次の日…いつもどおりあゆちゃんを迎えにお屋敷に行く。
「あ…おはよ、王子さま」
お屋敷から出てきた彼女は、昨日あんなことがあった割には案外いつもどおり。
「う、うん、おはよ、あゆちゃん。じゃあ、行こう?」
一方のボクは、ちょっと緊張気味…手をつなぐのもいつものことなのに、今日は妙にどきどきしてしまうんだ。
その、昨日…巫女さんのあの言葉を受けてから、ボク自身の気持ち、つまりあゆちゃんのことをボクはどう想っているのかを考えてみたんだ。
どうしてボクはこんなに彼女のことが気になるのか、放っておけないのか…。
少し考えてみると、答えは簡単…ボクは、彼女に恋してたんだ。
人を好きになるなんてはじめてのことで、しかも相手は女の子…でも、これは間違いなく恋だって思う。
そう自覚できたから、いつもしていたことも妙に意識してどきどきしちゃったんだ。
ボク自身の気持ちは解った…けど、それでもあの巫女さんの言った様にその気持ちの通り行動する、つまりあゆちゃんに告白するって勇気はなかなか持てなかった。
彼女もボクに好意を持ってくれている、というのは多分そうだと思うけど、彼女はボクを男だって思ってる…そこをごまかすなんて、さすがによくないと思う。
ボクが女の子だと知って、彼女の気持ちが離れていくんじゃないか…それが、不安なんだ。
「…王子さま、どうしたの? 今日…元気、ないよ…?」
不安な気持ちがずっと態度に出ちゃってたみたいで、放課後に校舎を出たところで、手をつなぐあゆちゃんに心配げな顔を向けられてしまった。
そんなかわいい顔で心配されたらぎゅって抱きしめたくなるけど、何とかこらえないと。
「ううん、そんなことないよ?」
せっかく今日は部活の勧誘もなく平穏に一日を終えられたんだ、元気に帰らなきゃ。
「…ほんとに?」
うっ、そんなかわいく見つめられると、気持ちが抑えられなくなっちゃうよ…。
今の関係が壊れてしまうかもしれない…けど、ボクの想いは間違いないから…!
「えっと…あゆちゃん、こっちにきてもらえるかな?」
「…?」
首を傾げる彼女を、並木道から外れた森の中へ連れて行く…昨日と立場が逆になってる。
足を止めたボクを彼女は不思議そうに見つめてきてて…ま、迷ってなんていられないっ。
「え、えっと、あゆちゃん…これ、受け取ってもらえるかな?」
「…お守り?」
差し出したのは、昨日あの神社でもらった二つのお守りのうちの片方。
「うん、同じお守りをボクも持ってるから…」
「わぁ、王子さまとお揃い…ありがと」
満面の笑顔で受け取ってもらえてまずは一安心…あの人がお守りを二つ渡してくれたのはこうするためだったんだって勝手に解釈してるけど、ここで満足してちゃいけない。
「えっと、それでね…?」
「…王子さまに、あゆみも…渡したいものが、あるの…」
「えっ?」
勇気を出して言おうとした出鼻を挫かれてしまったけど、あゆちゃんからも?
「えっと、これ…」
彼女がポケットから取り出しておずおずと差し出してきたのは、きれいな装飾の施された封筒。
「これ、は?」
「明日ある、パーティの招待状…王子さまと一緒に、って…」
あぁ、なるほど、招待状か…って、えっ?
「えっ、ぱ、パーティって、ボクとあゆちゃんが一緒に行くの?」
当たり前のことを聞いて当然うなずかれたけど、そんなとこ当然出たことないし、ボクなんかが行っても場違いなんじゃ…。
「…王子、さま?」
うっ、そんな泣きそうな目で見つめられたら、もうこう答えるしかないじゃないか。
「う、うん、解ったよ、一緒に行こう」
招待状を受け取ると、泣きそうだった顔が一転して笑顔になった。
うん、この笑顔が見られるんだったら、場違いとか気にしちゃダメだね。
…って、告白するタイミングを失ってしまったよ…。
次の日は土曜日で授業は午前中で終了…その後、あゆちゃんのお屋敷で彼女と一緒にお昼ごはんを食べたりするのはいつもと変わらないこと。
でも、今日は夕方前には服を着替えて、お屋敷のメイドさんが運転する車に乗ってお出かけをするんだ。
着いた場所はあゆちゃんのお屋敷からそう離れていない、というよりほぼ学園の敷地内な気もする場所にあった、これまたものすごく大きなお屋敷だった。
「ではお嬢さま、智さま、行ってらっしゃいませ。よきお時間をお過ごしになってくださいましね」
ボクたちはそのお屋敷の玄関前で降ろされて、車はそのまま走り去ってしまった。
「す、すごいところだね…ボクなんかがきてもよかったのかな」
あゆちゃんのお屋敷以上かもしれない豪邸を目の前にして思わず不安になるけど、彼女は小さく首をかしげちゃう。
うっ、さすがあゆちゃんはお嬢さま、こんなくらいじゃ動じるわけないよね。
ボクもしっかりしなきゃ…だけど。
「…ね、ねぇ、あゆちゃん、ボクの服、おかしくない?」
今の服装は彼女のお屋敷で借りた、彼女が選んでくれたものなんだけど、彼女のセンス云々じゃなくってこれはどうしても不安になっちゃう。
彼女は首を横に振ってくるし、確かに鏡でみたとき自分でも似合ってるって感じたことは感じたんだけど、間違いなく間違ってるんだよね…。
「王子さま…あゆみは、どう…?」
「うん、あゆちゃんはとってもよく似合ってる…素敵だよ」
フリルのたくさんついたドレスを身にまとった彼女はとってもかわいくって、本当にどこかの国のお姫さまみたい…思わず飾っておきたくなるくらい。
「ありがと、王子さま…」
ちょっと恥ずかしそうにする姿も…胸がどきどきしてしまう。
お屋敷の玄関前にはメイドさんが立っていて、その人に紹介状を見せるとパーティ会場にまで案内をしてもらえた。
そこはお屋敷内の一室、だったのだけれど…。
「うわぁ…」
扉が開いて中に入れてもらった瞬間、ボクは思わず固まってしまった。
立派なシャンデリアなどすごい内装を施された大広間、そこにはきれいなドレスなどを着こなしたいかにも良家の人たち…今の日本にもこういう世界があるんだなぁって感心しちゃうほど、ボクにとってはあまりにきらびやかで、そして別世界。
…こんなの、やっぱりボクなんかがくるところじゃないよ。
ただただ圧倒されてると、ボクの手を握るあゆちゃんの手が強くなった。
もしかして、彼女も不安なのかな…もともと、人のたくさんいる場所は苦手だものね。
それなのに、ボクと一緒に行きたいと誘ってくれた…うん、ボクがしっかりしなきゃいけないよね。
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