―次の日。
「昨日、それに一昨日と練習らしい練習ができてませんし、今日は頑張りましょう」
 放課後、そう意気込んでいつもどおりスタジオの扉の前にまでやってきましたけど、扉を開けようとする手がふと止まりました。
「…あの子、今日もきてるなんてことは…」
 頭をよぎったのは、昨日までの二日間まともな練習ができなかった原因を作った女の子のこと。
 でもでも、彼女はこのスタジオが何なのか知りたがってただけのはずですし、それが解った今、もうここに用はないはず、ですよね。
「…うん、今日は誰もいないはずです」
 そう呟きながら、でもちょっと緊張しながら扉を開けてみます。
「って、はわわわっ!」
 と、中の様子を見た瞬間、慌ててしまいながらも急いで中へ入って、さっと扉を閉じました。
「あ、あによ、いきなり入ってきたかと思ったら変な声あげて…びっくりしちゃったじゃない」
 慌てちゃったのは、すでにそこにそんな声をあげる一人の少女…いうまでもなく冴草エリスさんがいたからなんですけど、それだけじゃありません。
「さ、冴草さん、何してるんですっ?」
「何してるって…見れば解るでしょ? 昨日の続きを観てるのよ」
 そう、彼女は昨日観せてあげたアニメDVDの第二巻を再生していたんです。
 しかも、ここは音響設備も整ってますから結構な大音量で…そんなものが外部に漏れたりしては大変ですから慌てて扉を閉めた、ってわけです。
「は、はぅ、どうしてそんなことを…」
「もう、うるさいわね、人が楽しんでたっていうのに…何か文句あるの?」
 彼女はアニメの再生を止めながら私をにらみつけてきました。
「こ、ここはあくまでスタジオで、アニメを観るところじゃないですよ?」
「あによ、じゃあ何でこんなのが置いてあって、昨日普通に観れたりしたの? あんただって観てる、ってことになると思うんだけど」
「そ、それは、私の場合はあくまで演技の参考として観てるわけで…」
 それに、ここにあるDVDの大半はそういう理由で石川先輩が持ち込んだもので、私はそれを引き継いだだけだったりもします。
「何か苦しい言い訳にしか聞こえないんだけど、とにかく私のいる家にはテレビがないんだから、続きくらい見せてくれたっていいでしょ?」
 むぅ、昨日DVDデッキの操作方法を教えて、って言われたときにある程度こうなるかもってことは想像してたんですけど、今日も練習ができなくなっちゃうんですね…。
 そう思うとちょっとため息をついちゃいそうになるんですけど…あれっ?
「えっと、冴草さん…この作品の続きを観たい、って思ってくれたんですか?」
「まぁね、面白いし、それになかなか参考にもなるし…わ、悪い?」
 参考、って…こんな魔法少女アニメの何が何の参考になるんでしょう。
「い、いえ、全然悪くないですよ?」
 多少興味を示してくれたってことは昨日の態度から解ってましたけど、これは…ちょっと、嬉しいかもです。
「だったら、責任持って最後まで観させなさいよね? こんな中途半端で終わられたら気分悪いでしょ?」
「はわ、せ、責任って…しょ、しょうがないですね」
 練習できないのはちょっと残念ですけど、この作品のことを好きになってくれるのは結構嬉しい…ということで、冴草さんの言葉にうなずいてあげたのでした。


    (第2章・完/第3章へ)

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