副ヘッドさんのお話によりますと、私たちが今いる場所は私が暮らしている世界とは異なったところに位置する、つまり地球ではない場所だっていいます。
 ならここは何なのかっていうと、私たちの世界でも物語とかで語られてることのある魔界っていう世界らしく、そこに住まう者も悪魔と私たちが呼んでいるものだそう。
 どうりで空気とかが重いわけですけど、異世界同士の間には結界が張られていて、普通は違う世界を認識することはできなくって、ましては移動するなんて相当な労力がいるといいます。
 それをこうもあっさり移動できたのは、九条先輩の力のおかげだそう…あのかたは全ての世界の境界に張られた結界を守護している立場なのだといいます。
 で、私たちの世界と異世界とを繋ぐ門みたいなものがあるのが、九条先輩のいらっしゃるあの神社ってことになるらしくって、だからあの場所からここまでかのかたの力で飛ばしてもらった、と…。
「ま、私が叡那の家で厄介になってるのも、私があっちの世界に行ったときにあの場所に出て、そして叡那に会ったから、ってことになるわね」
 そんな九条先輩ですから、基本的に力のない人ばかりなあの世界にあって、とんでもないくらいの力を持っていらっしゃるそう…雰囲気からしてただ者ではない感じを出してはいらっしゃいましたけれども…。
 それにしても、この副ヘッドさんのお話は今までの常識から飛躍しすぎ…そう、ファンタジーな小説なんかの設定に聞こえちゃいます。
「…あによ、もしかして私の話、信用してないの?」
 そんな私の心を見透かしてか、歩きながらもにらまれちゃいました。
「い、いえ、ただびっくりしちゃって…それに、こんな風景とか実際に見ちゃったら、信じるしかないですし…」
 夢としか思えなくもないんですけど、でも夢じゃないんですよね…。
「ふぅん、意外と飲み込みがはやいのね、たすかるわ」
 何だか感心されちゃいましたけど…そうなると、ちょっと気になることが出てきちゃいますよね。
「え、えっと、今の話だと、ここは魔界で、ここに住んでるのは私たちが悪魔って呼んでる存在、なんですよね?」
「ま、そうね?」
「えっと、じゃあ、ここ出身だっていう副ヘッドさんは…どうなるんです?」
 今までの話の流れだと…ああなっちゃいますよね?
 でも、副ヘッドさんは普通の人間に見えます…だからこそ私たちの世界でああして学校にも通ってたわけなんですけど…。 「…あによ、気になるの?」
「そ、それはまぁ、気になりますぅ」
「…しょうがないわね」
 そうして副ヘッドさんは足を止めましたから私も止めますけど、その彼女は目を閉じて…次の瞬間、彼女を中心に突風が巻き起こりました?
「…はわっ!」
 思わず手で目を覆っちゃいましたけど、それはほんの一瞬で収まりました…ただ、代わりにちょっと重い空気がすぐそばから伝わってきますからちょっと戸惑いながらも手をどけると、私の前にはさっきまでと同様に副ヘッドさんが立ってました。
「えっと、さっき…何かしました?」
「あによ、よく見てみなさいよね?」
 鋭い声にびくっとしちゃいますけど、その言葉通り彼女をよく見てみると…って!
「は、はわっ、つ、角が…それに翼までついてますっ?」
 あたりが暗いせいではじめは気づかなかったんですけど、それに気づいて思わず声をあげちゃいました。
 そう、副ヘッドさんの頭に二本の角、それに背中には黒い蝙蝠みたいな翼が現れてて…さらによく見ると、黒いしっぽまで出てたんです。
 それは、確かに私たちの世界にもお話で伝わるあれのイメージそのもので…。
「わわわっ、えっと、それ、どういうことですっ?」
「あっちじゃ隠してただけよ…ま、これが私の半分の本当の姿ってわけよ、解った?」
 う、う〜ん、一瞬で出てきましたし、それに翼やしっぽは自然な感じで動いてますし、作りもの…ってわけじゃなさそうです。
「は、はいです、解りました」
「…あによ、思ったより驚かないのね」
 私の反応に意外そうな表情をされました。
「私はそっちで言うところの悪魔なのよ?」
 副ヘッドさんはそう言うと右手を荒野へ向けると、手から彼方へと黒い衝撃波の様なものを放ちました…!
「こんな力も持ってたりするのに、ヘッドは怖くないの? 私のこと、嫌いになったりしないのっ?」
 彼女の口調が少し強くなってびくってしちゃいます。
「ふ、ふんっ、怖くなったら、嫌いになったなら、ここで送り帰してあげるわよっ。人間が悪魔を嫌うのは当たり前のことなんだし、気にしなくってもいいんだからねっ?」
 さらに強い口調でそう続けられちゃいましたけど、明らかに強がってますし…えと、出発の前に彼女が妙に不安げにすることがあったのって、このせいだったんですね。
「えと、別に送り帰してもらわなくっても…副ヘッドさんのことを嫌いになったりとかしてませんし」
「あによ、さっきびくついたくせにっ」
「あれは副ヘッドさんがいきなり強い声出すからじゃないですか…」
「…あによ、じゃあ、私のこと怖くないっていうの?」
「はい、大丈夫ですよ?」
 むすろ、さっき見せつけられた力より、はじめて会ったときの色々のほうが怖かったかも…。
「でも、私は悪魔なのよ?」
「う〜ん、そりゃ多少…どころじゃないくらい驚きはしましたけど、今まで接してきた副ヘッドさんと内面が何か変わってるみたいには見えませんし、副ヘッドさんは副ヘッドさんですよね? ですから、嫌う理由なんて何にもないですよ?」
 そうそう、性格が悪人になってるとか、そんなことはないんですし、問題ないです。
「ふ、ふんっ、じゃあこんなところでいつまでものんびりしててもしょうがないし、さっさと行くわよっ」
 副ヘッドさん、ぷいって顔をそらせてしまいましたけど、もしかして照れてるんでしょうか。
 そういえば九条先輩たちとのことで後輩さんと問題があったときにも似た様なことで私にどう思われるかって心配してた気がしますし、そんなとこも含めて何だかちょっとかわいいって思えちゃいます。
「あ、あによ、にたにたして…何か文句でもあんのっ?」
「はわっ、な、何でもないですよぅ?」
 ツンってしてるところも、はじめの頃は怖かったですけど、今じゃそれすら微笑ましく見えて…なんて言ったら怒られちゃいそうですけど。
「…あ、ありがと」
 と、顔をそらしたまま、でも少し赤くなっていた彼女がつぶやく様にそう言いました…?
「…ふぇ? 副ヘッドさん、今なんて…」
「べっ、別に何も言ってないわよっ。それより、ここからは飛んでいくわよっ?」
 慌てる彼女はさっと私の手を取ると、背にある翼で飛び立ちまして、もちろん彼女に手を引かれた私の足も地面から離れていきます…!
「は、はわっ、わ、私の身体が浮いちゃいます…!」
 はじめての感覚に怖くなって、思わず彼女の腕にしがみついちゃいました。
「あによ、ヘッドったら怖がりね?」
「そ、そんなこと言われても、空を飛ぶなんて…!」
「しょうがないわね…目的地はまだまだ遠いんだから、しっかりつかまってなさいよね?」
「は、はいですぅ…!」
 私の返事を楽しげな様子で確認した副ヘッドさん…車と同じくらいのはやさで大地と並行に飛びはじめますから、ぎゅっと腕にしがみついたまま離れられません。
 うぅ、何だかどきどきしますけど、これってはじめての、未知なことの連続で緊張してるだけですよね?


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