こんな午前中だからか他にお客さんのいない甘味やさんの店内の席についているボクと朝倉さんの前には、それぞれおしるこが一杯ずつ。
朝倉さんのお家であのメイドさんとかが待ってそうだけど、このくらいいいよね。
さっそく一口口につけるけど…うん、なかなかおいしい。
「朝倉さん、おいしい?」
ボクの問いかけに彼女は微笑みながらうなずき返してきて、とってもゆったりした動作でおしるこを口に含んでく。
それが何ともかわいらしく見えちゃうんだけど、ちょっと気になることも出てきた。
「ねぇ、朝倉さんはこのお店のこと、知らなかったの?」
おしるこを口に含む手を止めて、こくんとうなずかれる。
「そうなんだ…やっぱり、普段は車で通学してるから気づかなかったのかな」
そうでないなら、歩いて通える道の途中にあるのに気づかないわけないよね。
…いや、朝倉さんなら断言はできない気もしちゃうけど。
その当の彼女はといえば、少し考えた表情を見せた後に首を横に振ってきた…って、じゃあまさか?
「えっと…春まで、ずっと外国にいたの…」
「えっ、外国に?」
続いての意外な言葉に思わず聞き返しちゃった。
「うん…この前、帰ってきたの…」
言葉は少ないけど、だいたいの事情は解った…気がする。
朝倉さん、お家は学園から近くって、それにお嬢さまでもあるけど、外部入学生だったんだね。
ボクと一緒か…ということは、知り合いもいなくって、だから教室とかでずいぶん不安そうだったのか。
こうしてボクのそばにずっといようとしてるのも、心細いからなんだね…どうしてボクがここまで懐かれた、は少し変な言いかただけど、とにかくそこはちょっとよく解らないけど。
「…どう、したの?」
と、色々考えてたら、いつの間にか彼女はおしるこを食べ終えてた。
…ボクだってこの学園でのお友達は作りたいし、こんなかわいい子ならなおさらだしあんまり深く考えなくてもいいよね。
「ううん、何でもないよ。じゃ、行こっか」
あの子もこくんとうなずいて、お互いに席を立つ。
「っと、お金を払わないと。ボクがまとめて払うから、朝倉さんの分は…と…」
ずいぶん不思議そうに首をかしげる彼女を見て言葉を止めちゃったけど、もしかしてお金を持ってない?
そもそもお金を払う、っていうことを解ってなさそうで怖いな…ちょっと一人にできない感じだし、そういう意味でもボクがそばにいたほうがいいのかも。
もしかしなくっても朝倉さんはお金を持ってなくって、ボクが全額払うことになっちゃった。
別に高いものじゃなかったからよかったんだけど、お嬢さまは自分でお金を持ったり買い物をしたりしないんだなぁ。
変なところに感心しながらも甘味やさんを出てまた道を歩いてくボクたち…。
「あっ、あそこ…」
しばらく歩いたところ…閑静な住宅地の中であの子が正面を指差したから目を移してみたんだけど…。
「…うわっ、豪邸っ?」
思わず声をあげちゃって不思議そうな表情を向けられちゃったけど…いや、本当に驚いた。
開いてる大きな門の左右はずっと白い壁…で、門の奥の奥のほうには立派な白亜の洋館が建ってたんだ。
「あそこが、朝倉さんのお家なの?」
一応確認してみるけど、普通にうなずかれた…う〜ん、やっぱりすごいな。
あんな立派なお屋敷にボクなんかが行ってもいいんだろうか…あんまりよくない気がする。
「えっと、じゃあボクはここで…」
門の前でそう言って反転…しようとしたんだけど、ぎゅっと服をつかまれちゃった。
「一緒に、行こ…?」
うっ、そんな潤んだ目で見られたら覚悟を決めるしかないよね…一緒に門を抜けて敷地内に入る。
門から洋館までのびる道の両側はきれいに映える芝生がまぶしい。
その先のお屋敷は立派な白亜の洋館で入るのをためらうんだけど、心の準備ができる前に彼女が扉を開けちゃった。
「お帰りなさいまし、お嬢さま」
「…っ!」
危うく声をあげちゃいそうになったけど、扉の向こう側では十人くらいのメイドさんたちが整列してて一斉に頭を下げてきたんだから、びっくりするに決まってる。
「うん、ただいま…」
一方の朝倉さんはといえば、全然変わりない様子でお屋敷の中に入ってくから、ボクも一緒に入らせてもらう。
「お、おじゃまします…」
お屋敷は中もやっぱり立派で、ちょっと圧倒されてしまう…。
「まぁ、あなたがお嬢さまのお友達ですか?」「お嬢さまのこと、よろしくお願いします」
と、メイドさんたちがボクに注目してきて色々声をあげてきた。
…う、うぅ、ちょっと恥ずかしいんだけど。
「それにしても、かっこいい子ですね」「本当、お嬢さまと並んでいらっしゃると、まるでお姫さまと王子さまみたい」
…って、な、何を言ってるのっ?
「うん…あゆみの、王子さま…」
さらに、朝倉さんが腕にぎゅって抱きついてきた…んだけど、今何て言った?
「王子さま…一緒に、ごはん…」
…うわっ、王子さまって、ボクのことっ?
も、もしかして、朝倉さんはボクのことを男の子と勘違いしてるんじゃ…!
「あ、あのね、朝倉さん…?」
「ごはん…ダメ、なの…?」
誤解を解こうと声をかけるも、悲しそうな表情をされてしまって言葉を詰まらせる。
「王子さま、お名前はなんとおっしゃるのですか?」
「えっ、は、はい、浅井智といいます…けど、ボクは…」
「そうですか、智さまのお食事も用意しておりますから、どうぞごゆっくりしていってくださいましね」「では、こちらにおいでくださいまし」
さらに、メイドさんたちによって有無を言わせずお屋敷の奥に案内されてしまった。
朝倉さんのお屋敷で出された昼食はさすがに豪華で、さらに周りにメイドさんたちが立ってたりしたからちょっと落ち着かなかった。
「王子さま…一緒に、おひるね…しよ?」
「う、うん、けど、ボクは…」
「…ダメ、なの…?」
「う、ううん、大丈夫だよ」
食後は、また男の子じゃないって説明できないままに、春の日差しの下、お庭にある木の根元でお昼寝。
「すぅ、すぅ…」
ボクに寄りかかって眠る彼女は、とってもかわいい。
そういえば、はじめて見かけたときもこうやって眠ってたっけ…気持ちよさそうだし、ついつい彼女の頭にそっと手をのばしてなでてしまう。
「うふふっ、仲がおよろしいですね」
「…うわっ!」
突然背後から声がかかってきて思わず大きな声をあげちゃった…現れたのはメイドさんだったんだけど、驚かさないでよ、もう。
「あの、智さま? 智さまは、お嬢さまのことをどう思っていらっしゃいますか?」
「えっ、朝倉さんのこと? はい、かわいい子ですよね…それに、とってもいい子だと思いますよ」
言った後、同級生に対する言葉としては不適当だったかな、とも思ったんだけど、メイドさんは微笑みながらうなずいてくれた。
「今日は本当にありがとうございます、智さま。お嬢さまがこんなに人と仲良くしていらっしゃるのを見るのは、はじめてですもの」
「えっ、そうなんですか?」
でも、彼女はとても人見知りが激しそうだし、それにまだ外国から帰ってきたばっかりだっていうし、メイドさんたちでも距離があるのかな…。
「よろしければ、これからもお嬢さまと仲良くして差し上げてくださいましね」
「あっ、はい、それはもちろんです」
「うふふっ、よかった…智さまは、お嬢さまの王子さまですから」
「えっ、あ、あの…!」
またあんなことを言われて慌てて否定しようとするけど、メイドさんは微笑んだまま歩き去ってしまった。
「う、ん…王子さま…」
眠ってる朝倉さんはそんな寝言を口にしてるし、まいったな…。
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