第0.2章

「結局、いちごはどの部活にも入らなかったんですのね」「いちごちゃん、何でもできるのに…」
「わわっ、何でもできるは言い過ぎですぅ」
 ―お昼休みの、いつも一緒にお食事してるお二人…冬華さんと一菜さんにそんなこと言われちゃって。
 私…松永いちごが中等部から高等部に進んで一ヶ月くらい、お二人の言葉通り部活には入らなかったんです。
「でも、もったいないのは確かですわね。てっきり、私たちと一緒にテニス部へ入るかと思っておりましたのに」
 中等部時代はそうしてましたし、そう思われて当然でしたかも…ちなみに一菜さんはマネージャです。
「はぅ、ごめんなさいですぅ」
「いえ、別に謝ることではありませんわ。ただ、帰宅部になるなんてもったいないですわね、って」「うんうん、もったいない…」
「わっ、どこにも入らないとはいっても、何もしないわけじゃないですよぅ?」
「あら、そうなんですの?」「いちごちゃん、何かするの?」
 お二人に首を傾げられちゃいましたけど…う〜ん、どうしましょう。
「…そ、それは、ないでしょですぅ」
 結局、そんなお返事をしちゃいました。

 お二人に言えなかった、私のしたいこと。
 それは…声優になるための活動をはじめようかな、っていうことでした。
 私はアニメとかが大好きで、自然と声優さんになりたい、って夢を抱く様になっていったんです。
 高等部に入るくらいの年齢になったんですし、そろそろ夢を現実にするために行動したいな、っていうことで自由に動ける時間を作ったわけです。
 …えっ、別に隠す様なことじゃないんじゃ、です?
「まぁ、それはそうなんですけど…」
 私のいるこの学校、私立明翠女学園はいわゆるお嬢さま学校なんですけど、それが関係してか、少なくても私の周りにはそういうことに興味がある子がいないんです。
 ですから何だか言い出しづらくって…演劇部とかに入らなかったのもそういうこともあるからでした。
 とにかくそういうわけであえて部活動に入らなかったわけなんですけど…。
「問題はこれから、どうするかですね…」
 放課後、教室から一人窓の外を眺めながらそうつぶやいちゃいます。
 他の子たちはもう部活に行ったり帰ったりしてますからここにいるのは私一人。
 まずはやっぱり練習とかしたいわけですけど、それってつまり声を出さなきゃいけないわけで…今は誰もいないとはいっても、教室とかでできることじゃないです。
 自分の部屋…も、学生寮なうえ相部屋なのでやっぱり無理なのでした。
「う〜ん、はじめの段階でつまずいちゃいました…」
 そんな都合のいい場所、それこそアニメとかのお約束みたいに屋上とか…。
「困りましたね…って、あ…」
 ふと、ずっと窓の外に見えていたものに気づいてはっと思いつきました。

「う〜ん、ここは…練習できないことは、ないです?」
 教室から目についたのは、学園の広い敷地のほとんどを占めている森…みたいになってる桜の木たちの中。
 本当にとっても広くって、校舎とか人のいるところから大きく外れた場所に入り込めば大丈夫かも、って思ったわけです。
 実際に入ってみると、何もなさそうな中に温室があったりと、意外と人がきそうな感じで…明らかに周りに何もない場所で立ち止まったところでそうつぶやいちゃいます。
 ちょっと不安を覚えないこともないですけど…贅沢は言ってられません。
「そうです、私は声優になりたいんですから」
 ですから、まずは基礎から練習しなきゃ、です。

 実際のところ、あの場所での練習は誰かに見つかるかも、って点では大丈夫そうでした。
 そんな環境ではじめて、しっかり声を出して練習できたりして…ようやく第一歩を踏み出せた気がして、ちょっと気分が高まっちゃいます。
 そう、夢に向かって一歩歩みはじめた…んですけど。
「いちごったら、最近妙に沈んでいますわね」「何かあったの?」
 お昼休み、いつものお二人にそんな声をかけられちゃいました。
「…ふぇっ? な、何でもないですよぅ?」
「本当かしらね? ま、雨が続きますから気が滅入りがちになるのは解らなくもないですけれども」「うん、そうだよね…」
 冬華さんの言う通り、ここ数日は雨の日続き…梅雨に入っちゃいましたからしょうがないといえばそうなんですけど、でも残念です。
 それはもう、雨が降ってたらさすがに外で練習はできませんからね…はぅ。


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