ついに巡り会うことのできた理想の大和撫子、真田幸菜ちゃん。
 あの日はその後、すぐに彼女は恥ずかしそうに走り去っちゃって、それが微笑ましいものだから思わずそのまま見送っちゃったけれど、もう少し一緒にいるべきだったわ。
 中等部に行けばすぐ会えるわよね、って楽観していたのだけれど、翌日は会うことができず、そして今日は休日なんだもの…あぁ、やっぱり持ち帰っておけばよかったのかしら。
 せめて、あの子が中等部の学生寮へ入っているのか、それとも自宅から通っているのかくらいは聞いておくべきだったわ…。
 後悔しても仕方がないので、気持ちを入れ替える意味も込めてお散歩へ行くことに…こちらへきてはじめての休日に見つけたお店で買った、和とゴシックが融合したみたいなおよーふくを着てみる。
「うふふっ、なかなかいい感じよね」
 私自身は大和撫子にはなれないけれど、でも自分で和服を着たりするのももちろん好きで、着付けとかもしっかりできる。
 そんなおよーふくを着て、まだ少し暑さを覚える中で外へ…そういえばこのおよーふくを買ったお店の店員さんも素敵な大和撫子だったし、そういう風に外にも素敵なものがあるかもしれず、そういう出会いに期待も込めて学園の敷地外をお散歩することにした。
 この町はずっと昔にまずあの学園ができて、その後に周囲に町ができていったらしい…だから学園はあれだけの敷地を確保できたわけね。
 で、町のほうも計画的に区画整理され作られていったからずいぶん整然とした感じ…そんな町を観察しながらのんびりお散歩。
 もちろんこの間とは違う道を歩いていく中、小さな公園の脇を通る…と。
「…あら、あそこにいるのって」
 そこのベンチに座る人影が目に留まった瞬間、胸が高鳴って思わずそちらへ歩み寄っちゃう。
 だって、そこに座っていたのは…見間違えるはずもない、あの日出会ったあの子だったのだもの。
「こんにちは、こんなところで会うなんて、やっぱり私たちは運命の赤い糸で結ばれているのね」
 彼女の前で足を止めて声をかけてみるけれど、反応がない…。
「…あら、どうしたの?」
「…あ、えっ? あっ、雪野先輩、こんにちは」
 改めて声をかけると気づいてもらえたみたいで、はっとした様子で顔を上げられる。
「ええ…隣、いいかしら?」
「あ、はい、問題ないです!」
「よかった…ありがとう」
 お言葉に甘えてベンチへ腰かけるけれど…こうしてまた、しかも学校の外でも会えたりするなんて、とっても嬉しい。
「それにしても…やっぱり、とってもかわいい。我慢できなくなっちゃいそう…」
 すぐそばで見る彼女はやっぱりそうで、むずむずしてきちゃう。
「そ、そんな…私なんかより、先輩のほうが素敵だと思いますよ?」
「あら、そんな、ありがとう」
 その彼女が照れた様子でそんなこと言って微笑んでくるものだから、私も微笑み返す。
「でも、私はやっぱり、貴女みたいなかわいくって黒髪のよく似合う大和撫子な女の子が素敵だって思うわ」
「え、えっと、どうなんでしょう…機械で油まみれな大和撫子なんていないと思いますけど」
 戸惑った様子でそう言われたけれど…?
「機械で油まみれ? 幸菜ちゃんって普段そんな感じなの?」
「えっと…は、はい」
 恥ずかしそうにしちゃったりして、やっぱりかわいいわね。
「そっか…少し意外かも」
「あの、やっぱりおかしいですよね…?」
「ん〜、そんなことないと思うわ。機械いじりをする女の子…珍しいとは感じるけど、かわいいものよね」
「そ、そうでしょうか…そもそも、大和撫子の基準って何なんでしょう…?」
「う〜ん、そうね、私なりの解釈だと、奥ゆかしいけど芯は強くって、それに黒髪で和服の似合う女性ね」
「やっぱり、真っ先に九条先輩が思い浮かびますね…?」
 私の場合、つい先日までならアヤフィールさんが思い浮かんだところなのだけれど…。
「あら、私は真っ先に貴女が思い浮かぶわ」
 うん、今はもうそれで間違いない…我慢できなくってぎゅってしちゃう。
「こんなにかわいいんだもの…ねっ、着物を着てみないかしら」
「はぅあ!? え、えっと、機会がありましたら…!」
 思わずすりすりしちゃってさらに驚かれちゃったけれど…そう、この子の着物姿、見てみたいわよね。
「ええ、きっとよ。とっても楽しみ…」
 約束してくれたのが嬉しくって、さらにぎゅってしちゃった。

「そういえば、さっきはずいぶん考えごとをしていたのね…何か悩みごと?」
 ゆっくり彼女を離した私、声をかけてみたときの様子が気になってたずねてみた。
「いえ、悩みごとというわけではないんですけど…」
「そうなの? それならよかったけれど、でもそれならどうしたの? もしよかったら、私に聞かせてもらえると嬉しいわ」
「え、えっと…どう説明をしていいものか悩みますけれど…」
「あっ、ううん、話すことに悩む様なことならいいわよ? 困らせたいわけじゃなくって、その逆なんだもの」
 そう、先輩として、そして好きな子への力になりたい、って考えるのは自然なことよね。
「えっと、これから作ろうとしているものの構想を練ってまして…」
 機械いじりが好きだっていう彼女なのだけれど、すでにあるものをただ作るのではなく、自分なりに考えて新たなものを作るのが好きみたい。
 内容は私にはさっぱり…まだ中学生なのに、すごいわよね。
「ふふっ、あまり無理はしない様にね?」
 熱心なところも含めて感心しちゃって、頑張っている彼女を思わずなでなでしちゃった。


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