結局外では練習できなくなっちゃって、振り出しに戻っちゃいました。
学校の外に出ればカラオケのできるところとかでありそうなんですけど…そんなところに毎日通うなんて、ちょっと落ち着かないです。
なら校内でいい場所はないかな、ってなるわけで…。
「…はぅ、そんなとこ、あるわけないですよね」
諦め切れなくって放課後に校舎を回ってみますけど、ため息が出ちゃいます。
足は古い木造校舎な教室棟から新しい特別教室棟へ向きますけど、三階の音楽室からは吹奏楽部の演奏が聞こえます。
そんな感じで、どの教室も何かしら使われてますし、ましては誰にも知られずひっそりととか…まぁ、無理ですよね。
「はぁ…って、あぅ、ぼ〜っとしちゃってました」
ついつい廊下の端まできちゃいました…けど。
「…あれっ? こんなとこに扉がありますぅ」
他の教室からも大きく離れた、陰になってるところに窓もなければ何も書かれてない扉があるのに気づきました。
「まぁ、倉庫か何かでしょうけど…」
そんな気持ちで何気なくその扉を開いてみたんですけど…。
「…ふぇっ?」
思わず変な声が出ちゃいました。
だってそこ、声の練習をするのに最適ともいえそうな場所だったんですから。
中に入って、扉を閉めて、明かりをつけて…と。
「やっぱりここ、スタジオっぽいですね」
ひっそりあった扉の奥は、マイクスタンドのある小さな部屋。
窓のない密閉された空間なんですけど、もしかして…理想の場所、見つけちゃいました?
「見た感じ、音漏れもしなさそうですけど…」
もうちょっとよく調べたほうがよさそう、と…さらに奥へ続く扉がありました。
早速そっちを開いて…って!
「ふぇ…ふぇぇっ?」
さっきよりさらに変な声が出ちゃいましたけど、だって…。
「う〜ん、これ…一体誰が使ってるんでしょうか…」
偶然見つけた、理想の練習場所。
一つ奥の部屋は色んな機材とかの並ぶ、収録までできそうなスタジオになってたんですけど、明らかに人が使ってそうな気配がありました。
ですからそこは使えない…って考えそうなところなんですけど、それでも私は放課後になるとその場所へきちゃってました。
それは、そこを使ってるはずな人に会ってみたいから、っていうのが大きいです。
だって、その部屋…アニメのDVDやドラマCDなんかが置いてあって、それだけでしたらアニメ好きな人が使ってるのかなってとこでしょうか。
それだけでも十分気になるわけですけど、そこには声優さんの雑誌、さらには声の練習方法とかの本まであったりして、ここまでくるともしかして…って思っちゃいますよね。
「私と同じこと目指してる人が、この学園にいるんです…?」
そうなると気になっちゃって、会ってみたいってなるわけですけど…誰もこないんです、これが。
放課後、午後七時近くまでいても誰もこなくって…一ヶ月近く、そんな状態が続いてます。
「…でも、誰もきてない、ってわけじゃなさそうなんですよね」
試しに置いてあるものをいじったり、冷房の設定温度を変えたりしてみると、次の日にはそれが変わったりしてますから。
ということは放課後以外の時間にきてるっぽいですけど…休日には私がきてませんし、でも平日でも次の日にそういうことになってましたし、う〜ん…。
「…まぁいいです、誰もこないんでしたら今日も練習に使わせてもらっちゃいましょう」
まだ見ぬ同じ夢を目指す誰かさん…いつかお会いできるといいです。
-fin-
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