいであたふたしちゃった。
「そんなの、決まってるじゃない。でも、今の反応…私に見つめられるのは、大丈夫みたいね」
「といいますか普通に恥ずかしいですよぅ」
「ふふっ、そんなこと言いながら、どうして見つめ返してくれたのかしら」
「そ、それは…知りません!」
 あら、ぷいってされちゃった。
「ふふっ、かわいい。私はもちろん、そんな貴女をずっと見つめていたいから見つめていたの」
 そうして見つめているとどきどきしちゃって、気持ちが抑えられなくなりそうになる…。
「も、もう…私の負けです。好きにしてください…」
 と、あの子、そんなこと言ってきた…?
 う〜ん、何に負けたのかは解らないけれど、とにかく…。
「…えっ、いいの? じゃあ、遠慮なく…えいっ」
 お言葉に甘えて、ぎゅって抱きしめさせてもらっちゃった。
「あ、あぅ、もう…」
 あの子はとっても恥ずかしそうだけど、嫌がったりしてる様子はない。
 私の視線を受け止めてくれたり、こんなことさせてくれたり…この子も、私のことを特別に感じてくれているのかしら。
 もしそうなら…うんうん、嬉しすぎる。
「わ…幸菜ちゃん、どうしましたの?」
 と、もっと彼女のことをぎゅっとしようとしたとき、すぐそばから声がかかってきた…?
 そちらへ目を向けてみると、そこには中等部の制服を着た女の子が一人。
「ふぇっ、り、りんごちゃん…こ、これは、その、何でもないですよ?」
 幸菜ちゃん、慌てて私を引き剥がしながらあんなこと言って、知り合いみたいだけど…むぅ、どういう関係なのかしら。
「幸菜ちゃん、そちらのかたは…どちらさまなの?」
 私を見てそうたずねる子は、背は幸菜ちゃんと同じくらいかしら、長くてちょっと色のついた髪をしたかわいらしい雰囲気の女の子。
 声もかわいらしく、幸菜ちゃんと一緒に並べると本当にお人形さんみたい…って、でも幸菜ちゃんは私のものなのだけれど、ね?
「え〜と、この人は高等部の雪野真綾先輩です」
「あら、日本人のかたなの?」
 かわいらしく首を傾げられてしまう。
「いえ、本名はマーヤ・スノーフィールド…北欧出身よ」
「え…えぇ〜っ? 雪野先輩、じゃあどうしてこんな名前名乗ってるんです…ずっと日本のかただって思ってましたよっ?」
 私の言葉に思いっきり驚いた声を上げたのは幸菜ちゃん。
「ふふっ、見れば解る気がするのだけれども」
「あぅ、だって、そんな日本語お上手ですし…」
 そういえば幸菜ちゃんには雪野真綾、としか名乗っていなかったか…それにしても、恥ずかしそうに顔を赤くしたりして、かわいい。
「お二人とも、とっても仲良しそうなの」
「あら、ありがとう」
 私と幸菜ちゃんのやり取りを見てあの子は微笑ましげにそう言って、幸菜ちゃんはさらに顔を赤くしちゃう。
「あっ、私は幸菜ちゃんのクラスメイトで、松永りんごなの」
「ええ、りんごちゃんは幸菜ちゃんとはどういうご関係なのかしら?」
「幸菜ちゃんは一番のお友達なの」
「そう…ではよろしくね、りんごちゃん」
 あの様子だと友達以上、ということはなさそうだし、心配はいらなさそうかしら。
 それにしても、何だかおいしそうなお名前…って、そんなことラティーナのクラスメイトにも感じたことあったし、確かその子の名字も松永だった気がするけれど、何か関係あるのかしら。
「ところで、雪野先輩と幸菜ちゃんはどういうご関係なの?」
 と、私が疑問を口にする前に向こうから質問されてしまった。
「ええ、私は幸菜ちゃんの恋人よ?」
「そうなんですの…お幸せに、ですの」
 私の言葉にりんごちゃんは微笑み、またなぜか周囲にいる、普通に席についている子たちがざわついちゃった。
「な、なな、何言ってるんですっ! わ、私たちはそんな…冗談はやめてくださいっ」
 そして幸菜ちゃんはといえば、顔を真っ赤にして慌てちゃってる。
「ふふっ、そんな照れなくってもいいのに」
「だ、誰も照れてませんし、もうすぐお昼休みが終わっちゃいますし戻ったほうがいいですよっ?」
 あら、まだ少し余裕は…って、高等部へ戻る時間を考えるとちょっとぎりぎりかも。
「えっと、もうお昼休みにきたりしないでくださいねっ?」
「もう、つれないのね」
「だ、だって、こんなことしてたら、雪野先輩お昼食べられないじゃないですか…」
 あっ、言われてみれば今日はお昼抜きになっちゃってた。
 あの子は私のことを気遣ってあんなこと言ってくれているのだし、そこは素直にうなずいてあげるしかなかったの。


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