新学年の初日とはいえ、二クラスしかない学校ですし生徒の顔もみんな見覚えのある子ばかりですから特に新鮮味もなく、今日は始業式とホームルームだけで終わりです。
「いちごちゃん、一緒にお昼を食べに行きませんか?」「少しはやいですけど、学食はもう開いているそうですわ」
「あっ、そうですね、そうしましょう」
 放課後になってさっそく声をかけてきた二人の女の子は、やっぱり初等部からこの学校に通っていて学生寮では同室の十河一菜さんに安宅冬華さんです。
 ふんわりとした感じのある髪が印象的な一菜さんはやっぱりそんな性格の、一方ちょっと背の高い冬華さんは少し勝気な子でしょうか。
 お二人とも学校の皆さんの中でも特に付き合いの深いお友達ですから、こうしてお昼を一緒にしたりしてます。
 あまねさんもお誘いしようかなって思いましたけど、彼女はこういうときになると決まって姿が見えなくなっていて、今日もやっぱりすでに教室から姿を消していましたから、三人で教室を後にしました。
 下校したりする生徒たちで賑わう、やっぱりちょっと古くって歩くと木のきしむ音のする廊下…二年生の教室は二階にありますから一階へ降り、渡り廊下を伝って隣の校舎へ移ります。
 こちらの校舎は一転して立派で近代的な建物になっているのですけど、そこをさらに抜けた先にある別の建物が学食になってます。
 学食は広々として開放的な、そして明るい雰囲気…壁面はほとんどがガラスになってまして外の満開な桜が一望できたりと眺めも抜群です。
 それだけでも普通のレストランとかよりずっといい雰囲気なんですけど、ここは味のほうも一流なんです…お昼はお弁当を作ったりパンを買って過ごすこともできますけど、やっぱりここで食べるのが一番です。
「意外と人がいますね」「ま、わたくしたちと同じ考え、ということでしょ」
 お二人の言葉どおり、午前中で学校が終わった割には、席が半分くらい埋まってました…学食の料理は無料ですし、ここで取るのが一番はやいですもんね。
 まださらに人が増えるかもですし、はやく料理を取って…南側、外にある池に面した席が空いてましたからそこで三人で座ります。
「冬ちゃんは、春休みはどう過ごしていらしたのでしたっけ…?」
「ええ、わたくしは両親とヨーロッパ旅行に行っておりましたわ。そういう一菜はどうしていらしたの?」
「えっと、私はのんびり実家で過ごしてたけど、やっぱり冬ちゃんやいちごちゃんたちに会えたほうがいいかな…」
「そ、そうですわね、それも悪くありませんし、今度旅行に行く機会がありましたら一菜さんたちもお誘いして差し上げなくもありませんわ」
 おいしいお昼ごはんを食べながら、昨日までの春休みにあったことなんかを報告しあいます。
「はい、それじゃいちごちゃんは何をされていらしたんですか?」
「…ふぇっ? えっと、私は…まぁ、いつも通りですよ?」
「まぁ…じゃあ、今年もご実家にはお帰りにならなかったのですか?」「相変わらずですわね…」
「はわわ、まぁ、気にしないでください、ですぅ」
 ちょっと呆れられたりもしちゃいましたけど、私はもう結構長い間実家には帰っていなかったりするんです。
 理由はまぁ、主に私の夢へ対する無理解、でしょうか…いえ、こうして学校に通わさせてもらっているのはありがたいって思ってますけど、だからっていって、ねぇ…。
 そういえば、石川先輩もそういったことで結構悩まれていたんでしたっけ…最終的にはああして夢を叶えられたわけですけど、どうやってご両親を説き伏せたのでしょう…?
「…いちごちゃん?」「ぼ〜っとしたりして、どうなさいましたの?」
「…ふぇっ? い、いえ、何でもないですよぅ?」
 いけません、つい物思いにふけっちゃいました…無意識のうちに食事も全て食べ終えちゃってますし。
「もう、いちごちゃんったら」「相変わらずどこか抜けてますわ…」
 うぅ、また呆れられちゃいましたけど、相変わらずっていうのはちょっと失礼です。
「あっ、でももしかして…まだ三学期のこと、引きずってるの?」「あっ、そうですわ、卒業式が終わってから妙にぼ〜っとしてることが多かったですわね…それがまだ直っていないのかしら?」
「そ、そんなことありましたっけ、全然覚えてないですよぅ?」
「もう、ありました…結構心配したんだから」「春休みも挟みましたし、もう立ち直ったものかと思いましたのに…」
「え、えっと…」
 自分ではあんまり意識していませんでしたから戸惑っちゃいますけど、そうだったんでしょうか…。
「結局、いちごは何を悩んで…あっ、生徒会の皆さまがたですわ」
 はっとする冬華さんの視線の先へ目を移すと、確かに高等部生徒会の皆さまの姿…私たちとは少し離れた席についてお食事をされてます。
 ふぅ、おかげで話がそれて…。
「学園祭は、生徒会の皆さまのライブの司会をいちごちゃんがしてましたっけ…」「そういえばそうでしたわね、一体どういう繋がりであんなことになりましたの?」
「…ふぇっ? そ、それはまぁ、色々ありまして…」
 はぅ、全然それてませんね…。
「いちごちゃん、相変わらず謎の多い女の子ですね」「ま、別によろしいんですけど…相変わらずといえば、やっぱり生徒会長はかっこよろしいですわね」
「ま、まぁ、私のことはいいとして、確かにそうですね」
 ふぅ、今度こそ話がそれてくれましたけど、金髪な留学生や小学生みたいな小さな子のいる役員さんの中でも、特に変わっているわけでもないのに一番目を惹く会長さんは確かにさすがです。
「凛々しくてスタイルも抜群、成績優秀でさらにあんな見事な歌声…高等部からの外部入学生とはとても思えませんわね」
 うっとりした様子でその生徒会長、草鹿彩菜さんを見つめる冬華さん…あの学園祭ライブ以来、ずいぶんとファンが増えたみたいです。
 まぁ、その会長さんの歌が、学園祭ライブの司会を私がしたきっかけなんですけど、もう終わったことですしいいですね。
「冬ちゃんは、会長さんが好きなの?」
「ばっ…そ、そういうわけではなくって、ただ憧れるとか、そういう意味でのことですわ。だ、第一、会長にはもうお付き合いされているかたがいらっしゃるでしょう?」
「あ、そういえばそうでしたっけ…昨年姉妹校となった学校の生徒会役員さん、でしたっけ」
「そうですわ。女の子同士でお付き合いされていらっしゃるのを堂々と公言されているなんてすごいですわ…って、そうでもないかもしれませんわね」
「はい、藤枝先輩の影響か、この学園では普通に受け入れられ、公表してる子も多いですよね…冬ちゃんは、そういうのどう思う?」
「ど、どう思うって、人を好きになるのに理屈はありませんし、別によろしいと思いますわよ?」
「そっか、よかった」
 えっ、一菜さんのその反応って、もしかして…そういうことなんでしょうか。
「あっ、もしかして…いちご、貴女、恋の病ってわけじゃないですわよね?」
「…って、ふぇっ? ど、どうしてそうなるんですっ?」
 てっきり冬華さんも同じことを思ったのかと思いきや、かなり意表をつく言葉を向けられちゃったんです。
「どうしてって、ぼ〜っとしてるときには誰か想い人のことを考えてた、とかそういうことではありませんの?」「あっ、そうだったんだ…その人が卒業して、さみしくなっちゃってたんですね…」
「もうっ、何を勝手なこと言ってるんですっ?」
「あら、違いましたの?」
「むぅ〜、違うに決まってますっ」
「何だ、いちごには仲のいい先輩がいた、って聞いたことがあった気がしたのだけれど…ま、よろしいわ」「あれっ、でもそれってどなたでしたっけ……でもでも、いちごちゃんが違うって言ってるんですから、きっと違うんですよね」
「は、はいです、全然違いますよぅ?」
「ふぅん、つまりませんわね…にしても、会長もそうだけれど、三年生の成績上位トップ二人が外部入学生っていうし、やっぱり少数精鋭という感じなのかしらね」「う〜ん、私にはよく解らないけど、でも私たちの学年の外部入学生っていったらお姫さまと王子さまな朝倉さんと浅井さんに留学生のラティーナさんだから、少し特別な雰囲気はあるかも…今年の新入生も、ちょっと気になるかも」
 お二人はすっかり別の話題に移っていきましたけど、私はその中に入っていくことは…冬華さんのひどい一言に反応することもできませんでした。
 いえ、その前の冬華さんの言葉…即座に否定はしたものの、よく考えたら全く間違いってわけでもないかも、っていうことに気づいたから。
 確かに、私はあの日…卒業式の日以来、ふとあのかた、石川麻美先輩のことを考えてることが多いかもしれなくって、それがまわりから見たらぼ〜っとしてるみたいに見えたのかも。
 でも…えっ、それが恋してたんじゃないか、ですか?
「…ふぇぇぇっ?」
「きゃっ…い、いちごちゃん?」「な、何なんですの、またぼ〜っとしてたかと思ったら、いきなり変な声あげて」
「あ…え、えっと、何でもないですぅ」
 そんなこと今まで考えたこともありませんでしたから、つい自分でびっくりした声をあげちゃったんでした。


次のページへ…

ページ→1/2/3/4

物語topへ戻る