第四章 〜真綾さんと理想の大和撫子〜

 ―昔からとっても憧れていたものがあった。
 東洋の島国で理想とされている女性像…それはまさしく私にとっても理想的な姿。
 私もいつかはそんな素敵な子に巡り合いたくって、日々夢見てた。
 その夢への第一歩…これも十分に夢の様なことだったのだけれど、それが叶うことになったの。

「あぁ、私、ついにここまでくることができたのね…感激っ」
 ―奥に長い長い並木道の続く門の前へ立った私、ちょっと感極まっちゃう。
 ここは私の母国から遠く離れた日本、山あいの町にある私立明翠女学園という学校の前。
 ここへは諸般の事柄で数回やってきているけれど、そのときはすぐに帰らなければならなかった…でも、今回は違う。
「これからは、ずっとここで過していけるのね…あぁ、楽しみっ」
 思わず身悶えるけれど…いけないいけない、門から出てくる生徒がこっちを見てきてる。
 今の時間はちょうど下校時間に差し掛かったあたりで、下校する子の姿がちらほら見られるわけだけど、不審人物と思われたかしら。
「あ、あの…どう、なさいましたか…?」
 と、その予感は間違っていなかったみたいで、通りかかった生徒の一人が少し怯えた風にも見える様子で声をかけてきたの。
 声をかけてきたのは私よりも背の低い…とはいっても私は百七十を越える女の子としては高めの身長をしているから平均的な、対して髪は私と同じくらいで腰を越えるあたりまである、でも私の髪がふんわりしているのに対して彼女はさらさらのストレート。
 この学校はお嬢さま学校らしくって、私に声をかけてきたその子もおしとやかで清楚な雰囲気漂う子だったのだけれど…惜しい。
「…あ、あの? もしかして、言葉が通じないのかな…でも、さっき日本語で何か言ってた気がするし…」
 …あっ、いけないいけない、私が黙っているものだから戸惑っちゃってる。
「私は日本語大丈夫よ? それで、どうしたのかしら?」
 私の外見は金髪碧眼、もちろん日本人じゃないけれど、こうして日本語は流暢、もちろん相手の言っていることも解る。
「えっと、その、学園に何かご用なのかな、と思って…。見ないかたですし、生徒さんでは…ありません、よね…?」
「ええ、でも明日からここへ通うことになっているの。転入生というものね」
「そ、そうなのですか…」
「あっ、ちょうどいいわ…貴女、もしよければ、学生寮まで案内してくださらないかしら?」
 以前きたときに案内はされていたけれど、まだ少し不安が残るもの。
 その子もうなずいてくれたから二人並んで門を抜け、並木道を歩く。
 ときどきすれ違う生徒たちが一様にこちらを注目してくるけれど、やはり私だけ私服姿なのが目立っちゃうのかも。
 そのために案内してくれている子がずいぶん緊張した様子になっちゃっているけれど…その子について、気になることがある。
「…ね、貴女、少しいいかしら?」
「えっ、は、はい、どうしましたか…?」
「ええ…貴女、その髪、染めたりしているの?」
 彼女の髪の色は茶色…これが黒ならあのかたにも負けない大和撫子なのに、もったいない。
「えっ、い、いえ、そんなことはしていませんけれど、どうして…?」
「いえ、それならいいの、気にしないで?」
 う〜ん、そういうことならしょうがないか…せっかくの黒髪を別の色にしちゃうなんて暴挙をする人が多いみたいで悲しいわけだけど、元々こういう色なら問題なし。
 そうこうしている間に、私たちは学園の敷地内にある学生寮前にまでやってきた。
「あっ、そういえば、何も聞かずに高等部の学生寮へきてしまいましたけれど、大丈夫でした…?」
 この敷地内には初等部から高等部まで別々に校舎があって、学生寮も分かれているみたい。
「ええ、問題ないわ。わざわざありがとう」
「いえ、そんな、お気になさらないでください」
 そうは言うけれど、この子は門から外へ出ようとしていたし、学生寮ではなくって自宅から通学しているはず…なのにここまで案内してくれたし、それにあの謙虚さはやっぱり大和撫子ね。
「では、私はこれで…」
「あっ、ちょっと待って。その前にお名前、聞かせていただける?」
「えっと、は、はい、私は高等部三年の石川麻美です」
 あ、先輩さんだったのね…しかも私より二年も上の。
「今日はありがとうございました、麻美先輩。私は高等部一年に編入する雪野真綾よ」


次のページへ…


ページ→1/2/3/4/5/6/7/8/9/10/11/12

物語topへ戻る