第二章 〜あゆちゃんと王子さま〜

 ―春は、色々な新しいことのはじまりを告げる季節。
 新しい生活や、新しい出会い…。
 それらがいいものになるといいな。

 ―ボクは、この春から高校に進学した。
 ボクが進学した高校には学生寮があって、そこに入ることにしたから、高校からは今までとは違った生活になる。
 不安と期待とが入り混じった気持ちの中で時は過ぎていって、いよいよその日を迎えた。
「うわぁ…」
 とっても気持ちのいい春の日差しの下、ボクがやってきたのはこれから通うことになる学校の正門前だったんだけど、思わずそこで足を止めてしまった。
 だって、正門からはずっと並木道がのびているんだけど、そこはまさに桜が満開、しかもそれがずっと先まで続いているんだから、見事っていうしかない。
 ここにはこれまで入試のときとかにもきたことがあったけど、そのときは当然桜なんて咲いてなかったもんね…すごいな。
 そよ風か花びらをきれいに舞わせる並木道をゆっくり歩いていくけど、ここはとっても静かだね。
 敷地がものすごく広くって、並木の両奥はさらにたくさんの桜でいっぱいだ…学校全体が桜で包まれてる感じかも。
 それに今は春休みだからか、人の姿も全然ない…並のお花見名所よりすごい場所だと思うんだけど、ここは関係ない人は立入禁止のはずだし、さすがにそんな人はいないか。
「っと、それより、学生寮の場所は、っと…」
 前にきたときに案内してもらっていたんだけど、広くてやっぱり迷いそうだ…学校の全体図を貰ってるからそれを出して、と…。
「…ん、何か聞こえる?」
 静寂に包まれて風に揺れる桜の音くらいしか聞こえなかった中、その風に乗って人の声が届いた気がしたんだ。
 ちょっと気になるかも…別に急いで学生寮に行く必要もないし、散歩がてらに行ってみようかな。

 正門から続く並木道をずっとまっすぐに歩いてくと、やがてきれいな水の湧き出る噴水、そしてその先に建つ立派な講堂にたどり着いた。
 人の声はその先…噴水のところで左右に分かれてる道の左のほうから聞こえた。
 しかも、結構賑やかな感じで、これはもしかしてさっきないかと思った…?
 少し道を進むと、ボクが思ったとおり…ううん、それとはちょっと違ったけど、まず違わない光景が、道から少し離れた桜の木々の下に見えたんだ。
 十人以上の人たちが食事をしたりしてる…要するにお花見なわけだけど、雰囲気が普通のお花見とはちょっと違う。
 料理はテーブルの上だし、立食パーティって感じだ…よく見たらメイドさんの姿なんかも見えるし。
 うわ、メイドさんなんてはじめて見るし、やっぱりここは別世界なところなのかな…。
 うまくやっていけるかどうかちょっと不安になってしまいながらも、ずっとそんなのを見てるわけにもいかないからその場を後にしようとする…と、そんなボクの目に、ある桜の木が目についた。
 いや、目についたのは木じゃなくってその根元…お花見の人たちとはちょっと離れたその木の根元に寄りかかってた人。
 ちょっと遠くてはっきりとは見えないんだけど、眠ってるみたい…。
 桜の花びらが舞う中で眠るその子は、多分ボクと同い年くらい…純白のドレスみたいな服を着てて、まだあどけなさも感じるけどとってもきれい…。
「…って、な、何を考えてるんだ、ボクは」
 ちょっとぼ〜っとしちゃってた…しっかりしなきゃ。


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