序章
―桜の花が咲き誇る並木道を、制服姿の女の子たちが校舎に向かって歩いてく。
「う〜ん、いい光景だよ〜。この中にどれだけああいう子がいるのかな…きゃ〜、きゃ〜っ」
そんなみんなの間を、気持ちが抑えられなくなって思わず走っちゃう子…って、自分なんだけどね。
「ちょっと、そこの初等部の生徒。新学期で気持ちが浮かれているのでしょうけれど、もっと落ち着いて行動をしなさい」
って、並木道の脇に立ってた、生徒会の腕章をつけた子に鋭い声をかけられちゃった。
「わわっ、もしかしてみーさのことかな〜?」
「もしかしなくとも、貴女のことよ」
そばに駆け寄ってみるとため息をつかれちゃったけど、ひどいよ〜。
「もう、副会長さん、みーさは初等部の生徒じゃないよ〜?」
「…えっ?」
一瞬きょとんとした表情をされちゃったけど、普段常に冷静な感じなだけに少し新鮮でかわいいって感じちゃった。
とにかくその人は高等部生徒会副会長の草鹿彩菜さんっていって、すらっとした高い身長でスタイルもいい美人さんなんだけど、鋭い目でちょっと冷たい雰囲気なんだよ〜。
「えっ、じゃなくって、みーさは副会長さんと同い年で同じ学年なんだよ〜?」
「私と同じ…どなただったかしら?」
「わわ、もうっ、今日から高等部二年生になる藤枝美紗だよ〜」
それを初等部の生徒と間違えちゃうなんて、失礼しちゃうよ〜。
確かにみーさの背はとってもちっちゃくって、特に副会長さんみたいな背の高い子から見たらすっごく子供に見えちゃうかもだし実際よく年齢を間違えられちゃうけど、それでもちゃんと高等部の制服を着てるんだから。
「そう…間違えたことは謝るわ、ごめんなさい。けれど藤枝さん、高等部の生徒ならばなおさら落ち着いた行動を取りなさい」
「は、はわわ〜!」
「はわわ、ではなくて…解ったのかしら?」
「わっ、う、うん、解ったよ〜」
鋭い視線を向けられてびくびくしちゃったよ〜。
通り過ぎてくみんなの視線も痛いし、新学年になった初日からひどい目にあっちゃったよ〜。
みーさの通う学校は、私立明翠女学園っていう、小中高一貫型の女子校。
「あっ、みんな、おはようだよ〜」
「あら、おはようございます、藤枝さん」「おはようございます、今日も相変わらずお元気ですね」「本当、一年生のときはお噂を耳にするだけでしたけれども、本年はよろしくお願いいたしますわ」
今日から一年を過ごす教室に入ってみんなに挨拶をするけど、みーさが元気たっぷりなのに対してみんなは落ち着いた感じ。
う〜ん、やっぱりここはかなりのお嬢さま学校としても有名だから、みんなもそんな感じの子が多くって、みーさはちょっと浮いちゃってるのかもだよ〜。
ちなみに、学力のレベルでもここはずいぶん高くって、そっちのほうも屈指の難関校ってところ…さらに高等部になると入学枠が十人あったかどうかだし。
…わっ、みーさがどうしてそんな学校にいるのか不思議?
失礼しちゃうよ、みーさはこう見えても勉強はできるほうなんだよ…って、初等部で入学してその後ずっとこの学校に通ってる、ってこともあるけど。
あと、みーさの家はそんなお金持ちってわけじゃないけど一応そこそこの収入はあるみたいだからみーさをここに入れてくれたんだよ。
でも、その両親はずっと海外で暮らしてて、でもみーさは海外なんて行きたくないってこともあってここの学生寮で暮らしてるんだよ…って、別にさみしくないよ?
学校は楽しいし、それに…とっても楽しい、生きがいって言えるものが、みーさにはあるんだもん。
さすがに新学期初日だからすぐに放課後になっちゃった。
まだおなかもすいてないから、学食とか学生寮とかに行くこともなく、まっすぐにとある場所へ向かったよ。
たどり着いたのは、教室棟の隣に建ってる特別棟っていわれる建物の三階…そのあたりは文化系の部活動の部室があるんだよ。
「失礼します、だよ〜」
その中の一室に繋がってる扉を元気よく開いて中に入る…けど、本とか紙とかが乱雑気味に置かれたそのお部屋には誰の姿もなかったよ。
う〜ん、誰もいないのは当たり前だよ、ここの部の部員はみーさ一人だけだから…でも、一人ってことはつまりみーさが部長さんなわけだよ〜。
部員が一人だと廃部ってことにもなりかねないけど、一応部員がいてちゃんと活動してる限りは大丈夫みたい。
「それじゃ、さっそく活動をはじめるよ〜」
みーさの部は文芸部…主に物語を書いて、できあがったらそれを本にしたりもしてるよ。
一応自分のお部屋や図書室とかでもできるっていえばできるんだけど、それでもこうやって部室があるっていうのはありがたいよ〜。
「さてと、新学年になってはじめての今日は、どんなお話を書こうかな〜?」
机について、まっさらな原稿に向かいながら色々考えてみる。
みーさは物語を書くのが大好き…そして、もう一つ大好きなことがあるんだよ。
それはね、女の子が女の子に恋しちゃう、百合の世界。
「素敵なお二人の頑張って考えなきゃ…きゃ〜、きゃ〜っ」
女の子たちがラブラブしちゃってるとこを思い浮かべたりしちゃうと、気持ちが抑えられなくなっちゃうよ〜。
そんなみーさだから、書くお話ももちろん百合なものだけ…それを書いて、さらに挿絵も自分で書いて本に仕上げるなんて、とっても幸せなひとときだよ〜。
しかも、みーさの書くお話はただの百合なお話じゃないよ。
「あのお二人はこの前書いたし…新しい百合なお二人はいないかな〜?」
そう、みーさはこの学校に実際にいる百合な人たちのお話を書いてるんだよ〜。
みーさがお話を書いたみんなが、ずっと幸せでいてくれたらみーさも嬉しいよ…きゃ〜っ。
今日は誰の幸せなお話を書こうかな…って考えるみーさの頭に、今朝聞いた会話が浮かんできた。
「あっ、そういえばお隣のクラスの新しい担任さんって、みーさと同じお名前の先生と…」
先生のお話、っていうのは今まで書いたことなかったけど、素敵な百合のお話にそういうのは関係ないよ〜。
「うんうん、いいお話が書けそうだよ〜」
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