「なかなか面白かったわね、次回はどうなってくのかしら」
「結構意外な展開が待ってそうですけど、個人的にはのんびりした雰囲気のままでいってもらいたいものですぅ」
 紅茶、それに今日はお菓子まで一緒に楽しみながら、昨日放送されて私が録画、さらにそれをDVDへ焼いてきたアニメをモニタに映してのんびり鑑賞…終わったところで感想を言い合います。
「そういえば、あんたはのんびりした雰囲気な作品が好きなんだっけ…ま、性格もどこかのんびりしてるものね」
「むぅ、そうでしょうか…」
 でも、冴草さんもずいぶんと色んなお話ができる様になってきました…まぁ、毎日の様にアニメを観てたら、一ヶ月くらいでもこれくらいにはなっちゃうでしょうか。
 そう、彼女が日々ここにきて何をしてるのかっていえば、主にアニメを観てるわけで、このスタジオにあるDVDは全部観られちゃいましたし、私が個人的に持ってるものもわざわざここに持ってきて見せてあげたりもしました。
 で、今は主に現在放送中の作品の中から私が録画をしているものをこうして観てる、ってわけです。
 私は本当にここでは演技の参考にたまに流す程度だったんですけど、ここにきてほぼ毎日流しちゃってます。
 それは練習の時間を削っちゃってるわけですし、こんなところを誰かに見られたら練習風景を見られるのとは別の意味で大変な気もしちゃいますけど…でも、まぁ別にいいんです。
「えっと、今日は何がやるんだっけ?」
「え〜と、今日は…あの魔法少女な作品の第二期がありますね」
「あぁ、あれね。やっぱり私はそれが一番好きかな…楽しみね」
「はいです、じゃあまた明日持ってきますね」
 こうしてアニメのお話で盛り上がれる相手ができた、っていうのはやっぱり嬉しいものですから。
「それにしても、冴草さんもすっかりアニメが好きになっちゃいましたね」
「あ、あによ、そんなのあんたのせいじゃない」
 お菓子の最後の一つを口にしながらにらまれちゃいましたけど…う〜ん、きっかけを作ったのは確かに私ですけど、そこからまさかここまで好きになってくれるなんて、これは全然予想してませんでした。
 まぁ、あまねさんは興味を持ってくれませんでしたけど、本好きな子は物語の世界とかが好きそうですし、アニメのほうも好きになるってことも十分ありえますよね。
 それに、彼女がこれまでテレビとかに触れてなかったことについても、ただ単にそういう環境になかっただけで別に禁止されてたとかそういうわけじゃないみたいですから、一安心です。
「さてと、それじゃあんたはそろそろあれをはじめるの?」
「はいです、今日録画してきた作品は今の一つだけですし、そうします」
 残っていた紅茶を飲み干し、ゆっくり立ち上がります。
「毎日毎日本当によくやるわね…そこは普通に感心するわ」
「まぁ、やっぱり夢は叶えたいですし、それに日課にもなっちゃってますから」
 残りの時間は、これまでどおり声優を目指すための練習…はい、冴草さんがこうして居座る様になってからも、ちょっと時間は短くなっちゃったもののちゃんとやってます。
「じゃあ、まずは発声練習から…こほんっ」
 おなかに力を込めて発声練習をはじめますけど、これってはじめて冴草さんに見られたとき「変な声」なんて言われちゃったんでしたっけ。
 そのこともあってはじめのうちはちょっと恥ずかしかったんですけど、今ではもう大丈夫です。
 一方の冴草さんはといえば、私の練習がはじまっても帰ったりせず、かといってアニメを流す様な練習の妨げになる様なこともせず、椅子に座ったまま雑誌を読んだりしてます。
 その雑誌も、最近では冴草さんが自分で買ってきてまして、主にアニメや声優さんのものです。
「あんたもいずれこんな雑誌に載る様になるのかしら…ま、そうなったらファンになってあげないこともないわよ?」
「わっ、えっと、ありがとうございます」
「あ、あによ、なれたらの話よ、なれたらの」
 そんなことを言って雑誌に目を落とす彼女ですけれど、アニメだけじゃなくって声優さんのほうにも興味を持ってくれているんです。
 最近の声優さんに必要な歌のほうも練習を聴いてくれたりしてますし、石川先輩ほどじゃないですけど練習のときにいてくれるとありがたいな、って感じるときもあります。
 それにしても、石川先輩かぁ…まだ雑誌とかにお名前は載りませんけど、あのかたが出演されるゲームは夏頃発売予定ですし、楽しみなものです。
「…ねぇ、そういえばさ」
 と、あのかたみたいにデビューできる様に頑張らなきゃ、って改めて思いながら練習してますと、雑誌を読んでた冴草さんが声をかけてきました。
「ふぇ? どうしましたか?」
「いや、あんたって結構色んなことの練習してるわよね。基礎的っぽいことから、台詞読みとか歌とか」
「はいです、でもそれがどうしましたか?」
「いや、あれは練習しないのかな、って…深夜によくやってるラジオ番組とか」
「あぁ、あれですか…冴草さんも最近聴きはじめたんでしたっけ」
 彼女のお家には相変わらずテレビはないそうですけど、より手軽なラジオは買ってもらえたみたいで、私も眠る前によく聴いてます声優さんがパーソナリティをしてるラジオ番組を聴いてみてる、ってわけです。
「そうそう、トークの腕とかも磨いておいたほうがいいんじゃないの?」
 まぁ、ここまで色々な練習をしてますと、そういう練習もしてみたいな、って思うこともたまにはあります。
 でも、ラジオ番組を持つなんて、CDで似た様なものを出せるときもありますけど、基本的には相当有名にならないとできないものですし、それ以前に…。
「さすがにその練習をしようってなりますと、一人じゃ難しいです」
 台詞を読んだりするのならともかく、一人でトークするっていうのは…難しい上にさみしく、恥ずかしいって感じちゃいます。
 石川先輩と一緒に練習をしていたときにもそういう話にはなりませんでしたし、さすがにこれは実際にそういう機会が訪れてから、ってことになるでしょうか。
「じゃあ、二人ですればいいでしょ?」
「むぅ、そんな簡単に言いますけど、そんなこと頼める人なんていませんよ?」
 石川先輩がいらしたら話は別かもですけど、そうじゃない限り…。
「あによ、目の前にいる人には頼めないっていうの?」
 と、不機嫌そうになっちゃった冴草さんですけど…えっ?
「え、え〜と…もしかして、冴草さんが一緒にしてくれるんですか?」
「あによ、私なんかに頼む気ないんでしょ? 別に無理しなくってもいいわよ」
「いえ、そんな、冴草さんがしてくれるっていうんでしたら、ぜひお願いしたいところですぅ」
 ちょっとへそを曲げちゃった彼女に頭を下げます。
「ふぅん…ま、そこまで言うんだったら、しょうがないからやってあげてもいいわよ?」
「あ、はいです、ありがとうございますぅ」
 もう、冴草さんから言い出したことですのに…こういう子をツンデレ、って表現するんでしょうか。
 まぁ、でも、私の練習を手伝ってくれるなんて、その気持ちは素直に嬉しいです。
「じゃ、さっそくはじめてみましょっか」
 彼女に促されて、私はテーブルを挟んだ向かい側に座ります。
「そうね、まずはラジオの番組名を決めなきゃいけないわね」
「…ふぇ? そこまで考えなきゃいけませんか?」
「当たり前じゃない、番組名のないラジオ放送なんてどこにあるのよ?」
 いえ、確かにそれはそうなんですけど、ただの練習なのに…。
「ほら、何かないの?」
「う、う〜ん、いきなりそんなこと言われても…」
 あまりに唐突で、それに妙にやる気な彼女にそんなのいらないじゃ、とも言えず困っちゃいます。
「全く、しょうがないわね…じゃ、私が決めてあげるわよ」
 いえ、こんな短い間で考え付くわけないんですけど…って、もう何か考え付いちゃったなんて、もしかしなくっても私に声をかける前から何か考えてたんじゃ…。
 冴草さんの暇つぶしで提案されたのかな、なんて思っちゃいますけど、もちろんそんなことは口に出さず待った、彼女の考えた名前は…。
「『松永いちごのスマイル・ギャ○グ』でどう? ま、一部伏せ字なのは気にしない、ってことで」
「…ふぇっ? そ、その名前は…!」
 まさかそんな名前でくるなんて…あんまりすぎて、思わず声をあげちゃいました。
「あによ、わざわざそっちの名前を付けてあげたっていうのに、何か文句あんの?」
「も、文句といいますか、そんなとっても有名な番組に酷似したタイトルをつけるのは…!」
 そう、彼女があげた名前は、私の名前のところを変えたらとっても有名な声優さんお二人がしてるラジオ番組のタイトルになっちゃうわけで…伏せ字もまぁ、だからなんでしょう。
「本当にあによ、細かいこと言うのね…あくまで練習なんだから、何か元になるものがあったほうがやりやすいでしょ?」
「ま、まぁ、それはそうかもしれませんけど…」
「じゃ、何も問題ないわね…私が副ヘッドをしてあげるから、そっちがヘッドをしなさいよね?」
「は、はわわ、はいですぅ」
 その声優さんのラジオではお二人がそう呼び合ってるんですけど、そこまで一緒にしちゃいますか…でも、そのほうが楽しくていいかもですね。
「じゃ、さっそくはじめてみましょっか…あのラジオ番組みたいにはじめてみなさいよ」
 テーブルに向かい合うかたちで座ってる私たちですけど、彼女はそう言いながらお互いの前にマイクを置いてきたりとやる気満々みたいで、そこまで私の練習に付き合おうって思ってくれてるのはありがたいことですし、こっちも頑張らなきゃですね。
「こほん、えっと…松永いちごのスマイル・ギャ○グ〜」
 ですから、元気よくタイトルコールを口にしたのでした。

「なかなか楽しかったし、これからも練習に付き合ってあげるわよ?」
「は、はわ、はいですぅ」
 その日の練習を終え、すっかり暗くなった並木道を歩く私たち二人…冴草さんはまだまだ元気ですけど、対する私はちょっと疲れ気味です。
 いつもの練習でも多少は疲れますけど、今日の疲れはひとしお…それもこれも、今日あれからずっと続けていたラジオの練習にあります。

「あによ、何か不満そうね」
「だ、だって、冴草さん、私のこといじってばっかりで…これでも一応、私のほうが先輩なんですけど」
「しょうがないじゃない、本家の番組だってヘッドがいじられ役で副ヘッドがいじり役じゃない」
「そ、それはそうですけど…」
 むぅ、冴草さんがこの番組を選んで、さらに私をヘッドにしたのはこのあたりに理由がありそうです。
「それに、ヘッドって元々いじられキャラじゃない。だから私はそのキャラを生かしてあげてるの…感謝しなさいよね」
 はぅ、ものすごくはっきり言われちゃいました…間違いなく、彼女は私をいじって楽しんでます。
「だ、誰がいじられキャラなんですか、いくら何でもあまりに失礼なんですけど…!」
「あによ、本当のことじゃない…そうやっていちいち慌てるとことか、かわいらしいわよ?」
「なっ、か、かわいいって…!」
 も、もうっ、そうやっておかしなこととか言ってくるから慌てちゃうんですっ。
「ほら、ヘッドはやっぱりいじられキャラじゃない」
「…はぅ」
 これ以上反撃する元気もなく、さらにちょうどそこで学生寮へ続く分かれ道に差し掛かりましたから、今日はそこで彼女と別れました…って、別に私がいじられキャラだっていうのを認めたわけじゃないんですからね?


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