第三.五章

 ―色々あって副ヘッドさんが私たちと一緒に学食でお昼ごはんを食べる様になりました。
「冴草さんは、ハーフなんだ…」「で、留学生としてこちらへきている、ということなのですわね」
「はい、そういうことになります」
 お食事の後、のんびりお茶を飲みながら一菜さんと冬華さんが色々彼女にたずねます…もちろん、彼女からもお二人に色々聞き返してますけど。
 副ヘッドさん、お二人がいると上級生を敬ってか丁寧な口調になって…ちょっと複雑な気分です。
 とにかく、お二人がたずねることは私も知っていることばかり…。
「冴草さんのお誕生日は、いつになるの…?」「わたくしは名前の通り冬ですけれども」
 って、そういえばこれは聞いてませんでした。
「誕生日? えっと、七月の七日です」
「あっ、じゃあもうすぐなんだ」「それに、七夕なのですわね」
「えっ、七夕ってあに…な、何ですか?」
「あら、七夕をご存じありませんの?」「留学生だから、しょうがないのかな…」
 そうしてお二人が七夕についての説明をしてあげますけど、その日が副ヘッドさんの…なんですね。

 今年の七月七日は日曜日で学校はお休みです。
 でも、私はお休みの日でも学校のスタジオにやってきて練習してますから、その日も普段どおりに朝の十時頃にはやってきてました。
 梅雨も明けて、外はもう真夏の暑さなわけですけど、スタジオには適度に冷房を効かせてます。
「今日はきてくれるでしょうか…」
 そこで一人座ってるんですけど、ちょっと不安になってきちゃいました。
 いえ、いつもお休みの日にもきてくれはするんですけど、明確に約束をしてるってわけじゃないですし、それにこんな暑い日ですし、さらに特別な日のわけですし…。
 ちょっとそわそわしたりしちゃいます…と。
「…ふぅ、外は暑いわね。ここはエアコンが効いてて涼しいわ」
 扉が開いたかと思うと、そんなことを言いながら中へ入ってくる人の姿…。
「はわっ、えっと、副ヘッドさん、こんにちはですぅ」
「あによ、相変わらずびっくりしたりして、いいかげん慣れなさいよね…ま、とにかく今日もきてたわね」
 外が見えないんですから突然扉が開いてびくってなっちゃうのは当たり前なんですけど、とにかくやってきたのは見慣れた人。
「そういう副ヘッドさんも、今日もきましたね」
「あによ、悪い?」
「いえ、全然悪くないですよ?」
 こんなやり取りもいつものことですけど、今日は特に一安心しちゃいました。

 やってきた副ヘッドさんがまずすることっていったら、私が録画して持ってきた、前日に放送されたアニメを観ること…これは私も一緒に、邪魔をしたりせずに観ます。
「今期のアニメがはじまった、ってわけね…とりあえず今日観たのは普通だったわね」
「う〜ん、そうですね…」
 七月に入りましたから、アニメも新作が多くてチェックが大変です。
「さてと、そろそろ昼時だけど、もう学食に行く?」
 アニメを観てましたらもうそんな時間で、いつもでしたら休日も開いてます学食でお昼を取るところなんですけど、今日は違います。
「あっ、待ってください。実はちょっと用意したものがありますから…」
 そう言いながら机の下から取り出し、その机を挟んで私と向かい合うかたちで座ってます彼女の前、それに私の前にもそれぞれ一つずつ箱を置きます。
「あによこれ、お弁当じゃない。何でわざわざ…」
 それは彼女の言ったとおりのものだったんですけど、用意してたのはそれだけじゃなくって…もう一つ、大きめの箱を机の中心に置きました。
「えっと…副ヘッドさん、お誕生日おめでとうございますぅ」
 そう言いながら箱のふたを開けますと、その中にあったのはケーキ…誕生日をお祝いするためのものです。
「んなっ…ちょっ、これ、わざわざヘッドが用意したの?」
「はいです、今日が副ヘッドさんのお誕生日だってことは前に聞いてましたから、ささやかながらお祝いしてあげようかな、って…ケーキも私が作ったんですよぅ?」
「そ、そうなの…え、えと、まぁ、一応お礼は言っとくわ。あ、ありがと…」
 ちょっと恥ずかしそうにされましたけど、何だかかわいいです…って、何をどきどきしてるんですっ?

 いつものスタジオでの、二人だけのささやかなお誕生日パーティ。
「これ、本当にヘッドが作ったの? 結構おいしくできてるじゃない」
「わっ、ありがとうございますぅ」
「って、でも、まだまだ私の舌を納得させられるレベルってわけじゃないけどね?」
 そんな一言が付け加えられましたけど、でも食後のケーキもちゃんと食べてもらえて一安心です。
 いえ、だって、この間「ひよこ屋」ってケーキ屋さんへ行こうとしたときに彼女はかなり拒絶してきましたから、もしかしたらケーキが嫌いなんじゃないか、って思ったりもしましたから…でもそんなことはなかったみたいです。
 そうしてケーキも食べてもらえましたけど、まだこれで終わりってわけじゃないです。
「えと、あと、副ヘッドさんにお誕生日プレゼントも用意してます。これをどうぞ」
 きれいに包装された、あまり大きくはないものを取り出し、彼女に差し出します。
「え、えと、こんなことまでされて悪い気もするんだけど、開けていいわけ?」
「はいです、もちろんいいです」
 ということで副ヘッドさんが包装を剥がしますと、出てきましたのは彼女の好きな声優さんのラジオCDが三枚ほどでした。
「ふぅん、これはなかなかいいわね…え、えと、ありがと」
 はぅ、副ヘッドさんにお礼を言われますと何だかくすぐったい様な気持ちになっちゃいます。
「あっ、それで、一菜さんと冬華さんからもプレゼントを預かってますから、ここで渡しておきます」
「えっ、あのお二人からも? それはますます悪い気がするわね…次に会ったときにお礼言っとかないと」
 本当はお二人もお誘いして別の場所でパーティしようって思ってたんですけど、どうしても外せない用事があるとかで遠慮されちゃったんですよね…。
 こうしてプレゼントは用意してくれるんですし、副ヘッドさんのことが嫌いとか、そういうわけじゃなさそうなんですけど、う〜ん…。

 ちなみに一菜さんからのプレゼントは猫のぬいぐるみ、冬華さんからはなぜか同じものが二つのアクセサリ…間違って二つ買った、とかそういうことじゃなさそうですけど。
「しょうがないから、一つはヘッドにあげるわ」
 なんて言われましたから受け取っちゃいましたけど、よかったんでしょうか。
 それからは普段どおりちょっと練習をしたんですけど、時間を見るともう夕方…。
「今日の夕ごはんはこっちでもパーティみたいなことするんだけど、ヘッドもくる?」
 そろそろ帰りましょう、ってなったときにそんなこと言われましたけど、彼女がお世話になってるところでもやっぱりあるんですね…って?
「ふぇっ、そ、それってつまり、九条先輩のお宅、ってことですよね…! そ、そんな、私なんかがお邪魔しちゃってもいいんでしょうか…!」
「あによ、別にヘッド一人くらいきても気にされないと思うけど?」
 そ、そうは言っても、九条先輩は容姿端麗に学業優秀と学校で人気があると同時にとっても近寄りがたい雰囲気をしたかたで、そこへ面識のない私が行くなんて…ちょっとどころではないくらい緊張しちゃいます。
「叡那たちも一度ヘッドに会いたいって言ってるんだけど…ダメなの?」
「ふぇっ、わ、私に会いたいって、どうして…!」
 も、もしかして、アニメとかの知識をつけさせたことについて怒っていらしたり…?
「学校のほうで私がお世話になって…って、私自身は別に世話になってるつもりはないんだけど、とにかくどんな子か気になってるんじゃない?」
 ま、まぁ、学校じゃ私と過ごすことが多くなってますし、気になるのは当たり前かもですね…。
「…で、くるの、こないの?」
「はわっ、行かせてもらいますぅ」
 鋭い視線を向けられては、私はうなずくしかありませんでした。


次のページへ…

ページ→1/2

物語topへ戻る